決戦
僕らは超能力をデザイン出来る。僕らの力は“生まれついたもの”とか“与えられたもの”とかそういうものじゃない。自分で考えて設定したものだ。超能力を持つ為にはとある“石ころ”が必要だけど、その石ころは何故か地球の至る所に存在してる。それは人によって「鉱石」だったり「魔法のクリスタル」だったり呼び方が違う。世の中がいよいよ2度目の東京オリンピックの年だといった時に、その石ころは突然“出てきた”。宇宙のどこからかやって来た?誰かが持ち込んだ?多分違う。だって、みんながみんな、地面から生えてきたって言ってるから。でも“順番”が違う。その石ころがあったから超能力者が生まれた訳じゃない。先ず始めに「超能力テロ」がニュースになって、能力者というものが世の中に知れて、それから「超能力者になれる石」が噂になった。あの頃の僕は“この世界に能力者が生まれた理由”なんて知る由もなかった。夢もない、進路希望も特に考えてないそんな日常で僕はただ、何となく能力者になっただけだったから。
僕は今、因縁の敵を目の前にしている。東京都港区、レインボーブリッジが真上を通る、芝浦南ふ頭公園のグラウンドで。確かに能力者になった理由は不純と言えば不純だ。何となく、退屈しのぎになればいい。そんな程度。でもそんな小さな希望ですら、こいつは恐怖でもって打ち砕いた。でも今はシンジ君やノブさんに修行をつけて貰って強くなったし、この場にもシンジ君が一緒に居る。不安は無い。でもだからこそ、込み上げる緊張はこれまでの事を思い出させる。
2日前までは、まさかこうなるなんて思ってなかったもんなぁ──。
「知ってる?あの不良の吉田、学校やめるらしいぞ」
授業終わりのチャイムも鳴り止まない時に、友達の究が話し掛けてきた。
ようやく退学処分的なアレかな。
「また何かやったの?」
「やったっていうか、自分からじゃないかな。能力者でしかも不良だし、学校なんかいいやって思ったんじゃない?」
「そっか。でも学校で暴れるよりいいんじゃない?」
「え?学校で暴れようが道端で暴れようが同じでしょ」
「あそっか、そうだよね。でも吉田だけ居なくなってもさ。この前グラウンドで騒ぎ起こしたC組の奴とか、3年の奴とか、どうしようもない不良能力者はまだ居るし」
「まぁ通報されて収まるくらいの小物は放っとけばいいけどさ。でもあの一番ヤバイ吉田が居なくなったんだし、いいニュースでしょ」
廊下の角にある自動販売機が吐き出した缶コーヒーを取り出し、それから教室に戻って究と一緒にベランダに出る。
小物って言ったって、ヤバイものはヤバイと思うけど。怪我人だって出たんだし。
「やっぱりさぁ、能力者になりたいよなぁ」
「魔王になりたいの?」
前に好きなゲームに出てくる魔王の話をしていたのでそう聞くと、究もその話を思い出したように笑みを見せた。
「良いねぇ。・・・ははは、あれが現実になったら、うん、良いね。聖は?何になりたいの?魔法系?」
「いや、やっぱり変身的な感じかなぁ」
超能力でお金稼げたら最高だな。てか普通にそういう人居るよな。そういえば昨日、マジシャンの仕事が危ういってテレビでやってたな。そりゃそうだよな、魔法系の能力者ならそれだけでマジシャン以上だもん。
「・・・うえっ」
何やらスマホを見ている究にふと顔を向けると、究はおもむろにスマホを見せてきた。その画面にはネットの掲示板が表示されていた。
「能力者になれる石、配ってるって」
「いやいや絶対やめた方がいいって」
「そうかなぁ」
究が再びスマホを見たときに缶コーヒーを啜る。
罠以外に何があるっての。
「でもこの人、アレじゃん」
再び見せてきたスマホを見ると掲示板には写真も載っていて、その男性には何となく心当たりを感じた。
「この人ニュースで見たことあるよ?俺。超能力テロを鎮圧したって現場でインタビュー受けてた」
「ああ、そう言われれば見たことあるような」
「一緒にテロ鎮圧する人募集だって。それで余ってる鉱石を配るってさ」
「てか普通、テロ鎮圧する人募集するなら警察と協力してる『指定自警団』の人達を誘うでしょ。何でわざわざ戦いの経験が無い人なのかな」
「書いてあるよ。少しでも悪者を退治する側の人を作りたいんだって。しかも能力者になったらそのまま特訓にも付き合うって。これさ・・・当たりじゃん」
当たり・・・うーん。
「俺、行こうかな」
「まじで?」
「だってこれから能力者はもっと増えるし、吉田みたいな奴だって増えるだろうしさ」
「まぁ、そうだね」
すると究は途端に真剣な眼差しを見せた。
「行こうよ。チャンスだぞ」
そして放課後になって掲示板に書かれていたという集合場所である芝浦のプラタナス公園に行ってみると、そこには平日のこの時間帯にはあまりそぐわないほどの軽い人だかりが出来ていた。といっても各々ベンチに座っていたりと、お互い面識の無いその様子は一見すればただの公園だ。しかし散らばっているからこそその人達の雰囲気がまるで公園全体をすっぽり覆っているかのよう。その沸騰寸前の静かな空気に、何となくお腹の中がチクチクしてきた。
「聖、緊張してんのか?もしかしたらこれから仲間になるかも知れない人達だってのに」
「あそっか、いやそうじゃなくて、いや緊張するでしょ」
「よう。君達も志願者か?」
究と一緒に振り返ると、そこにいたのは掲示板に載っていた写真の男性だった。
「あ・・・はい」
「うん。どうも」
通り過ぎていったその男性の背中を前にして、何となく足をすくませるような緊張がまた一気に膨らんでいったそんな時、男性がその空気に対して声をかけた。
「志願者達、集まってくれ」
静かにぞろぞろと集まり始める人だかり。その瞬間、ふと1人の動きの素早さに気が留まった。そして誰が何をする間もなく、その1人はその場の中央で右手を天に掲げ、その掌の上にバスケットボールほどはあるまるで太陽のように燃え盛る“緑色の火の玉”を出現させた。
え・・・・・。
そして人だかりが動きを止めたその直後、その1人は緑色の火の玉をその男性に投げつけた。燃え盛る炎が激しく風を切るような音が轟き、その男性を丸ごと覆うほどに火の玉が爆発し、人だかりの数人が悲鳴を上げる。一目散に人だかりの数人が逃げていく中、その1人は満足げに笑っていた。
「何だよ、これ・・・・・」
呟く究に一瞬だけ振り返ってからその1人に目線を戻したその時、爆発したはずの男性がその1人の背後に現れ、その1人を死角から殴りつけた。
「・・・くそっ何でだ!」
「奇襲を予想しない訳ないだろうが。こっちは本気なんだ。それにお前、この前俺が倒した奴の仲間だよな?復讐しに来たのか?」
まるで返事の代わりかのように、その1人は緑色の炎を男性に振りかけるが、炎は勢いよく払われ、その1人は再び男性に殴られる。そして間髪入れずに男性は“ただ殴り”、その1発でその1人を何メートルも吹き飛ばした。盛大にベンチにぶつかり、その1人は遂に意識を失ったように動かなくなると、男性は安堵したように息を吐き下ろした。
・・・何してるんだろ。
それから男性は志願者達には目もくれず、素早くポケットから結束バンドを取り出して気絶しているその1人の親指同士を縛り、スマホでどこかに電話をかけた。
「超能力テロを鎮圧したので至急誰かを寄越して下さい。芝浦のプラタナス公園です。はい」
男性はまた安堵したようにふうと息を吐き下ろすと、それからようやくその眼差しは志願者達に向けられた。
「能力者の戦いってのはこういうことだ。いつ戦いが始まるかなんて決まってない。怖じ気付いたならこのまま帰ってくれて構わない。それでも正義の為に戦ってくれるなら、能力者になれる石を配る」
緊張と静寂がその場を包み込むが、真っ先に歩き出した究に眼差しで催促され、気が付けば自分の手には“石ころ”が乗せられていた。
これで・・・能力者に・・・。
結局人だかりの中から残った僕と究とその他3人に石ころが渡ると、男性は本当に安堵したように笑みを浮かべた。
「来てくれて助かるよ。俺はナンバラハルタカ。組織には属してなくて、フリーで活動してる。人を募集したのは少しでも悪者を退治する人を増やしたいってのともう1つ、とあるテロリストを倒す手伝いをして欲しいから。隠してる事とかは何も無い、純粋にネットに書いてある通りだ」
「それなら、やっぱり指定自警団の方が即戦力じゃないんですか?」
そう聞いてみるとハルタカは優しさと余裕のある笑みを見せ、戦う姿からは予想もしなかったその柔らかさに、ふと緊張を忘れた。
「大丈夫だって、相手の事はリサーチしてる。初心者にも優しい奴を選んだつもりだし、それにテロを鎮圧した後の段取りは実戦で学んだ方がいい。俺達はゲームみたいにただ敵を倒せばいいって訳じゃないからな。それにもし殺せば、能力者だからって『刑の免除』はあっても人殺しは人殺しだしな」
「そう、ですよね」
「・・・俺は、本気なんだ。真剣にテロ鎮圧活動してる」
そうかと思えば柔らかい笑みは消え、その真剣な眼差しは忘れていた緊張をも連れてきた。
「あ・・・あの、何でフリーなんですか?」
「まぁ、それは、追い追いな。じゃ早速鉱石を使ってくれ。使い方くらいは分かってるよな?」
究や他の志願者達が“石ころを握り締めて祈る”のを伺ってから、石ころを握り締める右手を胸に当て、目を閉じる。欲しい力をイメージするだけ、具体的なら尚良い、そんな風にネットには書いてあるからこそここまで能力者になれる石が人気になってるが、所詮ネットの書き込みなので半信半疑、そう思いながらもそして目を開けて右手を開くと、手の中にあったはずの石ころは消えていた。
うわ、やった・・・やった!ネットには石ころが無くなる事が成功した証拠だって書いてあったし、これで、僕、能力者だ!・・・。
ふと回っているパトカーのランプを見つめる。あれから警察がやって来て、テロリストの男性はパトカーに運ばれた。そしてハルタカと少し話してお礼を言って警察が去っていくと、パトカーを見送ったハルタカはまた安堵したように息を吐き下ろした。
「分かってると思うが、ここまでが俺達の役目だ。じゃ先ずは自分の力に慣れる事が先決だから、特訓は後日改めてって事にして、今日は自己紹介で終わろうか。じゃ君からこっち周りに」
うわ、自己紹介、でもこれから仲間だし、そりゃそうか・・・。
「お、俺は三田村究、高校2年」
「僕は赤荻聖です。究とは同じクラスで、ここには一緒に来たんです」
ふと3人の面々を見てみる。同年代くらいの何となく不良っぽい男性、第一印象は当たりの優しそうな年上っぽい女性、そしてギャルっぽい派手めな女性。
「オレはコヒラユウゴウ。19っす」
「サカシタサラです。はたちです。よろしくお願いします」
「トリイスズラン、高2」
あ、タメか。でもこういう系、話した事ないんだよなぁ。てか空気が重たい・・・。
「皆、これから共に戦うんだからさ。チームワーク向上の為にもなるべく良い空気感で行こう。とりあえずグループメール設定したら解散って事で」
空気感?・・・。まいっか。
そして翌日になっていつものように登校して、ホームルーム前のこの時間いつものようにベランダで缶コーヒーを啜っていると、いつものように究がやって来る。
「使った?」
うわ、いきなり話しかけてきてすでにニヤついてる。究はもう試したんだな。
「僕のは使うのにセットアップが必要だから、まだだよ。魔王になれた?」
すると堪えきれなかったように、究は笑いを吹き出す。
「威力はまだ低そうだけど、出来ることは魔王と同じだよ。セットアップって?」
「学校終わったら上野動物園行くから、その時見せてあげるよ」
「動物園?面白そうだな、何するんだよ」
「見れば分かるっていうか、実際に見た方がいいでしょ」
「だな。ていうかさ・・・凉蘭って子、結構よくないか?」
「え!?ああいう系、好きだったんだ」
「ギャル系って言っても2種類あるじゃん?キツイのとそうじゃないの。凉蘭って子、そうじゃない方じゃん」
「まぁ、確かに」
「それにさ、どんな力かだって気になるし」
放課後になると即行で電車に乗り込み、そして上野駅。自然溢れる並木通りで長閑なのに駅から動物園までどんな時間帯でも大抵人が居るというそんな都会感を通り過ぎ、そして動物園のゲートを抜ける。
「なぁ、まさか本気で正義の味方やってくのか?そもそも俺達、能力者になりたかっただけだろ?」
「それはそうなんだけどさ、でも結果的に望んだ力って戦闘シーンありきのものだし」
「それはそうだけど、別にそれでお金稼げる訳じゃないし、冷静になってみたら戦い続けるモチベーションって無くない?」
ふと立ち止まり、ゴリラを眺める。確かに戦い続けるモチベーションなんてもの考えた事もなかった、そう自覚しながらも、ゴリラに手を伸ばして意識を集中する。ガラスで隔たれて距離もあるがその瞬間、確かに手には振動が伝わっていた。
エネルゲイア×ディビエイトでは描かれていない、地球ではその頃・・・。という物語です。
ありがとうございました