『パンがゆ』
「パンがゆを作ってきたの。
お腹が減っているだろうけど5日も絶食してたから、これくらい軽いものから食べて胃を慣らしていきましょう」
オフェーリアの手を借りて体を起こすと、クッションを挟んで姿勢を整えた。
「何から何まで悪いな。
……悪いついでに聞きたいんだが、俺の傷はどうなった?」
意識が戻ってから、脇腹の傷の痛みがまったくないことに気づいていた。
まだ自分で見たわけではないが、触ってみたところ傷があったはずの場所には何もない。
「ポーションで治した……と言いたいところだけど、実際は傷は私が縫って、ポーションは補助的に使っただけよ。
本来はポーションだけでよかったのだけど、あなたの場合自信がなかったから……
わかっているんでしょ?
私があなたの“種族”に関して疑問を持っているって事を」
「いつからだ?」
オフェーリアの“種族”という言葉を聞いた途端、マティアスの瞳に剣呑な光が宿った。
「初めて会った時から。
木から木へ飛び移るあの姿はたとえ身体機能上昇の魔導具を使っているにしても説明がつかない能力だったわ。
それとダメ押しは先日、あれだけの防寒装備をしていて凍え死にしかけたのだもの、それでなんとなく、ね?」
「フェリアが察する通り、俺は獣人とのハーフだ。
何の獣人かは、想像に任せる」
「でもその“種族”の特性がマティアスの命を救ったんだよ。
あの出血量で生きてる方が不思議だわ。
これは想像の域から出ないけど、体が休眠状態になって、最低限の生命維持だけを残していたのだと思う。
……普通の人間ならここに辿り着けずにとっくに死んでたと思うよ」
真っ直ぐな視線を向けてきたオフェーリアがにっこりと笑った。
「だからポーションだけではちょっとね。
飲ませる方だって増血剤を優先したかったわけだし」
「……」
「マティアス、あなたは今まったく血が足りてない。
動けないのはそのせいよ。
だからしばらくの間は血を増やす事を優先すること。
さあ、まずはこれを食べて」
パンがゆはほんのりミルクの甘味と僅かな塩味、そして優しい味がした。