『新たな客?』
ひと言も発せず、ひたすら貪り食っていたマティアスの手が止まり、そして咀嚼が止まった。
嚥下したのち、彼は大きく深呼吸してオフェーリアに視線を向けた。
「すまない、フェリア。
情けないところ見せちまったな」
「情けなくなんかないよ。
むしろ無事でよかった」
そう言ったオフェーリアは、マティアスが陥っていた状態をていねいに説明した。そしてその状態がさらに悪化して起きる最悪の状態を、言葉を選ばず正直に説明した。
「おっかねぇ……」
「もうあなたは大丈夫よ。
でも今日は暖かくして、早い目に休みましょう」
この後オフェーリアは、マティアスが普段飲んでいるビールやワインなどよりずっと酒精の濃い酒を取り出し、小さなグラス一杯を差し出した。
「これなら身体を中から温めてくれるわ。
グッと一気に行っちゃって」
オフェーリアの言う通りにすると……さすがのマティアスもむせてしまう。
「こいつは……ずいぶんと強い酒だな」
「お腹の中がホカホカするでしょ?
さあ、もう寝ちゃいなさい」
魔法族特製の2枚合わせ毛布をもう1枚取り出し、マティアスのベッドに追加する。
魔導ランプの灯を落として、ストーブは1台のみをつけたままにしておいた。
今夜はこのまま、平穏な夜が訪れるはずだった。
オフェーリアはダイニングテーブルで本を読んでいた。
何となく奥に引っ込む気分になれず、ぐずぐずと過ごしていたのだが、そんな彼女は結界の外に気配を感じた。
続いて結界が干渉される。
おそらく以前と一緒、得物で叩いているようだ。
「鬱陶しいわねぇ」
そしてそこで、マティアスが飛び起きた。
「!!
侵入者か!?」
「大丈夫、結界は突破されてないわ」
「ちょっと見てくる」
素早く装備を着け始めたマティアスを、オフェーリアは止めた。
「姿を見せると煩いわよ。
ちゃんと覗けるようになっているから、ほら」
ドアの横に小さな覗き窓がある。
それを覆う蓋を外すと、結界の外にたむろする冒険者たちがいた。
「うん、前と一緒ね。
見てみる?」
オフェーリアに代わって覗いたマティアスの目に飛び込んできたのは、寒さに身を震わせながら何ごとか叫んでいる冒険者の集団だった。