『一期一会』
マティアスは16階層の通り方を詳しく説明した。
特に、吹雪が吹き荒れている時は魔獣を数頭、できれば4〜5頭確保してダンジョンに与えるように言ったのだ。
「それは……
貴重な情報はありがたいが、俺たちに言ってよかったのか?」
「帰りも幸運に恵まれるか、わからないだろう?
それにこれは俺たちが上に戻ったらギルドに報告することだ。
主も構わない、と言っている」
これは、姿を見せない主とやらの、ちょっとした気まぐれなのだろう。
リーダーはそう思って、ありがたく忠告を受けることにした。
「何から何まで、悪いな。
この恩は忘れないぜ」
2人は握手して別れることになった。
……この先、再び相見える事はあるのだろうか。
「行ったようね」
天幕の中ではオフェーリアが書き物をしていた。
この分では今日も採集三昧のようだ。
そんなマティアスの心を読んだように、話しかけてきた。
「マティアスも退屈でしょ?
私は適当に採取するからあなたも狩りをしてきたら?
今日中に戻って来るなら他の階層に行ってきてもいいわよ」
本来なら依頼者から離れるなどあり得ないのだが、オフェーリアの実力を知っているマティアスはその提案をありがたく受けることにした。
「では行ってくる。
フェリアも外では十分気をつけて」
オフェーリアの防御に関しては、これはマティアスも知らない事だが、ミノタウロスの直撃を受けてもびくともしない防御魔法をかけている。
それに採取場所全体を結界で囲むこともできるので、思いの外安全なのだ。
「遅いわね……」
マティアスが出ていってから半日以上、もうとっぷり日が暮れて、今は深夜に差しかかっている。
オフェーリアもマティアスも、2人ともが軽い気持ちでの外出だったので連絡用の魔導具は持たせていない。
こうなると良くない方に思考が向かいがちだが、オフェーリアは務めて前向きに考えようとしていた。
「!!」
その時、ごく小さな結界への干渉を感じて天幕を飛び出すと、そこには血にまみれたマティアスが倒れ伏していた。