『真実』
「さて、これからは本音のお話としましょう。
マティアス、あなたも気づいているのでしょうが、私は【転移】することができるの」
大きく、マティアスが息を呑む。
「ただあなたが想像しているのとは違って、中途半端なことに『行ったことのある場所に、自分だけ』が転移できるの」
「それでもすごいことだ」
マティアスは感動しているようだ。
「なので、補給に問題ない私たちは、あなたの言う通り最下層の攻略も可能だと思うわけ」
「じゃあ、承知してくれるんだな?」
マティアスにとっても、これは思っても見ないチャンスだ。
今回を逃せば2度と機会は巡ってこないだろう。
「ええ、契約を延長するのなら一緒だもの。
でも、2人にとってどうにも歯が立たない魔獣が出たら、撤退するわよ」
「もちろんだ。
俺だって命は惜しい」
「では、ギルドでの依頼契約と違って口約束だけど、構わない?」
こうなると報酬がどうの、と言う問題ではない。
金銭ではなく名誉の問題なのだ。
マティアスは躊躇なく頷いた。
「ウッドハウスは私の家なのだけど、この天幕は都の私の部屋につながっているのよ。
なのでここで寝む場合は、あっちの部屋で寝てるわけ。
もちろん私以外は侵入不可ね」
「それでここの浴室は俺に貸してもらえたわけだ」
変に納得しているマティアスだが、先ほどから気になっているのは、オフェーリアの種族だった。
「マティアスが今、何を考えているのか、その顔に書いてあるわよ」
オフェーリアが揶揄って笑った。
「詳しくは言えないけど、少なくとも【ハイエルフ】ではないわ」
そう【転移】の魔法など一介のハイエルフに扱えるものではない。
「これ以上は詮索しないでちょうだい。
まあ……あなたの推測は間違ってないと思うわよ」
マティアスはまた頷いた。