『肉食』
「大きい魔獣だね〜」
浮遊して近づいてきたオフェーリアが、倒れ伏したデフトモントの背に降り立った。
「とりあえず、これもこっちで預かっておこうか?
小さい方はどうする?」
「こっちは肉を取りたいので、これから簡単に解体する。
……今、この近くに他の魔獣はいるか?」
「すぐ側にはいないね。
でも気をつけないと血の臭いを察知して寄ってくるよ」
そこでオフェーリアはマティアスの許可を得て血抜きを行い、解体をしやすくした。
一応周りに結界を張り、マティアスの作業を見守る。
「首は落ちているし、肉を得るためだけだから内臓は触らない。
少し歯応えはあるが、こいつのもも肉は美味いんだ」
慣れた手つきで足先から毛皮を剥がしていくスピードは、まるで本職のようだ。
あっという間に剥き身となった後脚が姿を現し、最後はマティアスの一閃で肉屋に吊るしてあるような足肉になってしまった。
「このもも肉は焼いて食ったら美味いんだ。
悪いが頼めるか?」
「もちろん。任せてちょうだい」
大の男でも持て余すような肉塊を、いとも簡単に持ち上げたオフェーリアは、さっそく作業台を取り出した。
「きれいな霜降りね!
これは美味しそうだ。
まずはシンプルに塩胡椒でいきましょうかね」
取り出した肉切り包丁で、見事な手際で骨から外し、ステーキ用にカットしていく。
ところで本来、食肉は熟成させてから食するものなのだが、事魔獣に関してはその域に収まらない。
なのでさばきたてを美味しく食べることができるのだ。
「この魔獣は初めて食べたわ。
旨味がすごい……これは見つけたら最優先で狩っちゃいそう」
肉焼き専用のフライパンを使って、ていねいに焼かれたステーキはマティアスが言う通り美味だった。
彼は少し歯応えがあると言っていたが、それほど気になるものでもない。
最初に決めた通り塩胡椒だけの味付けだったが、それで充分だった。
「これは、明日はタレにつけて焼きましょう」
濃い目の味付けで野菜と共に食する。
今は一切の生野菜に見向きもせず、肉だけを食べているマティアスを見て言った。