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こいキャラ学園  作者: 明智 倫礼
5/9

登校風景

 右京はベッドのすぐ側にあった、目覚まし時計を見て、


「……7時45分」


 ぼんやりした頭の中で、担任教師ーーハウゼンの言葉がよぎる。


『登校時刻は、8時10分だから』


 眠気は一気に覚め、慌てて飛び起きた。


「やべっ!」


 ハンガーにきちんとかけられていた学ランを、手早く取って、着替え始める。


「やべぇ、やべぇっ! バスで20分かかっただろ? あと5分で、バス停に行かねぇと」


 神業のごとく、猛スピードで着替え終えた右京は。

 部屋のドアをバッと開け、右往左往する。


「あぁ~っと、出口どっちだって?」

「ーー神崎君、起きた?」


 声のしてきた方へ、右京は歩いていき。

 突如、目の前に広がった光景に思わず、


「すげぇ…………」


 感動している右京の眼前には、綺麗な街並みが広がっていた。

 朝の日ざしがキラキラと降り注ぎ、今まで見たこともない美しい風景に見とれていると。


「おはよう、神崎君」

「……お、おはよう」


 右京が部屋へ視線を戻すと。

 コーヒーカップを手にしたミハイルが、ソファーへのんびり腰を下ろし、


「ここは、創造意欲をかき立ててくれるから、僕も好き」


 そこで、右京は昨夜、記憶が途切れる寸前の言葉を思い出した。


『ハインリッヒ君、神崎君を部屋にーー』


 右京は申し訳なさそうに、


「昨日は、すまねぇな。運んでくれたんだろ?」

「普段、体験出来ないことが出来て、楽しかった」

「おう、そうか……」


 和やかな雰囲気に包まれて、右京はソファーに腰を下ろそうとして。

 重大な事実に気づいた。


「遅刻、遅刻っ! ミハイル、何、のんびりコーヒー飲んでんだよ?」

「それはね……?」


 カップを口に当てたまま、ミハイルはぼんやり考え出した。

 焦っている右京は、髪の毛をかきむしり、


「あぁ~っ!! 考えんな、行くぞっ!」

「えっ?」


 ミハイルはカップをテーブルへ置いたが、ソファーに座ったままだった。

 右京は真剣な眼差しで、


「早く、学校行かねぇと!」

「あぁ~、神崎君は、今すぐ学校に行きたい?」


 のんびり聞き返してきたミハイルとは対照的に、右京は素早く、そして短く。


「おうっ!」

「わかった、はい」


 ミハイルはそう言って、右京の手をつかむと。

 ふたりはぱっと部屋から姿を消した。



 真っ白な光に、一瞬包まれたかと思うと。

 右京は風を感じた。


「おう?」


 光が消え去ると、そこはーー学校の正門前だった。


「着いた」

「あ、あぁ……」


 右京は何が起こったのかを知り、気まずそうな顔で、


「……瞬間移動で、登校してんのか? いつも」

「うん」


 まだ誰も登校してきていない、静かな光景に。

 右京のお腹の音が鳴り響いた。


「食ってくりゃ、よかった……」

「もしかして……?」


 また考え出したミハイルを前にして、右京はぱっとひらめいた。


「バスで来ようと思ってたぞ」

「あぁ~、だから、急いでた?」


 にっこり微笑み返したミハイルの金髪が、朝日にきらめいていた。


「おう……」


 照れたようにうなずいた右京へ、ミハイルは手を差し出して、


「1回、戻る?」

「……すまねぇな」


 右京がミハイルの手をつかむと、ふたりはまた姿を消した。



 そして、8時ちょうど。

 登校時刻、10分前。

 右京はミハイルの瞬間移動で、正門前に再び立っていた。


「サンキュウな」

「うん、それじゃ」


 ミハイルは正門には入らず、道を歩き出そうとして。

 おかしな行動をするルームメイトの手をつかみ、右京は、


「あぁ? どこ行くんだよ?」

「え~っとね……?」


 のんびり考え出したミハイルの背後に、突如人が現れた。


「あ、おはよう! 右京君」

「おう、菫、はよっ!」


 軽く挨拶を返してきた親友の隣りの人を見て、菫は少し驚いた顔をした。


「あれ? ミハイル君、今日、大学じゃなかった?」

「大学?」


 右京はそう言って、菫とミハイルを交互に見た。


「うん」


 ただうなずき返したミハイルの代わりに、菫が説明する。


「ミハイル君は小さい頃から絵の才能があってね。小学生の頃から、美術の授業だけは、大学で受けてるんだよ。だから、今日の美術の授業、ミハイル君は大学で受けるんだよ」

「すげぇ、飛び級かっ!」


 感激している右京とは対象的に。

 落ち着いた様子で、ミハイルはゆっくりとうなずく。


「うん」


 そして。

 さっきまでとは違って、ミハイルはテキパキ話を始めた。


「でも、大学に通ってるだけじゃわからないことがあるって気づいた。神崎君に会って、僕の知らないことはたくさんあるんだって気づいた」

「あぁ?」


 右京は不思議そうに聞き返した。

 天才絵描きは、幸せそうな顔で、


「バスに乗って、学校に来るのもいいのかも知れない。いつもと違った景色を、いつもと違ったスピードで見て、そこから、良い絵の構想が浮かぶ気がする。ありがとう、神崎君」

「お、おう……こっちこそ、サンキュウな」


 右京は思いっきり照れた。


「それじゃ、また」


 ミハイルの姿が消えると、右京と菫は学園の敷地内に入った。

 その時。

 右京の右隣を、ビューッという強風を伴って、巨大な龍が通り抜けていった。


「うわっっ!」


 正門をすり抜け、校庭にふんわり下り立つ。

 まるで、神の降臨のように。

 龍の背中から、人や虎、ペンギン、蛇などが。

 続々と地面に降りた。


「ありがとう」

「いいってことよ」


 龍がそう答えると、何事もなかったように。

 校舎へ向かって、みんな歩き出した。

 右京は目を激しくぱちぱちさせ、


「な、何だ!?」

「一緒に登校してきたんだよ」


 当たり前のように返してきた菫に、右京はぼそっと、


「登校っつかーー」

「ーーおはよう!」


 クラスメイトの猫が、自転車で勢い良く追い越してゆく。


「はよ」

「おはよう」


 菫は途切れた会話を再開する。


「龍族は体が大きいし、力も強いから、みんなのこと乗せてくるんだ」

「スクールバスじゃなくてスクールドラゴン……」


 右京がニヤニヤし始めると。

 突如、強風が吹き荒れた。

 ゴォーッと、地面を揺らすほどの爆音が響く。


「な、何だっ!?」


 あたりをキョロキョロ見渡すが。

 強風と轟音をまき散らすようなものは見当たらなく。

 いたって、平和な登校風景。

 しかも、驚いているのは右京だけで。

 菫は慣れた感じで、


「ステルス戦闘機だよ」

「あぁっ!? 何で、学校に戦闘機ーー」


 轟音にかき消されないように、右京が叫ぶと同時に。

 空から、ガシャーンと、釣りハシゴが降りてきた。


「あぁ?」


 上を見上げると、慣れた感じで人が滑るように降りてくる。

 迷彩服を着て、腰にはサバイバルナイフ。

 背中には、グレネードランチャーを背負い。

 思いっきり完全武装。

 だが、きゃしゃな体つきで。

 ハシゴの途中から、ストンと軽やかに飛び降りた。

 錆びたような、くすんだ赤い短髪が。

 戦闘機から発生する強風にあおられている。

 背中から、グレネードランチャーを素早く取ったかと思うと。


「ゴーッ、ゴーッ、ゴーッッッ!!!」


 そう言いながら、警戒体制ーー腰を低くし。

 足早に校舎へ向かっていった。

 右京は呆気にとられ、


「何だ? あれ……」

「安斎先生のクラスの子だよ」


 右京はそこで、昨日、塔の上で体験したことを思い出した。


「あいつかっ!? 昨日、校舎、破壊したの」

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