『目に見えないリス』
何度となく、向かってきた魔獣を屠りながら前進していた2人は警戒を怠ることなく素材の採取も行いながら下の階層への階段に向かっていた。
「今日は階段まで辿り着けなさそうね。
ちょうどこのあたりは周りが開けているので、ここに天幕を出しましょうか」
異空間収納から天幕を取り出そうと【探査】から意識が外れた瞬間、オフェーリアの横っ腹に衝撃があり、何歩かたたらを踏んでしまった。
『襲撃?!』
オフェーリアを庇うようにしてマティアスがバスターソードを構えた。
彼は次の襲撃に備えてあたりを見回していたが、オフェーリアは素早く魔法で結界を張ると新たな魔法【ミスト】を発動させた。
細かい“ミスト”で覆われた結界内の一角、今まで何もなかった場所にぼんやりと輪郭が現れ、それは体長50cmほどのリスに似た魔獣の姿をとった。
ただ、そのリスに似た魔獣には体長と同じくらいの長さの角があり、それで攻撃を仕掛けてきたようだ。
マティアスが器用にも生かしたまま捕まえたそれは、見えてさえいればそれほど危険な魔獣には見えない。
「なるほどね〜
消姿迷彩とでも言うのかしら。
非力なものが自分を守るために手に入れた特殊技能なのね。
……これは対処法さえわかっていれば問題無さそうよ」
幸い【探査】には反応するようだ。
野営などで結界を張る時は、一度中を【ミスト】によって確認するべきだろう。
「これって食べられるのかしら?」
マティアスにぶら下げられたままの角リスは、言葉がわからないなりに拙い事を感じ暴れ始めた。
「試してみましょうか」
マティアスが首を捻って屠ると角を落とし、簡単に皮を剥いてオフェーリアが【ファイアー】で念入りに炙る。
最後に【鑑定】して毒などがないか確かめてから一欠片、口にした。
「うん、イケる」
食材決定である。