『一夜明けて』
「フェリア、よかったのか?」
マティアスは、元傭兵団に結界を提供したことを言っている。
「正直言って迷ったわ」
だが今回は実際に、マティアスが低体温になりそうになったのを目にしてしまっている。
オフェーリアは今日に限っては、眼前での凍死はごめんだった。
「さあ、面倒は終わりよ。
もう休みましょ」
マティアスが去った結界内ではリーダーの他の全員が忙しく動き始めた。
2つ目、3つ目の火を熾すもの。
その火に鍋をかけ、雪を溶かし湯を沸かすもの。
干し肉を削り、乾燥野菜などとともに湯に投入するもの。
他にはテントを張るものなどもいる。
「助かった〜
これの持ち主がいなかったら、俺たち今頃あの世行きよ」
「俺はもう少し便宜を計ってくれてもいいんじゃないかと思うがな」
若手たちは好きなことを言っている。
「馬鹿なことを言うんじゃない。
こんな希少な魔導具を貸していただいて、命を助けてもらった。
これ以上望むのは無礼以外の何ものでもないぞ」
それまで黙っていたリーダーが大声で若手を諫める。
彼が見つめる先、結界の外ではより一層吹雪が酷くなっていた。
昨夜、就寝が遅かったオフェーリアが起き出してくると、怒りと困惑をないまぜにしたマティアスが待ちかねていた。
「フェリア!やられた!!」
昨夜、結界石の情報については撹乱してあったものの、マティアスの仕草を見ていたものがいたのだろう。
今朝は朝寝した彼が起きてすぐ見回りに行ったところ、男たちと共に結界石までが消えていたのだ。
「すまないフェリア、俺の責任だ」
怒りのあまり、こめかみのあたりの血管が膨らみ、ヒクヒクしている。
「大丈夫よ、マティアス。
私が何の対策もせず渡したと思う?」
その時、オフェーリアの美しい貌が邪悪な笑みに歪んだ。