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パワーアップは世間話と共に

「おお、そうなんだ。まぁ何にしろ、戦いの前までには済ましておいた方がいいね」

「うん」

振り返ってみるとその闘技場では究はまだシンジと戦っていて、そんな中ふと別のテーブルで頬杖を着きながら、究の戦いを眺めている凉蘭に目が留まる。

「聖」

するとそこでミントが何故か小声で話し掛けてくる。

「何か飲み物でも持っていってあげなよ」

「えっ」

うわ、どうしよ。持ってく、いや、聞いた方が・・・。

「・・・と、鳥井さん」

頬杖は外さず、凉蘭は無言で顔を向けてくる。

「何か飲む?」

「・・・うん」

少しだけ目を見開き、ドリンクバーの方に顔を向けてから返事をするというその一瞬だけなのにふと緊張してしまっている事に気が付く中、すると凉蘭は席を立ったので一緒にドリンクバーまで並んで行き、そしてオレンジジュースをコップに注ぐ凉蘭を横目にしながら野菜ジュースをコップに注ぐ。

「聖、鉱石使わないの?」

「いやぁ鉱石の存在なんて知らなかったからさ、1つの力で色んな事が出来るような力を考えたんだよね。だからさっきも全然思い付かなかったし」

そしてテーブルに戻り、凉蘭の隣の椅子に腰掛ける。

「バランスが欲しいなら、むしろ魔法系持った方がいいんじゃない?」

「うーん、魔法系ねぇ」

「意外だね。ゲームとか好きなのに魔法系嫌なんだ」

「例えばさ、魔法が使えるドラゴン的な奴のDNAをラーニングしたらそれでいいし。まぁ実際居ないけど。でももしかしたらそういうモンスターの召喚系の能力者なら居るかもじゃん」

「あ~、そっか」

「なら、サポートリンクはどうだ?」

すると何やら得意げに微笑みながらそう言ってノブがテーブルにやって来る。

「何ですかそれ」

直後にノブの眼差しは闘技場のモニターへと向けられる。

「例えばほら、シンジと究な。あいつらの力は1つだけでも普通に戦えるだろ?でも凉蘭は攻撃出来る力は1つだけで、他の2つは防御の為だったり、攻撃出来る力を強化する為の力だ。攻撃の為じゃなく、あくまでサポートの為に繋ぐ、それがサポートリンクだ」

おお、何かそれっぽいような、それっぽくないような・・・。

「でも、それって別に、普通に頭使ってるだけじゃない?」

軽く一蹴するような凉蘭のそんな一言の直後、ノブの一瞬だけ眉をすくめて言葉に詰まるその物悲しさが妙に目についた。

「まぁ、な」

サポート、覚醒とは違う強化か。それならいいかな。

「じゃあ、単純に別の力を外部メモリみたいにして、ストック出来る数増やせば?」

うお、さすがIT系女子。

「んー、その為だけに使うってのもなぁ」

「あ、じゃあゲーマーらしくゲームの鉄板のシステムは?」

「鉄板?」

「ほら、ゲームってやたら武器を作ったり合成したりするじゃん。ストックしてるDNA情報を合成してまとめれば、実質ストックの空きも増えるし」

合成・・・。

「凉蘭、頭良いなぁ」

ノブの呟きに嬉しそうに表情を綻ばせる凉蘭に一瞬だけドキッとしながら、ふとポケットから鉱石を1つ取り出す。

「デザイン出来るからって単純に炎とか操ったりする奴が結構多いが、デザイン出来るからこそ一旦冷静になって頭使って、複雑でオリジナリティー溢れる力にした方が結果的に案外生き残れたりするからなぁ」

「ノブさんの力、どんなの?」

凉蘭の問いに僕も気になり、とっさにノブに顔を向けると、直後にノブは得意げに微笑んだ。

「まぁ、戦闘スタイルの名前は『タイムジャンパー』だ。1つ目の力で“宙を跳び、衝撃波を放つ”。2つ目の力で前後どちらでも1秒間タイムスリップする。つっても“1秒ジャンプ”は連続的に出来るけどな。そんで3つ目の力ではタイムジャンプした時に相手に見せる“残像を機雷化”する。合計したレベルは7だな。聖がもっと強くなったらいつか手合わせしてやってもいいぜ?」

タイム、ジャンパー・・・想像が出来ない。それより、さすがリーダーだ。オリジナリティー溢れすぎてる。

「全部言っちゃうなんて、そんなに自信あるんだ」

「スタイルが完成してから、負けた事ないからな。まぁ引き分けはあるが」

ま、負けた事、ない・・・まじか。

「お、聖、鉱石使ったのか」

鉱石を握り締めて目を瞑って少しした時、ちょうど究にそう声をかけられたので顔を上げ、手を開く。鉱石が無くなってる事を自覚しながら究を見ると、その表情は満足げで、しかも何やらスポーツでもしてきたかのように汗ばんでいた。

「覚醒出来た?」

「モチ&ロンだよ聖選手」

「あは、3体共?」

「うん。みんなレベル2だよ。いやぁやっぱり特訓はほんとヒーローマンガの醍醐味だよなぁ」

「いや現実だからこれ」

「どんな力?」

シンジと究がドリンクバーへ向かったところで、凉蘭がそう聞いてくる。

「鳥井さんが言ったやつ。でも合成は頭の中でする事だから、見た目は何も変わらないけどね」

「ふう。・・・ノブさん、3日後なんて言わずさ、もうコクエン倒しに行こうよ。覚醒もしたしもう今の俺達なら行ける気がする」

えっ・・・究、まじか。

するとノブは気さくな表情の中に少しだけ真剣な雰囲気を伺わせながらゆっくり頭を掻いた。

「まぁ・・・そうだなぁ。確かに他に誰かを襲わないとも限らないし手を打つのは早いに越した事はないが、行動パターンや潜伏先を探らないといけないから、今からってのはどっちみち無理だ。3日後ってのは大体3日くらいあれば居場所を突き止められるだろうって意味でな」

「そう、なんだ・・・。じゃあ今どこに居るか分かればすぐに行けるって事?」

「心当たりあんのか?」

「不良が集まる場所なら1つ知ってるけど。コクエンの使う場所かは分かんない」

「どこだ」

「港区の芝浦南ふ頭公園。ああいうちょっと端っこっぽいとこだし、しかも不良の中には能力者も居るとか聞いたことある」

「なら、行ってみたらいいんじゃないか?」

そういえばさっきまで姿が見えなかった春隆がふとそう口を挟んでくる。

「あれ、南原さんどこ行ってたの?」

「今の内に少しユキト達の行方を探ってた。でもダメだった。お前達だってこれからテロ鎮圧活動していくんだから、そういうのも活動の内だろ」

確かにそうだよな・・・。

「ああ、うん。じゃあ行ってみるか。あのノブさん」

「シールキーか?オレもこっちで調べてやるから・・・おいシンジ、付き添い頼むわ」

芝浦南ふ頭公園の運動広場が目と鼻の先にあるトイレの壁に扉を作り、公園に足を踏み入れると、休日と言えど場所柄の上に不良が集まる場所という噂があってか賑やかさは無く、その時そこには4人の男性達が集まる1つのグループしか見えなかった。

不良っぽくないし、いけるかも。

「究、聞き込みしてみる?」

「うん」

究と凉蘭に春隆、そしてシンジと、ぞろぞろとやって来た僕達に、4人の男性達は何となく申し訳ないくらいに緊張を伺わせていく。

「ちょっと聞き込みしたいんだけど」

究が口を開くも、4人の男性達はきょとんとしたまま、まるで言葉の通じない動物のように顔を見合わせる。

「俺達、コクエンを捜してるんだ。ここってよく不良が集まるでしょ?何か聞いたことないかな」

「コクエンって、よく建物壊して、最後にスプレーでサイン残すって奴?」

「あぁ」

1人の男性に春隆がそう応えると、4人は再び顔を見合わせ、何となく微妙な空気が流れ込む。

「ここじゃ見てないけど、そもそも縄張りで捜した方がいいんじゃないの」

「縄張り?って」

究がそう聞いた時に、何となく春隆の横顔に目が留まる。

「わざわざサインしてマーキングしてるんだし、捜すなら先ず縄張りでしょ。まぁそりゃいつも縄張りに居るとは限らないけど、少なくとも、ここで見たって話は聞いた事ないよ」

「そっか、あ、ありがとう」

それからトイレに戻った時、何やら春隆は笑いを吹き出し、そんな春隆に凉蘭はキリッとした眼差しを向ける。

「南原さん、何で言わないの」

「え、いやだって、経験は大事だろ」

責めるような感じではない口調で凉蘭がそう聞いて、綻んだ表情で春隆が応えるというそんな2人に、究もふっと顔を向ける。

「どういう事?」

「だって南原さんコクエンの事リサーチしてたんだから縄張りの事知ってたのに、言わなかった」

「えー、南原さん」

「何言ってんだよ。いきなり答え聞いて嬉しいか?」

「んー、そりゃあ、そうだけどさぁ。ていうかその縄張りってどこなの?」

「コクエンというより、ユキトのグループの縄張りは芝公園だ。まぁコクエンはマーキング担当みたいなもんだな」

うわ、ずるいな、東京タワー独り占め?

「でもニュースとか聞かないけど」

「縄張りって言っても、テロリストの間でのだ。それで別に占領したりとかは全くない。とは言え、今はノブが言ってた通りユキトの行方は全く分からず、俺もさっき調べたが他の奴らも縄張りでの目撃情報は無い」

「え、じゃあ、どうしよ」

「地道にツイッターとか見るしかないだろうな。こういうのは基本、ネットの書き込みが情報源だから」

「そっか」

ん?何だ?

突如遠くから聞こえてきたパトカーのサイレンにふと振り返る。パトカーは見えないがそのけたたましい音に何はなくとも気持ちが逸るような気になりながら、近くを通りすぎていくサイレンの方に何となく見入っていく。

「組織に戻る?」

「近いな、すぐそこの野球場じゃない?行ってみよう」

究にそう言葉を返された凉蘭は無表情ながらも瞳の奥に若干の怠さを伺わせるが、究が凉蘭に顔を向けると凉蘭は小さく頷いた。

タイミングは良いけどな。まさかコクエン達じゃないよな。

そしてみんなと共に区立埠頭公園に足を運んだ時、轟音と共に目線を上げると、公園前に停まっていたと思われる打ち上げられたパトカーはそのまま僕達の方に飛んできた。

げっ!・・・・・。

「スランバーっ」

スランバーが突撃すると、さらに衝突音を掻き鳴らしパトカーは跳ね返り、割れた窓ガラスの破片を飛び散らせる。

「マジか・・・」

幸い公園には遊びに来ている人も通行人もおらず、落ちたパトカーの轟音がよく響く中、もう1台のパトカーを盾にする3人の制服警官と対峙しているそのドラゴンはふと僕達に顔を向けた。

「行けスランバー!」

3、4メートル級の、まるで苔でも生えてるんじゃないかと思うほど、年季が入ったようなくすんだ緑色をした、2本の角と翼と尻尾のある、いかにもドラゴンっぽいカッコイイ二足歩行型ドラゴンにスランバーが向かっていく。直後にスランバーが放った横殴りの吹雪によってドラゴンの上半身が覆い隠されると、ドラゴンは見た目とは裏腹過ぎるほど弱々しく尻餅を着いた。

「うわーん、やめてよぉ」

ん?・・・喋った、というより・・・。

「え?」

究がそう呟いた時に吹雪が消え行き、ドラゴンと目が合うと、その瞬間何故かそこには沈黙が流れた。

「あ、シンジ!」

知り合い?・・・。

しかしドラゴンの言葉にシンジ以外の目がシンジに向けられた時、シンジはただ首を傾げた。

「誰だよお前」

直後にドラゴンは足元からやんわりと舞い上がる緑色の光に包まれて体をすぼませると、なんと小学生高学年くらいの子供へと変身を遂げた。

・・・いや、まさか小学生がドラゴンだったなんて。

そしてこちらの方に近付いて来た矢先、野球場のある公園に相応しいキャップ帽を被るその小学生は何やら緊迫したような表情を見せる。

「助けてシンジ。あの警官、悪い奴なの」

すると何やら小学生はそう言って、制服警官に指を差す。

「へ?」

あれ?もしかして・・・。

「1人で遊んでたらあいつがやって来て、1人で遊んでるって言ったら、体触ってきた」

・・・やっぱり、女の子か。ボーイッシュ過ぎて一瞬分からなかった。

「なな何言ってんだ!テロリストだぞ?信用するのか!」

1人の制服警官が明らかに動揺した態度でそう声を上げるも、他の警官達の冷たい眼差しにすでに何となく状況が理解出来たような気がした中、シンジが前に出て警官達に歩み寄る。

「お前、小学生をテロリスト呼ばわりって、どうかしてるぞ」

「しょ、証拠あんのか」

「ハハッ知ってるか?証拠出せは、犯人のセリフだぜ?」

そして他の警官達が1人の制服警官に詰め寄るのを遠目にしながら、何やら戻ってきたシンジに向けられる少女の憧れの眼差しにふと目が留まる。

「他に何かされなかったか?」

「うん、その前に変身したから。そしたら急にテロリスト呼ばわりしてきて、応援も呼ばれて。私、逮捕されるのかな」

「パトカー壊したからな、叱られるだろうけど、逮捕はされないだろうな」

「ほんと?でも良かった、シンジが居て。私ね、シンジのファンなの」

「え、あそう。どっかで見たの?」

「ユーチューブ」

「そうか」

やっぱりすごいなシンジ君。指定自警団なのに警察に媚びないところとか、ちゃんと女の子を信じるところとか、ほんとヒーローだなぁ。

ノブの言うサポートリンクは、聖には響いたようですね。


ありがとうございました

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