表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

エッセイ

いじめのキッカケと教師

作者: ウツロ

 今から三十年以上前、小学二年生だった私のクラスで事件がおきた。

 盗難騒ぎだ。A子の給食費が何者かに盗まれたというのだ。


 この時代、給食費を封筒にいれ、担任に手渡しするのが当たり前だった。当然A子もランドセルに入れて持ってくる。その封筒がなくなっていると大騒ぎだった。

 よくある事件だ。やがて犯人探しが始まる。

 そうして、疑われたのが私の友人のN君だった。

 彼はあまり素行が良い方ではない。いわゆるイタズラ小僧であったため、当然といえば当然だろう。

 しかし、問題は疑われたことではない。犯人ではないかと彼を吊るし上げた人物が担任だったのだ。


「君が盗ったんだろう? 素直に返しなさい」と言い放つ担任。


 皆の視線がN君に集まる。もちろん私も見た。

 そのときの、彼の顔は一生忘れないだろう。

 いがぐり頭のN君。ものおじせず、いつも大声で話す彼は、驚きの表情を浮かべていた。


 私は当然、彼が反論すると思っていた。

 だが、しなかった。ただ、唇を噛んでうつむいているだけだった。


 私は確信した。彼が犯人ではないと。

 それに知っていた。イタズラはしても、決して人の物を盗んだりしないことも。

 私は「ふざけんな!」と怒鳴った。

 いまでこそ死体蹴りが得意技だが、まだまだ正義感に溢れていた少年の私、ものすごい剣幕で「コイツは絶対盗ってない。何で疑うんだ!」と抗議したのだ。


 静まり返る教室。担任すら一言も発さない。

 N君は泣いていた。その日、机に突っ伏したまま顔をあげることはなかった。

 やがて、お通夜状態のまま放課後を迎える。担任も己の軽率さを恥じていたのだろうか口数は少なかった。


 私はN君と一緒に下校した。泣いている彼の頭をヨシヨシしながら歩いた。イガグリ頭はシャリシャリと音をたてた。


 これで終わり。以後、この話題がクラスでのぼることはなかった。



 だが、後日談がある。母親が話してくれたのだが、なんと給食費はA子のランドセルの中に残っていたのだ。

 教科書の間に挟まれていたのか、ポケットに入っていたのか、それは分からない。ただ、A子の母親が見つけたのだと。

 そして、この話は限られた大人たちだけの秘密にされた。当事者にさえ語られなかった。大人の配慮ってやつだ。

 実際私が聞いたのはずいぶん日が経ってから、三年に進学してからだった。


 なんと後味の悪い事件だろうか。

 確かにA子に対する配慮としては妥当だろう。真相を話せば彼女が責められるのは免れない。

 それは避けなければいけない。なにせA子は無くなったと騒いだだけで、N君を犯人扱いしたワケではないからだ。


 だが、N君はどうなる?

 彼の汚名は返上されないままではないのか?


 幸い、時がたつにつれ彼は元気を取り戻した。以前のように、こっそり女子の縦笛を舐めるまでに回復した。

 でも、そんなものは運が良かっただけだ。

 たまたま正義マンの私がいた。たまたま仲が良かった。たまたまA子が母親に話し、ランドセルから見つかり、それを隠さなかった。

 一歩間違えれば彼は盗人のままだったし、これをキッカケにして、イジメられていた可能性だってある。

 些細なことでイジメは始まる。教師のお墨付きがあればなおのこと。

(今では考えられないが、あの時代あからさまに生徒をえこひいきする教師がいた。家柄、新参者などで)



 その後、彼がどうなったかは分からない。三年の夏、私は転校してしまったから。

 願わくば、良き出会いに恵まれてますことを。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっと担任の先生が軽率すぎるように感じました。 ウツロさんがNくんが犯人でないと確信したように、もう少し教師がクラスのことを見ていても良い気がしますけれど、全員を把握することは難しいかも…
[一言] 今の教師はロリコン変態が大半みたいだね。 職場のパートの奥さんが三者面談で教師が胸をひたすらガン見してきたとか聞いたときは末期だと思ったね。 結局他の人も書いてるけど社会経験なく教師になっ…
[良い点] 教師って、地方公務員として社会経験があまり無いまま、教導者の立場を得て子供たちの上位になってしまうので、一部に勘違いした人がいるのも仕方ないのかなと思う反面、だからこそモンペ対策も含めて、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ