やさしい雨に
何もない休日の午後
私はあたたかい飲み物を手に
窓辺にもたれて一人で過ごす
外はひさしぶりの雨
山も木も 人もお地蔵さんも 等しく濡れて
世界は白く雨の色に包まれる
この季節に降る雨は
古い時計のように静かで穏やかだ
葉や軒から滴る水滴が
重ねた時間を懐かしむ秒針のように
音のないリズムを刻む
梢には小さな鳥
大気に満ちた水の中で目を閉じ
ゆるやかな流れに憩う魚のように
束の間のまどろみに身を任せている
雲は重たげなその身を億劫そうに動かし
風は今日という日を休日にした
その中で雨だけが
時間を刻みながら世界に向けて語っている
それは安らかな眠りにも似た「やさしい物語」
拍手もないが遮る者もいない
雨が語る物語はまだ終わらない
だから私は耳だけを世界に預けて
祈るようにそっと目を閉じた
本作は「春の詩企画」参加作品です。
企画の概要については下記URLをご覧ください。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1423845/blogkey/2230859/(志茂塚ゆり活動報告)