『冬から春へ』
ダンジョン都市が雪に包まれる頃。
前回ダンジョンに向かって丸一年を迎える中、オフェーリアは結界石の量産に忙しい思いをしていた。
これは15階層以降に進む場合、必須のアイテムなのだ。
結界石はそれなりの値がするが、15階層より下に潜る中級冒険者には多少無理をしても手に入れたいものである。
「見た目は普通の石と変わらない。
魔導具としての燃費もそれなりなので、確認を怠らなければひと冬保たせるのもさほど難しくないでしょう」
そして中級冒険者でもパーティーで金を出し合えば、届かない金額ではない。
オフェーリアの【結界石】は、それを手に入れたいと思う冒険者が列を成すほどのヒット商品となった。
「結局、冬の間は一回もダンジョンに潜れなかったわ」
すっかり春になり、森も薬草の新芽が出てもう少しすれば新人たちに向けた薬草採取の依頼が大量に出る季節となった。
オフェーリアもこんなふうに愚痴ってはいるが、ドラゴンの素材を使った今まで作ったことのない薬の調薬や、魔導具の製作に夢中になっていたのだ。
そんななか、予想はしていたがそれよりもずっと時期が早かった……マティアスの次の仕事が決まり、今2人きりの壮行会を開いている。
「俺は新調した魔導具のテストに中級層まで行ってきたが、想像以上の出来だった。
なぁ、本当にあんな取り引きで良かったのか?」
「もちろんよ。
こちらの方がぼったくりみたいで恐縮しちゃうわ」
ダンジョン攻略の最大の目玉商品である古龍は、事前の契約によりオフェーリアのものとなった。
だがその他の狩った魔獣はオフェーリアの引き取りたいものを除外して、すべてマティアスに渡す事になっていた。
このなかのいくらかをオフェーリアが買い取ることとし、その代金として魔導テントと防御魔結晶、それと結界石を渡したのだ。
「俺はフェリアと組むまで、さほど魔導具に拘ることはなかったんだが、今回は本当に目から鱗が落ちたよ。
高度な魔導具で環境を整えると、これほど身体的に違うのかと思ったな。
変な痩せ我慢はまったく無駄だと思い知ったね」
何よりも、結界石と魔導テントを併用することで、ソロであってもぐっすりと眠れることが大きい。