ステップ・トゥ・ザ・ニューワールド
うわぁ、テロ鎮圧する能力者を狙うなんて、ヤバイ奴じゃん・・・。
「まぁ、それならいいか。もしかして、そうやって人に前線を譲るのは、少しでもテロ鎮圧する側の能力者を増やしたいからか?」
春隆の問いにノブは表情を緩ませると、ふと先程見た気さくな笑みを再び浮かべてみせ、そのギャップに何となく実力の一端を垣間見た気がした。
「まぁそうだな。指定自警団じゃなくてもテロリストに対峙してくれるっつうのはオレらにとってもありがたい事だしな。じゃ話もまとまったところで、今すぐ特訓だ」
「・・・・・え!だって」
「ちょっと待っててくれ。すぐ戻ってくる」
気さくなまま何やらそう言うとノブ達はそそくさと病室を出ていき、そこにはふとした沈黙が流れた。当然究や凉蘭も急に降りかかった沈黙に静かに戸惑っている中、ふと見た春隆の表情は逆に気が留まるほど落ち着き払っていた。
「ヒーローキラー、すごい名前だよな。しかもそいつの仲間が俺達のデビュー戦だなんて。ねえ南原さん、ヒーローキラーの仲間、どれくらい居るの?」
「俺が知ってる限りで、まだ倒してない奴らがあと3人だろうな。コクエンとセンゴク、あとウシク。まぁ俺達もテロリストも、仲間くらい簡単に増やせるけどな。てか凉蘭、さっきから黙ってるが大丈夫か?病室戻りたいなら行っていいぞ?」
「別に大丈夫。ずっと別の力何にしようか考えてただけ」
「おほっ、そうか。・・・別の力ねぇ」
そう言って考え込むように春隆が黙り込むと、そのままその場には何とも微妙に気まずい空気が流れ出し、何となくキョロキョロした時にふと凉蘭と目が合った。
「何で無傷なの」
「え、いやさすがに無傷じゃないけどさ。僕の力は変身系だし、生身よりかはダメージが少ないんじゃないかな」
「別の力、変身系にすんの?」
するとフランクな話しかけ方だからか、究の問いに凉蘭の表情が柔らかくなった。
「候補にはなるけど、まだ分かんない」
そんな時にノブ達が戻って来たが、たった数分間で戻って来た事よりも、見た感じ自分より年下っぽい女性をたった数分間で連れてきた事の方が気になった。
「オレらの仲間のマナミだ」
え、小柄で明らかに内気っぽいのに、指定自警団?・・・。
するとマナミはやはり自警団にはそぐわないようなおっとりとした雰囲気で微笑んでみせた。
ていうか何しに来たんだろう。
「マナミはな、“24時間以内の外傷なら何でも治せる”能力を持ってんだ。こういう回復役の仲間が居るからオレらは永遠に戦えんだ」
かか、回復・・・。まじか。
究は勿論、凉蘭でさえも驚きの表情を浮かべてる一方、ふと見た春隆はまたもや落ち着き払っていた。
「じゃ、頼む」
「うん」
うわぁ、どうするんだろう、オーソドックスな緑色の光でも出すのかな。
そしてマナミは凉蘭に歩み寄るが直後、マナミはただ優しく、凉蘭の手首辺りに手を重ねた。
「はい、治ったよ」
え・・・・・。ああ・・・なるほど。
「・・・ありがと」
「うん」
まるで怪我を治す事など慣れきったように、マナミは続けて究の肩に優しく手を乗せた。
何か、魔法系じゃなくてこういう系の方が逆にリアルだな。
「はい」
「あ、あ、ありがとうございます」
いや、何で敬語・・・。
こんな時代なのにまるで本当の超能力者を前にしたかのような変な緊張がやってきながらも、僕の方に歩み寄って来たマナミに手を差し出すと、特別なオーラも無くただのカジュアルな服装のマナミは僕の掌の真ん中に優しく手を乗せた。それはまるで、体の1番奥の奥で微かに熱と静電気が踊り回る、そんな感覚だった。
「ありがとう」
「うん」
もうどこが痛いのか分からない感覚を噛み締める中、すでにマナミは春隆に歩み寄り、手を伸ばしていた。
回復役か、僕達もそういう仲間居ないとだめだよな。
春隆がナースコールで呼んだナースが、さっき入院した人達の怪我がすでに完治しているという状況に当然の如く戸惑い、医師の人を呼んでくると言ってまた病室を去っていく。
こんな時代でも、こういう事には驚くんだなぁ。
「はいじゃあ確認しますね」
しかしやって来て早々医師の男性が究達の怪我を診ていくが、怪我が完治している事を確認しても医師の男性はテンション変わらず、治したと言うマナミに笑顔で会釈した。
「ご協力感謝します」
「はい」
ありゃ、何だよ、全然普通じゃん・・・。
「では入院手続きは取り消しって事でいいですかね」
咲蘭さん達もここに居れば良かったのに。ていうか、すごいな。これならすぐに特訓出来るし、南原さんだって全然普通だ。これが、能力者の世界なんだ。
正に何事も無かったかのようにそして病院を後にすると、どこに行くのかも言わずノブは歩き出していったので、どこに行くのか聞こうとした途端、ノブは何やら病院の裏手で立ち止まった。
何だろう、明らかに人気の無いところに来ましたって感じだけど。
そしておもむろにノブがポケットから、手のひらサイズの平べったい変なものを取り出し、それを当たり前のように壁に貼り付けると、直後になんとそこにドアノブが現れた。
まさか・・・。
しかしそんな状況を説明する事なく当たり前のように扉を開けるとノブ達はそこに入っていくので、とりあえずついていき、そして5人掛けの円形テーブルセットがやけに沢山あるショーホールのような空間に足を踏み入れた。
いきなりすぎて、聞きたい事もありすぎて、頭パンクしそうだ・・・。
「てかノブさん、それ、何ですか?」
「これは『シールキー』っつって、『オリジナルの能力者』で尚且つまだこの『組織』に属してる奴なら皆持ってる。要はワープ装置だな。行きたい場所をシールキーに書き込んで、どこでもいいから壁に貼りゃ、行きたい場所に繋がるんだ」
うえぇ・・・さらっと話してるけど、こ、これが、リアルなどこでもドア・・・。
「オリジナルって?」
すると凉蘭がノブにそう尋ねる。
「鉱石じゃなく、組織で能力者になった奴らだ。組織ってのは世界中にあって、最初、オレらは組織のオーナーに集められて能力者になった。それから鉱石が出てきたからな。だから鉱石が出てくる前から能力者だった奴らは、オリジナルなんだ。でもま、そもそも何で鉱石が出てきたかも、オーナーが何者かも分かってねぇけど」
「え、それって、何か危なそう」
「かもな。でも組織には1人ずつの部屋があって、いつでも無料で食いもんがオーダーし放題だから、抜けるのは勿体ないだろ?それに組織間では連絡が出来るから、指定自警団の活動拠点にはもってこいだからな」
何だここ、日本にこんなとこあるなんて・・・。てか食事し放題って・・・。
「1つ良いこと教えてやる。組織に属してたら身元が分かるから個人的な活動はしにくい。だから個人活動でテロ鎮圧する奴はいるが、組織に属しててテロ活動する奴はいない。相手がテロリストかどうか分からない時は組織の事を聞けば参考になる。組織の事を知ってて組織に属してなければテロリストの可能性がある、組織の事を知らなければ、そいつは鉱石で能力者になった奴。ってな具合にな」
やっぱりすごい。何かよく分かんないけど、指定自警団のリーダーのオーラ、何かすごい・・・。
「指定自警団に入らなくても、オレらの協力者になればここを自由に使えるぜ?」
「まじすかっ」
そう口走る究に微笑んでみせながら、ふとノブは幾つもある扉の1つの前で立ち止まった。
「このホールには、東京ドームくらいだだっ広い空間に繋がる扉が6つある。オレらは闘技場って呼んでて、皆そこで特訓してる」
・・・ん?どういう事?
「どういう事ですか?」
扉を抜け、まるで本当に闘技場への道を連想させるような、狭くて少し薄暗い通路に足を踏み入れた時にそう聞いてみる。
「組織そのものも、ここも、シールキーで繋がった時と同じような別の異空間って事だ。因みに、この組織は位置的に『赤坂クイーンズホテル』の“最上階の1つ上”になってる」
・・・ん?どういう事?
「それは・・・」
「それはオレらにも分からない。オーナーがそう言ってる」
そう応えてノブが気さくに笑った時、短い通路が終わると、目の前には言葉を失うほどの広大な空間が現れた。そこは全くの平地で、円形に塀で囲まれ、その向こうには座席の無い階段だけの観客席エリアが続く、言われてみれば東京ドームくらいに広い空間。これが6つもある、その言葉がより異空間情緒を感じさせる中、ノブはまるで庭でも歩くように歩き出していく。
「ねえ、私、特訓の前に鉱石欲しい。もう欲しい力決めてるから」
「お?そうか。ん、分かった。じゃ取ってきてやる。1つでいいか?」
「2つ」
「俺も2つ欲しいっす」
「おう。あんたは?」
そういえば、まだ考えてなかったな。え、どうしよ。
「貰うだけ貰っとけば?」
「あ、うん。じゃあ僕もお願いします」
「春隆は?」
「俺はまだ自分のがある」
え?・・・。
「え、知り合い?」
「知り合いってほどじゃない。1回だけ、一緒に戦った事があるってだけだ。俺はオリジナルじゃないが、仲間が木更津の組織に属してて組織の事は知ってる」
そうだったんだ・・・。
「ヒーローキラーにやられたのは、オレと会った後か?」
「あぁ」
「そうか。指定自警団とは深い付き合いのないチームだったからな、ヒーローキラーの情報はそっちまでは行かなかったんだな」
ノブが去っていき、ふとした沈黙が訪れると、まるで嫌な事でも思い出しているかのように、春隆はただただ話しかけづらい表情で遠くを見ていく。それから究がスランバーで遊び始めた頃にノブは戻ってきて、そして僕の手には再び鉱石が乗せられた。
どうしよう、全然思い付かない。
究も凉蘭もすでに目を閉じていて、沸々と焦りが募る中、何となくアニメや映画を思い出していくがそれでもピンと来るアイデアは無かったので、とりあえず2つの鉱石をポケットにしまい込んだ。
「使わないのか」
するとそう言ったノブの、若干ニヤついているその表情に意味もなく焦りがぶり返した。
「いや何かまだアイデア固まってなくて」
「じゃあ聖、早速やろうぜ」
え?シンジ君・・・。え。
まだ2人が目を閉じている中、何となくノブを見るとノブは行ってこいと言わんばかりの眼差しを返してきた。
ふう、特訓か、よし・・・。
そして適当に歩いて、適当な位置でシンジと向かい合う。その瞬間から途端にお腹の中がチクチクしてくるが、特に何も纏わず変身もせず、至って普通のファイティングポーズを取ってみせたシンジのその態度に、ほんの少しだけ恐怖が和らいだ。
「オレもう力使ってるからな?本気で来い」
うわ、今までずっと仏頂面だったのに、急に微笑み。逆に怖い・・・。
ゴリラを発動させるとむしろ微笑みは深まり、その底無し沼のような余裕はそれだけで手練れ感を漂わせる中、思い切って走り出して拳を振るうと、シンジは目にも止まらぬ速さで僕の拳を弾き、更に僕の腹に拳を叩き込んだ。
あれ?・・・。
その瞬間気にかかったのはシンジの格闘家ばりの手捌きではなく、最初の拳が弾かれた小さな重みだった。
僕、今ゴリラなのに、普通に弾かれた・・・。
銅像の如く表情の変わらなさにまるで戦いのプロでも相手にしているかのような緊張が降りかかってくる中、再び拳を振るうがそれも弾かれ、続けて殴りかかっていっても僕の拳は尽く、同時に容易く弾かれていく。
これは、ただの経験の差だ、能力の差なんかじゃない・・・。それなら!・・・。
少し離れてからすっと意識した途端、“自分の体が景色に溶けていく”。そして1秒もすれば自分でさえ自分の体が見えなくなった。するとシンジは一瞬だけ驚くような態度を見せるがすぐに表情を引き締め、正に手練れの如く静止して僕の出方を伺い始めた。
いや、これなら行ける!・・・。
直後に走り出し、拳を振るう。しかしそれでも拳は弾かれ、再び僕の腹には拳が叩き込まれた。
なっ、んで・・・。
更には素早い回し蹴りが胸元に打ち込まれ、僕の背中は地面を擦った。
「甘いな。オレの力、教えてやる。オレの2つ目の力は、空間を物質のように操れる力だ」
2つ目?・・・。物質のように?・・・。
「最初、オレはもう力を使ってるって言ったよな?オレは今、固めた空間を全身に纏ってる。要は肉体強化型のあんたと同じ状態って事だ」
そうか、だから僕の攻撃を普通に弾けたのか・・・。
「そんでもってオレの周りの空間はオレのものだからな、いくら透明だろうと空気の流れで形も動きも普通に分かる。小麦粉でも被ったようにな」
そんな・・・。
「ていうかシンジ君、それ無敵なんじゃないの」
そう言うと、シンジは吹き出すように笑った。
シンジ達の成長具合はこの物語なりの見所の1つですね。
ありがとうございました