『負傷』
「マティアス!?」
慌てて結界を解き、マティアスをこちら側へ移すとまた結界を閉じる。
とりあえずこの場で彼の容態を診ることにした。
かなりの出血を伴っているので外傷なのは間違いない。
オフェーリアはナイフを使って慎重に衣服を裂いていった。
「これは刃傷?……いえ、違うわね」
大量の真水を精製して傷を良く洗う。
右脇腹をザックリと切り裂いた傷は、幸いにも内臓を傷つけることなく、太い血管を損なうこともなかったが、ここに戻ってくるまでに相当血を失っている。
「マティアスがこんな傷を負うなんて、一体どんな魔獣なの?」
消毒用のアルコールで患部を消毒し、こういう時のために作って置いた針に糸を通して縫っていく。
「どうにか血は止まったけど、出血量が多いのが心配ね」
魔法族の、人より遥かに進んだ医学にしても、失った血を増やすのは増血剤を投与するくらいしか方法がない。
あとはとにかく食べること。
だが今はマティアスの体力に頼るしかない。
オフェーリアは増血剤を口移しで与え続けた。
苦労して開けた目蓋、その目に映ったのは見慣れた天幕の天井、そして心配そうな雇主の顔だった。
「フェリア?」
「あぁ、やっと目が覚めたのね!
マティアス、もうこのままだったらどうしようと、ずいぶん心配したんだから!」
「俺は……」
「酷い怪我をしてここに戻ってきたの。5日前の事よ。
ねえ、誰にやられたの?」
マティアスは一瞬、聞かれたことが理解できなかった。
それもやむをえない。
彼にとってもそれは一瞬の出来事だったのだ。
「……悪い。
考えを整理させてくれ」
未だ体を動かすことも叶わず、身を起こすこともできない。
オフェーリアに吸い飲みで水を飲ませてもらってため息を吐いた。




