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オタクにとっての2007年のアキバと、アニメ「桃華月憚」の思い出

作者: オルタ

 2007年4月、アメリカの大手銀行ニューセンチュリーファイナンシャルが破綻した。

 のちにアメリカの庶民を絶望のどん底に叩き落とし、第三世界化させたリーマン・ショックのギャラホルンともいえる、サブプライムローンの貸し倒れによる倒産に、経済界は戦慄し学者は警鐘を鳴らしていた。


 しかし日本の東京は秋葉原――オタク界隈にゃ、んなことは関係なかったよね。

 本当に面白いコンテンツが目白押しだった。愚民政策は、まこと甘美なり。

 友人のカイジくんにアキバまで引っ張りまわされ、俺も堕落したオタクにまっしぐら。親のスネかじりで大学行かせてもらっている分際で、大学校内にウィスキー瓶を持ちこんでいる真面目系クズだった。酔ったまま講義に出て、それでも単位は落とさなかったけど、だからって決して誉められたモンじゃない。



 2007年はオタク文化の絶頂期であったように思う。自分が思春期の終盤にさしかかった時に上京していたので、俺が勝手にそう思っているだけかもしれない。



 「電車男」、「ハルヒ」の人気で、かの宮崎事件から続く、オタクに対する印象は少しずつ変化し始めた節目だった。

 軌道に乗り始めたニコニコ動画ではハイセンスな動画と、ナンセンスな違法アップロードによる映像が見放題。初音ミクがブレイクしてアルバムも大々的に発売され、いさじ氏やゴム氏といった歌い手のカバーも熱く、コメント職人の演出もニクい、劇場化した2ちゃんねるに熱中したニコ中が数多くいた。

 コンプティークの人気ヒロイン投票首位が、毎回「Fate」のセイバーだったのが釈然としなかった。



 当時のアキバも、毎週歩行者天国があった。

 コスプレーヤーが、百鬼夜行の如く白昼の大通りを練り歩いてるので、なんだか毎週お祭り騒ぎの只中にいるような気分。

 その人ごみの中を兄ちゃんがスケボーで縫って進んでってあぶねー。

 カメラ小僧が延々とパシャパシャやってマジうぜー。

 うぜーといえば、電気街口改札近くにあった絵画販売ギャラリーのキャッチのねーちゃんが鼻クソなみに粘着質。ガンプラ求めてラジオ館へ向かっていた俺も、ギャラリー内へご案内。当時のラジオ館は、なんというかオタクの九龍城みたいで、良い雰囲気出てたよね。ボークスが場違いにピカピカで。

 相変わらずスターケバブは屋台引いてドネルサンド売っていた。ガンダムSEEDのマネして、ヨーグルトソースとチリソース、どっちをぶっかけるかで一悶着するのはお約束。



 アニメコンテンツも豊作の年で、「らきすた」は日常系アニメの叩き台として大人気。

 古典的な熱血ものの様式を追求した「グレンラガン」、斬新なガンダムのデザインが話題となった「ガンダム00」とロボットアニメも隙がない。

 「誠死ね」のスラングと凄惨な描写が伝説を貸しつつある「School days」、海外でも評価が高いらしいノイタミナの「モノノ怪」――他にも「電脳コイル」だとか「Darker than black」だとか色々あるが、確かに熱い時代がそこにはあった。

 俺が暮らしていた田舎じゃ、アニメが全然放送されてなくて、せいぜいポケモンとナルト、あと名探偵コナンぐらいで「東京ってこんなにアニメ放送してんの!?」と夜なべして色々見ていた。え、レコーダー買え? アル中のボンクラ学生にそんなの買う金は無い。



 その中でも「桃華月憚」は異端となる作品であったように思う。声優界隈は詳しくないけど、早見沙織さんという声優のデビュー作でもあり、当時はJKだったらしい。

 原作はアダルトゲームで、メディアミックス展開された作品を紹介する。セクシャルな描写も多々ある。同性愛とか親近相姦とか。いいのかこんなアニメにJK起用して。


 異質だったのが「逆再生」という演出だった。

 プロットが1~10まであるとするじゃん? 普通は1~10の順でシナリオが展開されるていくんだけど、「桃華月憚」は10~1の順に各話を放映する、とんでもない演出がなされていた。

 つまり、最終話が初回放送で、最終回が第一話にあたる。

 これ、恐らくノーラン監督の映画「メメント」に触発されたのだろう。メメントは小説書いてる方でも、是非一度ご覧になってほしい。本当に綿密で秀逸なシナリオだ。

 ところが「桃華月憚」の場合、本当に1話~26話までを単純に逆から放映したもんで、普通にテレビ睨んでいるだけじゃ、まるで話が分からない。シナリオを分かり易くするような工夫は全くされていない。

 メメントは一本の映画だから、記憶が鮮明なまま顛末まで話を追える。

 しかし、本作は一週間というインターバルもある。話の内容が頭に残らない。

 当然話題にならず、本命のPC版原作の出来も酷いモンで、今なら「クソゲーオブザイヤーエロゲー板」に挙がる一品になるだろう。

 それでも、俺がこの作品を紹介する為にキーボード叩いているのは、この作品にノスタルジーを感じるのもそうだけど、やはり作品全体に魅かれているからか。

 実際、最終話から一話までを逆順(つまり正当なシナリオの配置順)で視聴してみれば、土着的な和風伝奇を基調とした、艶やかで吐息の湿り気を帯びたかのような作画や美術は麗しい。

 現象学や実存を問い「自分という魂だとか認識を持った『自分』が今ここにいて、生きていることへの不思議」を、恋や愛欲、親と子などを通じて悩ましくも儚げに描かれた、イノセントなテーマが根底にあることが分かる。

 というか、逆再生なんて変なやり方しないで、普通に放送していればマイナーな佳作として評価されたのでは?


 特に印象に残っているのは、ED曲である早見沙織さんが歌う「この世界がいつかは」だ。

 声優が歌手と二足のわらじを履くというのは、当時の個人的感情として気にくわなかったのだけど、この曲で認識を改められた。良い曲は、誰がどんな歌い方しよう良いものだ。

 彼女の声量はどれほどのものかは分からないが、早見さんの声質が本当に良い。一度聞いたら忘れらない。


 人に薦められたモンじゃないが、どういうワケだが自分は病み付き、そういう作品は誰にでもあると思うのだけど、俺にとってはこの作品がその一つ。東京で見ていたアニメ作品のなかで、一番好き。


 グレンラガンの方が面白さは上だけどね。

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