刑事の微笑み
「皆、下がっててくれ。これは俺の因縁だ」
「俺らも戦うよ?俺らが始めたんだから」
春隆に言葉を返しながら究はスランバーを出現させると僕に顔を向けてきたので、同じく顔を向けてきた春隆に頷きながら“ゴリラを発動させる”と、春隆は眉間を寄せながら分かったと言わんばかりに小さな溜め息と共に頷いた。
「来いよ高校生、オレもお前らの実力は気になる」
そう言うと直後、センゴクの全身が“金色の光”に包まれ、そして鎧感だったり筋肉感だったりといかにも“何かしらのアニメ感”漂うカッコイイ戦闘スーツに覆われた。
「スランバー!」
スランバーが飛んでいくと同時に究が何やら天に向かって手を伸ばすと、直後にスランバーはセンゴクに向かって“強烈に横殴りな瞬間的な吹雪”を放った。
「スピアブリザード!」
そう声を上げた究の手の上に、まるで短い槍のようにまとまった冷気の塊が4本出現したが直後、センゴクを覆い隠した吹雪は金色の風に吹き飛ばされる。それでも“4本の吹雪”は追い打ちをかけるように飛んでいくも、同時に振り払われた金色の風は容易くそれらを弾き、更にはそのまま究へとその手を伸ばした。
・・・究!
スランバーが間に飛び込んだにも拘わらず究がスランバーごと倒れ込んでしまうと、そんな究をセンゴクは鼻で笑った。
「くそぉ・・・何でだよ」
「レベルが違うんだよ」
そう言い放つとセンゴクは僕に顔を向けてきて、まるでかかってこいと言わんばかりのその態度に恐怖は募るが、同時に拳を握らせた怒りは無意識に体を突き動かした。歩き出したと同時にセンゴクが走り出してきたので思いっきり殴り付けるとセンゴクも殴りかかってきたが、鈍い音と共に拳と拳は弾け合って相殺され、その一瞬、小さな希望を感じた。足を踏ん張り、素早くまた拳を振るうもそれはセンゴクも同じで、お互いの拳はお互いの胸元を殴り付け、僕達は同じように後ずさる。
・・・互角なら、いけそうだ・・・。
しかしその直後、センゴクは脚の裏から金色の風を噴かせて瞬時に距離を詰めてきて、気が付けば金色の風を纏う回し蹴りを食らっていた。しかもその衝撃は重たく、変身した体なのにまるでトラックに突き飛ばされたかのように体は地面を転がった。
・・・・・ぐ、そんな・・・。
「それくらいにしろ。俺が相手になってやる」
地に伏したまま顔を上げるとすでにセンゴクは春隆と対峙していて、実は相手にされていなかったという失望感が小さな希望を吹き消す中、センゴクは金色の風を推進力にしながら飛び掛かっていき、春隆は“何も纏わず変身もせず”にセンゴクの拳を片手で受け止める。そしてまるで武術の経験者なのかというほどに素早く殴り、蹴り、センゴクを地面に落とす。直後にセンゴクは金色の風を球状にして撃ち放つが、ふと春隆がその場で手を出すとそこには何も無いのに金色の球は壁にぶつかったように砕けて消えた。
南原さんて、どんな力を持ってるんだろ。
しかも春隆が直後にその場で拳を振るうと、明らかに届かない距離にも拘わらずセンゴクは殴られたように仰け反った。センゴクの顎が上がったその瞬間、春隆はその場で拳を突き上げ、そしてセンゴクは放物線を描いて盛大に倒れ込んだ。
やった!・・・。やっぱり南原さん強いな。
「つう・・・」
起き上がるものの頭を振るその素振りはダメージが伺えていて、このままセンゴクを警察に突き出せるかと期待した矢先、ふと空から“黒い炎”を推進力にして飛んできた人影に目が留まった。体は生身だがまるで“空飛ぶロボットのように”背中から黒い炎を噴かして格好良く着地すると、その男性はセンゴクに歩み寄った。
「後はオレがやる」
げ・・・仲間来ちゃった。
「究、聖、まだやれるよな?」
ふう・・・。
「あいつだ。お前達の最初の仕事相手。この際段取りはもういいだろう、2人はもう実戦経験があるからな。3人は慎重にな。でも5人も居りゃ先ず問題無い」
「あ~あ、オレって随分と嘗められてんのな」
「こっちはお前の力なんてリサーチ済みだ、コクエン」
「1対6か。面白い」
軽く手を出し、見せつけるように掌から黒い炎を燃え上がらせたコクエンにスランバーが向かっていき横殴りの吹雪を放つが、吹雪は音を立てて燃え上がり蒸発する。その隙に走り出したが直後、黒い炎は爆音を響かせて大爆発を引き起こし、砂埃を巻き上げ、ベンチを吹き飛ばした。言葉も出ない瞬間、ベンチはユウゴウ目掛けて落ちていき、そしてユウゴウに当たる直前、身を屈めたユウゴウのすぐ頭上の宙で止まった。そこで初めて息を止めていた事に気がついた中、サラが手を掲げ、ベンチをゆっくりと地面に落とした。コクエンは再び掌に黒い炎を灯すと、今度はそれを僕の方に投げてこようとしたがそこに春隆が割り込む。そして春隆が走り出したと同時に黒い炎が投げ込まれ、その激しい爆発に春隆はさながらベンチのように吹き飛び、転がった。
えっ・・・・・。
「南原さん!」
「何、で・・・だ・・・」
「敵をリサーチすんのは感心だ。でも、そのリサーチがそもそも間違ってたんじゃねえか?」
「何だと?・・・」
「ハハッまぁ厳密に言うと、オレは今まで本気を出した事がねえ。つまり、リサーチなんて意味ねえって事だ」
「くそ・・・こんな筈じゃ・・・くそ」
そんな、1回の攻撃で南原さんが起き上がれないなんて・・・。
「もうすぐ警察も嗅ぎ付けてくる。ちゃっちゃと本気、見せてやるよ」
そんな時、ふと気が付くとコクエンは天に向かって真っ直ぐ手を伸ばし、大きな黒い炎の球を作り上げていた。はち切れんばかりに膨れ上がったそれはまるでブラックホールのように目を奪わせ、足をすくませた。そして何をする間もなく、黒炎は大爆発した。同時に爆風は無数の小さな炎の塊となって辺り一面に降り注ぎ、更に小さな爆発を招いていく。雑音が遮断された爆音と熱の中、体中にのしかかる衝撃が薄れていってふと気が付くと、そこは救急車の中だった。
あれ?・・・。
「分かりますか!」
微妙に息苦しさの感じる空間で、がっちりと装備した救急隊員の暑苦しさを前に、むしろ意識ははっきりした。
「自分のお名前言えますか?」
そしてマスクの中からの籠ったはきはきとした声は、まるで助かった事を理解するのを急かされているような気にさせられたが同時に、救急車の中央に寝かされている人が目に入った。
・・・鳥井さん。
「赤荻聖、です」
「座席でごめんね。軽い火傷はしてるけど、他に痛い所はあるかな?」
「・・・大丈夫です」
「この子は知り合いかな?」
「あ、はい」
鳥井さん、服焦げてるけど、僕の服は焦げてないな。変身してたからかな。究も、救急車かな。
病院に着くと診察を受けたものの怪我が軽かったので割りと早めに解放され、究を探そうと廊下に出るがそこには待ち構えていたかのように立つスーツの大人達の姿があった。
「プラタナス公園でのテロの被害者だよね?『特テロ』の北村です」
そう言いながら、その男性は警察手帳を見せてくる。
「あの・・・被害者っていうか」
テロリストをやっつけようとしたら、返り討ち、か・・・・・。カッコ悪いなぁ。
「南原さんの仲間なら君も能力者だね。でも良かったよ。通報してくれた人の話によると、君達がやられた直後にパトカーのサイレンが聞こえてきて、テロリスト達はすぐに逃げてったって。私達が来るのが遅かったらもっと被害が出てただろうから」
負ければただの被害者、か。
「君はまだ未成年かな。なら親御さんに迎えに来て貰おうか?」
「ああ、いや、友達がどうなってるか知りたいから、まだ帰れない。それに、僕なら1人で帰れるし」
「そっか。テロリストの名前とか分かるかな」
「コクエン・・・あとはセンゴク。それと名前は分からないけどもう1人。最初にそいつと上野動物園で戦って、それでそいつがきっと仲間を呼んだから、今日あいつらが来たんだと思う」
すると北村はおもむろにスマホを取り出した。
「コクエンというテロリストは・・・この人かな?」
見せられたスマホを見ると、画像の男性は正にコクエンだった。
「うん。それもしかしてブラックリスト?」
「そうだよ?今までは建造物に対してのテロだったけど、今回被害者を出したからいよいよ指定自警団に出動依頼を出すことになるかな」
指定自警団・・・そんな。
「困るよ、それ。僕達、コクエンをやっつける為に能力者になったのに」
「それは、どういう事?以前に被害を受けたとか?」
「ううん。コクエンがどうっていう事じゃなくて、南原さんが、ネットで正義の為に戦う能力者を募集してたから、何となく」
やっぱり、何となくで勝てるほど甘いものじゃなかったな。天罰、なのかな。
「ありがとう」
「え?」
ふと顔を上げると、北村はテロ対策の刑事にしては優しすぎるんじゃないかと思えるほど、柔らかい笑顔を浮かべていた。
「正義の為に戦ってくれて。それからごめんね。本当は警察がもっと役に立てれば君みたいに傷付く人が増えなくて済むんだけど」
「そう言えば、何で警察は能力者にならないの?」
そう聞くと、北村は笑顔の中に一瞬だけ真剣な眼差しを見せた。
「やっぱり警察は、法律で戦わなきゃダメだから。あは、でも能力者の一般市民を戦わせてる時点でどうなんだって、世論で色々言われちゃってるんだけどね。ねえ、名前、聞いていいかな」
「・・・赤荻聖」
「聖君、もし良かったら、指定自警団の人、紹介しようか?」
「え?」
「やっぱり被害者を出したテロリストを放ってはおけないから。でもそれなら指定自警団の人と一緒に戦えばいいんじゃないかな」
ナースの人に聞いて、究が運ばれた病室に入ると、そこには頭に包帯が巻かれた痛々しい姿の究が居た。
「え!聖!無傷かよ」
「さすがに無傷じゃないよ。でも多分変身してたからダメージが少なかったのかも。今まで警察に事情聞かれてた」
すると究は怪我人にも拘わらず、まるでいつものように笑い、その笑顔に何故かむしろ敗北感を改めて実感した。
「お前、とんだラッキーだな」
隣のベッドのカーテンを開けると、そう言って究よりも怪我人感がある春隆もまた、まるで怪我人じゃないみたいに笑みを浮かべた。
「他のみんなは?」
「話があるからさ、ナースに聞いて連れてきてくれないか?」
「あ、うん」
再びナースステーションの前に立つと先程話したナースがやってきたが、その笑みは一瞬どこか迷惑そうなものに見えた。
「他の仲間がどの病室に運ばれたか、知りたいんですけど」
「仲間?お名前は」
「鳥井凉蘭、えっと、あと咲蘭さんと悠剛さん」
するとパソコンを操作しながら、何故かナースは微笑んだ。
「もしかして、鳥井さんの彼氏?」
「べ。あいえ、違いますよ。何でですか」
「だって鳥井さんの名前だけ即答だったから。鳥井さんは4階の東棟ですよ。あとの2人は入院手続きされてません。ほんとは個人情報だから、教えた事は内緒ね」
「あ、はい」
入院手続きしてないって、もしかして2人も怪我は軽くて、南原さんを捜してるのかな。
ネームプレートでベッドの位置を確認して教えられた病室に入っていくと、ふと見たベッドの上の凉蘭は虚ろな眼差しで外を見ていた。
「あの」
まるでスローモーションのように僕に顔を向けた途端、凉蘭はビクッとして目を見開いた。
「何で居るの」
「ナースの人に聞いたんだよ。怪我大丈夫?」
あれ、何だろう、派手めな服を忘れて顔だけ見ると、結構カワイイ。
「別に。もう、テロ鎮圧とか、いい」
「・・・そんな。これから、一緒に強くなればいいじゃん」
恐怖なのか怒りなのか失望なのかは分からないが、凉蘭は暗い表情のまま再び外を見る。
「私、能力者になりたかっただけだし」
「それは僕もそうだったんだけど、でもさっき警察の人に言われたんだ。正義の為に戦ってくれてありがとうって」
「私、戦ってない、ただやられただけだもん」
「それでも、1パーセントでもテロ鎮圧の為に戦いたいって思ったから能力者になったんでしょ?」
再び僕に顔を向けてくるがその眼差しはすぐに伏していき、その態度には明らかに迷いが伺えた。
「怖くないの?」
「・・・どうだろう。でも同じくらい強くなりたいって思ってる。僕達がこれからやる事は、必ず人に感謝される事だから」
何だろうな、北村刑事の笑顔が、離れない・・・。
ふと空に目を向けた時、初めてその青さのようにはっきりと、自分の中に灯った小さな正義感を自覚した。
北村刑事も、大分垢抜けたでしょう(笑)
ありがとうございました