『ダルタン家にて』
「と、とりあえずもうこんな時間だし、明日にしたらどうだろう?
明るいときの方が細部もよく見えるだろうし」
逸る気持ちを抑えて、ジャンが言う。
そう、どちらにしてもこの場では狭すぎるし、今はもう夜なのだ。
「そうね。
私もゆっくりしたいし、ダルタン、またあなたの家の庭を借りるわよ」
「じゃあ俺は宿をとるわ。
フェリア、明日ギルドで会おう」
「了解。
昼過ぎでどうかしら?」
「ああ、俺はそれでいい」
まるで周りを無視して話を進める、オフェーリアとマティアス。
もう一年近くこの調子だったので、自分たち以外への配慮は抜け落ちてしまっている。
「では町に戻りましょうか。
ダルタン、行くわよ!」
せっかく出迎えた他の者たちは置き去りである。
「姉御、ドラゴンを狩ってきたってのは本当か?」
ダルタンの家では通いの家政婦の手によって、ささやかな祝いの宴が用意されていた。
「古龍のことを言っているの?
最下層にいた、あれのことなら、そうよ」
「本当なのか〜」
ダルタンは感激のあまり、泣き笑いの表情をしている。
「“ドラゴン”と言えばたくさん狩ってきたわよ。
ただドラゴンはマティアスと山分けの約束をしているから、そのあとなら小さいのを1匹くらいあげてもいいわ」
ダルタンはとんでもないとかぶりを振る。
そんなことになれば周りからどのようなやっかみを受けるかわからない。
「そうなの?困ったわね〜
じゃあこれならどう?」
そう言って取り出されたのは、手頃な大きさの角兎だ。
「焼いてよし、煮込んでよし、このサイズなら家でも解体できるでしょう?」
オフェーリアはダルタンが解体できるのを知っている。
今は防衛隊の隊長であるダルタンだが、しがない冒険者だった時があったのだ。
「おお、この肉付きはいい感じだ。
ダンジョン産の魔獣は美味いんだよな」
少年のような笑顔で受け取ったダルタンが、先に台所の熟成棚に角兎を吊るした。
血抜きが済んでいるのは承知しているので角の根本を結えている。




