物語は急に始まる
『自分の事を自分で普通という奴は、大抵普通じゃない』
俺は三田神道。そこら辺にいる極々普通の高校生だ。
そう、そこら辺で出現するNPC並みの『普通』の高校生だ。しつこいようだが、大切な事だからもう一度宣言しておく。
誰がなんと言おうと、俺は特徴も何もない、ただひたすらに『普通』の高校生だ。
「私、ずっと神道君の事が好きでしたっ!!」
なのにどうして……
(どうして校内一の美少女に告られてんだよぉぉ!!)
神宮天子。
通称「天使様」と呼ばれ、学年、いや学校、いいや全人類が認めるであろう、美貌を持つ、全人類中最強の女子高生。
それが神宮天子という女だ。
そして、その世界最強兵器並みの美貌を持つこの女が、このモブキャラ総選挙第一位に輝く普通の俺に告白するなんていう事は、常識的にも天文学的にも、世界中の天才達がどう考えたところであり得ない確率のはず。
世界が明日滅びる可能性の方が圧倒的に、絶対に高いはずだ。
「私と……いえ、私のパートナーになってください!!」
「……パートナーって、何?」
「婚約者です」
「……」
(ふっざけんなぁぁぁぁぁ!!!!!!!!)
意味わかんねぇよ!!! なんだよ、婚約者って!!! つーか、何で婚約者なんだよ!!!
(まずは健全なお付き合いからだろうがぁぁぁ!!!)
……落ち着こう。落ち着くんだ、俺。これはきっと何かの間違いなんだ。うん、そうだ。悪い夢でも見て
「神道君?」
(今話しかけんなやぁぁぁぁ!!!!!)
……とりあえず、何か適当に言っとかないとまずいよな……
「その、婚約者っていうのは、一体どういう意味で言ってるのかなぁ?」
その至極真っ当な俺の質問に、天子は不思議そうな顔をしながら小首を傾げる。
「夫婦になるという意味ですけど……」
「っはは、そ、そうですよねー」
(何が「そうですよねー」だぼけぇぇぇぇ!!!!!)
ちげぇだろ、そうじゃないだろ!! 何で俺なのかを聞くべきだろ!! 俺のバカ!! アホ!! ハゲ!!
(いや、ハゲは違うか……)
冷静になろう。まずは現状確認から。
今俺は
「あの、神道君?」
「ああ、ちょっと待って。今脳内回路が混み合ってるから」
「は、はぁ」
まあ、とりあえず俺は告白されたわけだ。で、そのまま婚約を申し込まれた、と。
それが現状なんだな、よし、理解した。
「天子」
「は、はい、何でしょう」
俺の呼びかけに、突然天子はガチガチに緊張しながら応えた。
本当になぜなのかが気になってしょうがない訳でもなく、正直もの凄くどうでもいいのでここはスルー。
「何で俺なんだ?」
よし、いいぞ、いい感じに落ち着いてる。この調子でいこう。
「あなたが勇者に選ばれたからです」
「は?」
今、何つった?
「これ以上の事はあなたが私と婚約してくださるならお話します」
「展開が早いとかそういう問題じゃねぇな」
「はい?」
……呆れた。
「お前、俺の事馬鹿にしてんのか?」
「い、いえ、そんな事はぜんぜん……」
「はぁ……」
どうやら俺は、本当に面倒な事に巻き込まれてしまったようだ。
「あのな、天子。そういう勇者とかっていうのはだな、二次元の中にしか存在しないんだよ」
「そ、そんな事はありませんっ!!」
「いや、でもだな……」
「……分かりました。そこまで言うのでしたら証拠を見せましょう」
証拠?
(あ、もしかして魔法とかそういう感じのやつ?)
天子は大きく息を吐き、そして大きく息を吸って唱える。
「エンジェルリフト!!!」
(お疲れ様です)
俺は静かに心の中で手を合わせる。合掌。
「はいはい、分かった、もうい………天子」
「はい、何でしょう?」
「……ここどこ?」
机がない。椅子もない。黒板も、それどころか……
(建物一つもねぇぇぇ!!!!」
なんなんだ!! なんなんだよほんとに!!! なんで何もねぇんだよ!!! てかそ
「ここは天界ですよ」
……天界ですか。
「へ、へぇ〜。き、綺麗な所だね」
何言ってんだよ、俺。
「はい、天界は常に清潔魔法を張ってありますから」
「へぇ〜、凄いね」
もう、わけわからん。なんか泣きそう。
こうしてよく分からんまま、俺の普通の日々は崩れ始めた。




