エピソード2
失恋を機に地元を離れることにした美歩は、雨の日に明人と出会った。
「ほら、上がって上がって。」
玄関の扉の向こうで躊躇する明人を美歩がそう言って部屋へと招いていた。
「あー、もう風邪ひいちゃうから早くして。」
美歩はそう言うと明人の手をつかみ、部屋へと引っ張り入れた。
そうして明人を廊下に待たせ、タオルを渡し、濡れた体をふくよう指示した。
「ありがとうございます。」明人はそう言ってタオルを受け取った。
美歩はそれに対し、いえいえと言い脱衣場で濡れた髪をドライヤーで乾かし始めた。
30分ほどたっただろう頃、脱衣場から出てきた美歩は廊下で待つ明人のもとへ向かう。
廊下にいる明人は、両肩からタオルを体を覆うように巻き付けて立っていた。
タオルからすこし出た肌が美歩の目に飛び込む。
「ちょっとなんで裸なんですか!?」
美歩は明人が上半身裸なのを知りつい大声になってしまった。
「すいません、少し寒かったので・・・。」
明人は申し訳なさそうにうつむき、震え気味に声を出して言った。
「わかりました、こちらに来てください!」
美歩はそう言って脱衣場へと案内し、着替えを出した。
明人がそれに着替え、脱衣場を出てリビングへ向かうと美歩が一人用の小さな折り畳み式
テーブルに熱いコーヒーを入れて待っていてくれた。
「どうぞ、インスタントのものだけどなかなか美味しいですよ。」
そう言って美歩が明人を通し、明人もそれに従って床に座りコーヒーを口にした。
「本当だ。美味しいですね。」
明人はそう言うと、2口、3口とコーヒーを口にした。
美歩はそんな明人を見届、自分のコップを見つめた。
中身はお茶だった。少しだけ透けて見えそうなコップの底を見ているかのように
美歩は一点を見つめながら明人に聞いた。
「で、どうしてあんなとこで泣いてたんですか?」
その質問に明人はピクリと反応し、また暗いトーンになりながら言う。
「好きだった女性に振られてしまいました。」
明人はそう言ったきり口を閉ざしてしまいそうだったため、美歩が追及した。
「好きな女性って彼女さんかなにかですか?」
コクリ、と明人はうなずいた。
「僕たちは地元が一緒で、一緒にこっちで就職しました。結婚も約束したばかりだったのに
彼女は・・・。」
明人はそう言って、再びうつむき、眉間にしわを寄せた。
嗚咽をだし今にも泣きだしそうな明人は、流れ出る涙を必死にこらえながら言葉をつづけた。
「僕は彼女だけを愛していました。だから、仕事だけにも集中してがんばれた。彼女も
もちろん僕だけを愛していてくれている、そう思ってた。なのに・・・」
そう言い切ると、いよいよ明人は涙をこらえられなくなっていた。
「浮気・・・ですか?」美歩は聞いた。
明人は顔をさらに強ばらせ、うなづいてみせた。
美歩はそれを聞きながら、お茶がもつ熱をコップから両手で感じていた。
あー、なんか似てる。
あの時の自分と似てる。
そう思いながら17歳のころの自分を明人に見ているような気がした。
「あの、失礼かもしれませんが、どうして浮気を、その彼女さんはされたんですか?」
美歩は言葉を選ぶみたいに明人に聞いた。明人は
「彼女が浮気しているのを知った時、僕は彼女を問い詰めました。どうして浮気をしたのか、と。
すると、彼女はハッキリと言いました。他に好きな人ができたと。」
その言葉に美歩も少なからず反応した。美歩もまた同じ経緯で振られていたからだった。
窓を叩く雨の音に思わず耳を傾けるような静けさが二人に流れる。
美歩は当時のとこを振り返っていた。




