『訪問者』
30階層の、偶然だったが野営地に選んだ場所は居心地が良く、連泊することにした結果、予想もしないことに遭遇した。
何とこの階層で他者と邂逅することになったのだ。
野営地は改めてウッドハウスと天幕、そしてマティアスの持ち物であるテントが結界で囲まれていた。
そこで食事時以外マティアスは見張りの番に立ち、あたりを監視していた。
そして近づいてくる一行を発見し、ウッドハウスのドアをノックする。
これでオフェーリアがどこにいても、異常を知らされることになっていた。
「今度は何事かしら」
ノックしてしばらくするとドアが細く開かれ、オフェーリアが顔の半分を覗かせた。
「悪い。
客が近づいてくる。
……フードをかぶった方がいい」
「客?
と、言うことは人が近づいてくるのね?
わかった、支度するわ」
間もなく結界の前に立った“客”は2パーティー11人。
彼らは有名なA級冒険者揃いのパーティーだった。
「御免、こちらはギルドの中継地か何かだろうか?」
クシャクシャの髪と伸び放題の髭に囲まれ、露出している顔の部分は極端に少ない、そんな男が一歩前に出てマティアスに話しかけた。
「いや、ここは私物で俺の雇主のものだ。
使用者限定の魔導具で、中に入ることはできない」
それを聞いて不満の声が上がったが、すぐにリーダーらしき、声をかけてきた男に抑えられた。
「そうか、では隣で夜営してもいいだろうか?」
マティアスは後ろを振り返り、オフェーリアと視線を合わせた。
彼女はすぐに頷いてくる。
「主が構わないと仰っている。
ただあまり騒がないでもらえばありがたい」
彼らは疲れ果てていたので一斉にその場に座り込んでいった。
もう完全に動かなくなったものもいる。
「おい、おまえら!
まずは野営の用意だ!
動かなくなるのはそれからだ」
リーダーの髭もじゃともう1人が火を熾し、テントを張る。
ちゃんとした見張りもいない状態なので、マティアスはしばらくその場に残っていた。