『別れと驚愕』
冬の間に溜め込んだ、ダンジョンから採集された素材の数々を運ぶため、稀に見る規模の隊商が組まれ、その護衛をする冒険者のひとりとして募集に応じたマティアスは、その後あるダンジョンの攻略に向かう予定である。
「フェリア……
昨年は楽しかった。
どうしても、一緒に来ないのか?」
マティアスはギリギリまで同行を願っていた。
「うん、色々作るものもあるし、今回は腰を据えてかかりたいんだ。
でもその次のダンジョン攻略は行きたいな。
その時は声をかけてくれる?」
「ああ、ああ約束だ」
「……じゃあ、いってらっしゃい」
さようならは言わない。
ふたりにとって再会は決定事項なのだ。
こうしてマティアスを見送ったオフェーリアは、それから暫く平穏な暮らしを送っていたのだが、夏が過ぎ秋も深まる頃、たまたま顔を出した都で青天の霹靂と言える出来事が起きたのだ。
「は?
もう一度仰って下さい」
今オフェーリアは宮殿の謁見の間、マザーの御前にいる。
そして彼女から申し訳なさそうに言われた事を脳内で反芻していた。
「オフェーリア。
そなたには再び輿入れしてもらわなければならぬ。
本来ならこのようなことはあり得ないことなのだが……
すまぬ、この通りじゃ」
マザーが頭を下げるなどそれこそ緊急事態だ。
オフェーリアは慌ててにじり寄り、顔を伏せた。
「そなたも知っての通りここ数十年、そなたを最後に純血の魔法族は生まれておらぬ。
人間の元に輿入れした魔法族の娘が産んだ混血種も同じじゃ。
この状況、人間どもが古の約定を盾に嫁を寄越せと煩くての。
申し訳ないが、そなたも対象になってしまった」
マザーの命令ならしょうがない。
甘んじて受け入れるしかないのだが、同時に『そなたも』というところに引っ掛かった。
「あの、今回私だけではないのですか?」
そのあと、あと3名の名を聞いたが、彼女らはオフェーリアより100歳以上年上の者たちばかりであった。