ラブレターの行方
迷彩服の人物は、校舎の中へと入り。
下駄箱の陰に隠れ、慎重に辺りをうかがい出した。
敵などいもしないのに。
これが、この人物の趣味ーーというか、日常。
銃を構えたまま、進み出そうとして。
「艶矢、おはよう!」
呼ばれた迷彩服の人物は、やる気をすっかり失って。
構えていたグレネードランチャーを下ろした。
ため息交じりに、
「おはよう、理奈」
そう呼ばれた人の服装は、これまた登校風景に似合わず。
舞踏会に招待されたお姫様そのものだった。
パステルピンクのふわふわのドレスに、たて巻きカールの髪。
頭にはティアラを載せて。
いわゆる、コスプレ。
「今日も天気いいね」
当たり障りない会話を、理奈は展開。
「そうだな」
何気なく返事を返した艶矢の顔の真ん前に、突然白いものーー四角い紙が現れた。
「何だ、これは?」
手紙らしきものをつかみ、艶矢は首を傾げる。
理奈は興味津々で、
「瞬間移動してきたみたいね」
艶矢は紙を裏返して、書かれていた文字を読んだ。
「K……?」
素敵な王子様を見つけたかのように、理奈は瞳をキラキラ輝かせて、
「ラブレターじゃない? それ」
「何っ!?」
迷彩服の人物は、大きく目を見開いた。
夢見る少女ーー理奈は瞳をとろけさせて、
「そうよ、ラブレターよ」
「ボクにタブレターっ!?」
艶矢は必要以上に驚いて。
いきなり、グレネードランチャーを構えた。
背中を壁に押し付け辺りを警戒する。
「誰が、ボクにラブレターを……?」
他の生徒たちを見渡すが。
艶矢の視線を気にしている子たちは誰もおらず。
みんな楽しそうに、教室へ向かってゆく。
しばらく、うかがっていたが。
差出人らしき人物を見つけることは出来なかった。
「中読んでみたら、検討つくんじゃない?」
コスプレ少女に言われるまま、艶矢は手紙を開けた。
そして、驚愕する。
「な、何だ? これは……!?」
少し時間は戻って。
艶矢の後ろ姿を見送った右京は、菫と話ながら。
校舎の入り口までやって来た。
そこで、朝の登校風景には似つかわしくない。
息も絶え絶えな声が、突如襲ってきた。
「うぅ……っ! ぐっ、ぐるしい~~っっ!」
右京は慌てて、地面へ視線を落とした。
「あぁっ!?」
大声を上げた右京の足元には。
何が起きたのか、どうしてなのか。
頭に包帯を巻き。
制服はボロボロで、あちこち破れ。
泥まみれ、血まみれで。
行き倒れている少年が独り。
力なくプルプル震える手を伸ばし、
「だっ……だずげで……!!」
「ど、どうしたっ? 何があったっ?」
右京は慌ててしゃがむが、他の生徒たちーー人族は。
なぜか、くすくす笑いながら、通り過ぎてゆき。
他の種族は、不思議そうな顔をして、血だらけの少年を眺めているだけだった。
誰も助けようとしない中、右京は、
「大丈夫かっ!?」
少年を抱き起こそうとすると、
血だらけの彼の表情は、苦痛で歪み、
「ぼ……僕はもう……ダメだ……」
死に行く運命に逆らうように、右京は必死に呼びかける。
「諦めんなって! 今、保健室に……」
だが、遅かった。
血だらけの少年は、
「ぐふっ!」
口から血を吐き出し、その血で地面は赤く染まった。
右京は少年を強く抱き寄せ、
「おい、死になってっ!! オレたちの誓いはどうなったんだよ? ふたりで、夜明けの目玉焼きを食べるって、約束したじゃねぇかっ!」
初めて会ったはずなのに、そんな言葉を発する右京。
ふたりのまわりには、いつの間にか人だかりが出来ていた。
素晴らしい演奏を聞いたあとの、称賛さながらの。
たくさんの拍手が巻き起こった。
人が死んだというのに、何だか楽しそうで。
和やかな雰囲気。
悲しんでいるはずの右京の肩も、小刻みに上下していてーー笑っていて。
親友の後ろ姿を見下ろして、菫は大きく感心。
「右京君、よくわかったね、笑いだって」
「おう?」
見習い占い師を仰ぎ見た右京の瞳は笑っていて、
「もう死ぬことはねぇんだろ? だったら、笑い取ってるしかねぇだろ」
天国の学校に転校した右京は、この世界の法則を十分理解していた。
まわりから、歓声が浴びせられる。
「面白かった!」
「すごいね!」
人族の生徒達は、ゲラゲラ大爆笑。
「栗林、今日、最高に面白かったぜ」
「栗林、いいツッコミ役が来たじゃないかっ!」
「栗林君、本当にそういう笑い好きだよね、地球じゃ不謹慎になっちゃうけど」
「神崎君も、なかなかやるね」
ケロッとした様子の、血だらけの少年は右手を、右京は差し出して、
「神崎君。僕は、栗林 霊。隊長、報告します! 組の生徒だよ」
右京はゲラゲラ笑い出して、
「だから、どんなクラス名だって!」
軽くツッコミを入れて、霊の手をしっかり握り返した。
「すげぇ面白かった」
霊は手を離し、頭に巻いていた包帯を直しながら、
「僕はとても嬉しい、君みたいな人が来てくれて。今までは、放置プレイだけだったけど、笑いの取り方のバリエーションが広がったよ」
「それもイケてんな」
ゲラゲラ笑っている右京に、霊はコクリとうなずき、
「僕もそう思う。とても気分がいいんだ、放置されるのって」
「お前ってーー」
右京が何か言いかけようとすると、本鈴が鳴り始めた。
「うわっ! やべぇって!」
右京は慌てて、教室へ走り出そうとして。
腕を不意につかまれた。
「あぁっ、何だって!」
振り返ると血だらけの少年が微笑んでいた。
「基本的に自虐的なのかな? 向こうの世界で生きていた人って」
「あぁ?」
「瞬間移動すれば、教室に着く。走らなくても」
「だから、出来ねぇんだってーー」
右京がそこまで言うと、ふたりはぱっと姿を消した。
1時限目が無事終了。
右京はほっと一息ついた。
「そういえば、右京君の教科書ってーー」
菫からの問いかけに答えようとした時、右京は視界の端で何か奇妙なものを見つけた。
親友から視線を外し、
「あぁ? 何だ?」
教室のドアの方へ視線を向けるが、特に変わった様子もなく。
「気のせいか……」
再び、菫の方へ視線を戻そうとして、
めちゃくちゃ、おかしな光景を目の当たりにした。
「あぁっ!?」
床の上を匍匐前進してくる人族、一人。
赤い短髪で、迷彩服。
背中には、グレネードランチャーを背負って、慎重に近づいてくる。
右京はその人を見下ろして、
「あれって、朝のーー」
右京の視線をたどって、菫が口を開く。
「あれ? 雁来ーー」
ふたりに気づかれ、短髪の人はぱっと立ち上がった。
気をつけをし、敬礼。
「ボクは、雁来 艶矢。隊長、報告します! 組、所属」
「所属?」
微妙に言葉のチョイスがおかしいことに、右京は食いついた。
艶矢は気にすることもなく、
「貴様が、昨日、入隊した、神崎 右京か?」
「いやいや、入学だろ」
右京の素早いツッコミを、スルーし。
艶矢はポケットから、くしゃくしゃになった白い封筒をとり出した。
机に叩きつけ、
「これを書いたのは、貴様か?」
「あぁ?」
右京は真顔に戻り、出されたものに視線を落とした。
端の方に、『K』と記されている。
「何だ? これ」
「ラブレターだ」
「あぁっ!?」
右京はびっくりして、椅子から転げ落ちた。
「答えろ、貴様が書いたのか?」
「いててててっ……!」
右京は腰を手でさすりながら、心外そうに、
「何で、オレが、男のお前にラブレターなんか書くんだよ!!」
オレはノーマルだって。
右京はぷるぷるっと身震いして、
「だいだい、イニシャルが一緒だからって――」
そこまで言った時、艶矢は突如、右京の胸ぐらをつかんだ。
「貴様っ!!」
「うわっ!」
無理矢理立たされた右京は、苦しそうに表情を歪めた。
「なっ、何だ……よ?」
「右京君……」
声の聞こえてきた方へ顔を向けると、菫がやっちゃったねというような顔をしていた。
艶矢は右京をぱっと離し、手をワナワナと震わせて、
「ぼっ……!」
「ぼ?」
喉をさすりながら聞き返してきた、右京の瞳を。
艶矢はきっとにらみ返し、校舎中に響くような大声で叫んだ!
「ボクは女だっっっ!!!!」
「あぁっっっ!?!?」
右京の声も、校舎中に響いた。
クラスメイト全員が振り返り、右京と艶矢を見守る。
「…………」
衝撃のあまり、さすがの右京もしばらく、口をぽかんと開けたままだった。
すっかり、静まり返った教室。
しばらくして、艶矢は気まずそうな顔で、
「何だ?」
聞き返されて、右京はやっと口が利けるようになり、
「お、お前、女……?」
きゃしゃな体つきをした人物を、右京は横から眺めて。
胸の膨らみを見つけ、ぺこっと頭を下げた。
「すまねぇ……。ボクっつってっから、当然そうかと」
「いや、いい」
艶矢は短く言って、手紙をつかんだ。
「貴様じゃないんだな? これは」
「会ったこともねぇやつに、ラブレターは渡さねぇだろ? 普通。オレ、昨日、入学したばっかだって」
「確かにそうだな……?」
艶矢はそう言って、腕組みをした。
「じゃあ、こいつの頼み聞いてやれないな……」
「頼み?」
「そうだ、頼みだ」
ラブレターにしては、おかしな言葉を聞いて。
右京と菫は顔を見合わせた。
「?」
「他を当たるーー」
「なぁ? 中身、見せてくんねぇか?」
去っていきそうになった艶矢を、右京は引き止め。
艶矢は振り返って、手紙を差し出した。
「……あ、あぁ」
菫も見ようと思い、近寄る。
右京は封を開けて、中身を取り出した。
そして、そこにはこんな言葉が書かれていた。
雁来 艶矢 様
君の爆弾で、爆破されたいです。
右京は菫にささやく、
「なぁ? この世界じゃ、これをラブレターっていうのか?」
菫は複雑な顔で、
「違う……と思うよ」
そこで、女の子の元気な声が響いた。
「ーー艶矢? ラブレター書いた人、見つかった?」
「……あぁ、理奈」
艶矢は振り返って、残念そうに首を横に振った。
「違った、神崎じゃなかった」
舞踏会へ来たお姫様みたいな女の子を見つけ、右京は素早く、
「それ、コスプレかっ!?」
理奈は得意げに微笑んで、
「そうよ。あたしからコスプレを取ったら、何も残らないわね」
右手を差し出し、ウインク。
「あたしは、坂口 理奈。よろしくね、神崎君」
「おう、よろしく」
握手が終わると、理奈はあごに手を当て考え出した。
「そっか、神崎君じゃないとすると、あとは誰かしら?」
「カンブラ、水晶で、ちょちょいとやってくれ」
「えっ?」
いきなり、艶矢に鑑定をお願いされた菫は、珍しくびっくりした。
右京は頭の後ろに両腕を当てて、手紙の内容を思い返す。
「にしても、そいつ、すげぇ自虐的ーー!!」
何かひらめいて、急にニヤニヤし出した。
「あいつだろ。ってか、あいつしかいねぇだろ、こんなこと書くの」
みんなに気づかれないようささやき、窓の外へ視線を向け、
「…………?」
なら、もっと面白くしてやんねぇとな。
どうすっか?
窓ガラスに映った、お姫様を見つけ。
右京はピンとひらめいた。
「おう! それいいじゃんか!」
くるっと、理奈の方へ向き、
「なぁ? 坂口」
「え、何?」
まったく関係のない自分を指名されて、理奈は不思議そうな顔をした。
右京はお姫様を手招きして、コソコソ話。
聞き終えた理奈は、
「それなら、持ってるけど……」
「よし! じゃあ……」
右京はそう言って、艶矢と菫も呼び寄せた。
「何だ?」
「何? 右京君」
円陣を組み形で、作戦会議が始まった。
他の生徒(動物)たちは、人族のすることはよくわからないというように、それぞれまた話し始めた。
全て聞き終え、菫は少し困った顔をした。
「でも、今日はみんな、学校にいるよ」
艶矢が得意げに、
「それなら、心配ない。昨日、あれから改良した」
そう言って、ポケットから、手榴弾を取り出した。
「いやいや、持ち歩くなって」
右京がゲラゲラ笑うと。
艶矢は真面目な顔で、
「特殊部隊が、手榴弾を持つのは当然だ」
理奈が念を押すように、
「で、あたしが渡せばいいのね?」
「おう!」
右京がノリノリでうなずくと、作戦会議は終了した。
昼休み。
暖かな陽射しが空から降り注ぎ。
優しい風が、中庭を吹き抜けてゆく。
そんなのどかな風景に。
血だらけの生徒が、ベンチに腰掛けていた。
包帯を巻いた手で、器用にブルーチーズパスタを口へ運び。
ボロボロの服が風になびくと、霊は空を見仰ぎ見た。
「神崎君か……」
違う世界で生きていた人の影響力は底知れず。
霊にとっても、価値観を変えるいい機会となっていた。
頭に巻いている包帯をいじりながら、
「もっと面白い方法があるかも知れないな。どうすれば……?」
そうつぶやいた時、霊の視界の端に学校の校舎が映った。
「そうだ!」
その時、
「ーーこれを書いたのは、あなたかしら?」
「ん?」
視線を下ろすと、ゴスロリ少女が立っていた。
手に持っていたムチを強く横へひっぱり、パチンパチンと鳴らしつつ、
「質問に答えなさい」
霊は目をパチパチさせて、
「坂口さん? 何してーー」
「おだまりなさいっっ!」
どこぞの女王様のように、理奈は高飛車に言って。
ムチをピシャンと、地面に叩きつけた。
「え、えぇっ!?」
霊はおびえた表情を見せ、理奈は妖艶に微笑んだ。
「いいから、私の質問に答えなさい!」
近くで、ランチを楽しんでいた他の生徒達が、ざわめき出した。
「何、どうしたの?」
「あ、栗林だ」
「また、笑い?」
まわりの反応には、お構いなしで。
自虐的少年ーー霊と。
ゴスロリ少女ーー理奈は対峙していた。
「私の質問に答えなさい。それとも、痛くして欲しいのかしら?」
「あ、あ、あの……」
霊は後ずさりしようとしたが、ベンチに腰掛けていたため出来なかった。
そして、言葉は途切れた。
「…………」
「…………」
理奈と霊は互いをじっと見つめ合い。
心の中で、会話し始める。
え~~と、どんなお仕置きの方法があるかしら?
それはね……。
霊は理奈の瞳から視線をそらし、彼女の履いているピンヒールを凝視した。
霊の心を読み取った理奈は、びっくりして。
かかとをきちんと揃えて、固まった。
さりげなく、霊の後ろにある茂みをうかがう。
「…………」
踏んでいいの?
黒髪の少年がひょっこり顔を出したが、笑いを堪えるために、悶え苦しんでいた。
後ろから腕が2本伸びてきて、茂みの中へ引っ張り込まれる。
しばらくの間があって。
再び、黒髪の少年が顔を出した。
今度は笑っていない。
理奈の問いかけに、大きく何度もうなずく。
ゴスロリ少女は飽きれたため息をついたが、女優魂を見せ。
霊の足を、ピンヒールで踏みつけた。
「早く答えなさ~い!!」
「い、痛いっ!」
霊は苦しそうな顔をしているが、至福の時を迎えていた。
ちょっと気分が乗ってきた女王様は、ムチでパシパシと地面を叩いて。
「もっと、痛くして欲しいのかしら?」
瞳をウルウルさせて、霊は許しを乞うた。
「ご、ごめんなさい。ぼ、僕です……」
理奈は霊のあごに手を当て、妖艶に微笑む。
「そう……」
「……あ、あの…」
理奈は目を細めて、
「あなたの望み、叶えてあげるわよ」
ゴスロリ少女の手の中に、突如ロープが現れた。
「そ、それで……何を……!」
霊は恐怖の表情を、嬉しそうに演じた。
しばらくののち。
中庭のベンチに、ロープで縛りつけられた、自虐的少年が誕生。
身動きの取れなくなった霊は、視線だけをゴスロリ少女へ向け、
「さ、坂口さん? これは一体、何の真似?」
茂みに隠れていた、黒髪少年は。
笑い声が漏れないように、口元を押さえ、心の中で爆笑していた。
いやいや、お前。
全然、抵抗しなかったじゃねぇか。
何が、『何の真似?』だよ。
思いっきり、期待してたんじゃねぇか!?
霊の顔に、理奈は顔を近づけて、
「さぁ、あなたの欲しがっていたものよ」
そう言って、手榴弾の首飾りを、霊の首にかけた。
「え、えぇっっっ!?」
おびえている霊の頭を、女王様は優しくなで、
「大人しくしてなさい。快感はもうすぐ訪れるわ」
ピンをすっと引き抜き、一瞬のうちに女王様は姿を消した。
その直後。
ドカーンッッッッッ!!!
轟音が鳴り響き。
モクモクと煙が上がったが。
まわりにいた生徒達も建物も、巻き込まれることはなかった。
ーー職員室にいた安斎は。
「またですか……」
天使の笑みを見せていたが、その表情の下には悪魔が潜んでいた。
「雁来さんには少しお仕置きをしないといけないみたいですね。うふふふふっ……」
ーー爆発した地点へ。
ランチを楽しんでいた他のせいたちの視線は集中した。
「ど、どうしたっ!?」
モクモクとした煙が消えると、
「うぇっ、うぇっ、うぇっ……!」
手足を痙攣させ。
さらに、ボロボロになった霊が、ベンチにぐったりもたれ掛かっていた。
右京を初めとする、自虐ネタのわかる生徒達は、ゲラゲラ笑い出した。
「いい動きするじゃねぇかっ!!」
「いいぞ、栗林っ!」
「また、笑い取ってる……」
見習い占い師ーー菫もくすくす笑っていた。
「栗林君のあの動き、僕も好きだよ」
理奈は飽きれたため息をつく。
「まったく、男って……」
「よし、このまま放置ーー」
右京が放置プレイを始めようとすると。
さっきまで、ことの成り行きを黙って見守っていた、特殊部隊員ーー艶矢がぱっと茂みから跳び出していった。
「あっ! 放置だって!」
右京は止めたが、それを無視して。
艶矢は、未だ手足を痙攣させている、霊の真ん前に立って。
大きな声で聞いた。
「どうだ? ボクの爆弾は」
ざわついている昼休みの中庭に、艶矢の一言が一石を投じた。
爆弾事件を眺めていた他の生徒たちは、一瞬にして真顔に戻り。
手足を痙攣させていた霊も動きを止め、艶矢の顔をまじまじと見つめ返した。
「…………」
「…………」
数秒の沈黙が流れ。
やがて、霊が口を開いた。
「よかったよ、ありがとう」
思いっきり自虐的な発言が、中庭に響き渡り。
笑いのわかる生徒たちが、大爆笑し出した。
その中にはもちろん、右京の笑い声も混じっていた。
「どこまで自虐的なんだって!」
ひとしきり笑い終えると。
再び、穏やかなランチタイムに戻った。
霊は艶矢に、
「神崎君でしょ? こんなこと考えたの」
「なぜ、知っている?」
素直に聞き返した艶矢に、霊はくすりと笑った。
「やっぱり……」
「うっ!」
カマをかけられたことに気づいた艶矢は、言葉をつまらせ。
背後にある茂みに向かって、霊は声をかけた。
「神崎君、そこにいるんでしょ?」
「おう!」
右京は元気よく茂みから跳び出した。
彼の後ろから、菫と理奈も顔を出す。
霊は右京を呼び寄せて、
「さっき、いいこと思いついたんだけど……」
「おう?」
霊は右京の耳に口を寄せ、何かコソコソ話し出した。
話が終わると同時に、右京はゲラゲラ笑い出し、
「すげぇ面白ぇじゃんか、それ!」
「でしょ?」
「けどよ……」
右京は少し困った顔をして、
「オレ、瞬間移動、出来ねぇんだって」
「じゃあ、これを機に練習しよう」
「よし、練習すっか!」
「やり方は、簡単だよ」
「おう、そうなのかっ?」
ふたりだけで盛り上がっている右京と霊の背中を。
理奈、艶矢、菫は見つめながら、
「何だか、楽しそうね?」
「カンブラ、今度こそ、水晶だっ!」
「わかった!」
艶矢に言われた通り、菫は水晶玉を取り出し。
神経を集中させ、イメージを読み取る。
「そっちの校舎が映ってる……」
「何で……?」
艶矢と理奈の声が重なった。
3人が見つめる先には、昇降口のある校舎が映っていた。




