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(一) 汗かき達磨と御用協会(一)

「こらっ!」

 鋭い叱声に、ざわついていた室内は水を打ったように静まり返った。

「人が演説を致しておる時に、何を無駄話をしておるかっ!」

 声を荒げたのは、元代言人(弁護士)で、現在は衆議院議員の大岡育造である。年の頃は四十を出ないであろう。眼鏡をかけ、黒の紋付袴を隙なく着こなした姿は、知的で堂々としていかにも「先生」風だ。衆議院では中央交渉会と称する会派に属しているが、先頃結成された政府寄りの政治結社、国民協会にも加わり、今はその弁士として熱弁を奮っていたところであった。

 満座の視線を一身に浴びた五十ばかりの男は、きょとんとした表情で数度パチパチと瞬きをした。それから「こりゃどうも」とでもいうような愛嬌のある態度でガリガリと頭をかき、それから神妙な顔つきで太い腕を胸の前で組み、口を結んで座り直す。

 丸い顔、太い眉、下がり気味の大きな目、太く短い首、そして肥満体とまでは言わないがそれでも相当に大柄な身体で胡坐をかいたその姿は、どこから見ても達磨そっくりである。汗っかきであるらしく、額には汗の玉がいくつも浮いている。汗をかいた巨大な達磨の、いかにも神妙に作った態度はどことなく滑稽で、料亭の二階に設けられた演説会会場内には小さな笑いが起こった。




 演説会が終わり、懇親会の会場である一階の料亭へと人が動き始める中、大岡は達磨の下へ行った。

「西郷先生、頼みますよ」

 汗かき巨大達磨ははへらっと笑った。

「やっぱい、次からは御高談の間、部屋ば残っておきもんそ」

 大岡は呆れた表情になる。

「出て下さいよ」

 それ以上聞く気もないらしく、達磨は呑気に笑いながら料亭へ足を向ける。

「仮にも会頭なんですから」

 無駄話をして弁士に叱責されたこの男こそ、他でもない、当の国民協会会頭、西郷従道その人であった。

「懇親会にはきっちり出っで」

 くい、と酒を飲む手振りをしつつ言う従道は、五升は軽く入ると囁かれる酒豪なのである。

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