桜舞う場所で
どこまでも続いてゆく、桜並木を前にして。
右京は幸せそうに、
「こんな綺麗なの見たことねぇ……」
生きていた頃とは比べものにならないほどの美しい景色。
誘われるように、並木道の方へ歩き出そうとして。
「ーーぶるかる」
優しいが、芯のある声が響いた。
「あぁ?」
かかとを軸にして、右京がくるっと振り返ると。
クリーム色のローブに身を包み。
ふんわりと癖のついた金髪の少年が立っていた。
一瞬にして、姿を消し、
「僕が描いた絵」
また、後ろからーー桜並木の方から声が聞こえた。
「おう?」
瞬間移動か?
右京が再び正面を向くと。
美しい並木の真ん中で。
オリーブ色の瞳が、優しく微笑んでいた。
少年は手を景色にかざし、ドアをノックするようにした。
すると、コツコツと音がして。
「おう?」
右京はぱっと近づき、手で触ってみた。
紙のガサガサという感触が伝わる。
「マジだな……」
金髪の少年は、右手を差し出し、
「僕は、ミハイル ハインリッヒ。君のルームメイト、よろしく」
右京は、ミハイルの手をしっかりと握って、
「おう、よろしく。オレはーー」
「知ってる。確かね……」
ミハイルはそう言って、遠くを見つめた。
「…………」
「…………」
「…………」
それっきり何も言わず、動きもしなくなったミハイルを。
右京はまじまじと見つめ、
「…………」
あぁ?
何だ、この間は?
ーーーー1分経過。
何事もなかったように、ミハイルは右京に視点を合わせ、
「……神崎君。神崎 右京君。僕と同じ16歳。今日、こっちの世界に来た子」
右京は気を取り直して、ノリノリで、
「おう! すげぇ。何で知ってんだよ?」
「それはね……?」
ミハイルはそこまで言うと、また遠くを見つめた。
「…………」
「…………」
「…………」
右京はミハイルのオリーブ色の瞳をのぞきこみ、
「…………」
あぁ?
だから、何だって? この間は。
笑い取ってんのか?
ーーーー再び、1分経過。
また、何事もなかったように、ミハイルはのんびりと、
「……1ヶ月前に、カンブラ君から聞いた」
「……おう、そうか」
独特な雰囲気に気圧されながら、右京は返事をした。
絵の方へ振り返って、
「マジですげぇな、これ」
プルミエがにっこり微笑みながら、
「神崎様が暮らしていた世界で、咲く花だと聞いて、ハインリッヒ様が、神崎様のために、1ヶ月前から描き始めたものなんですよ」
それを聞いて、右京は嬉しそうな顔をミハイルへ向けた。
「おう、サンキュウな」
「気に入った?」
ミハイルは両手を前で組み、小さい子供のように、可愛く体を傾けた。
右京は絵の方に視線を向けて、
「おう、すげぇ気に入った」
「よかった」
仲良く話している少年ふたりを、プルミエは優しく見守りつつ。
仕事のために、彼らに気づかれないよう、すうっと離れていった。
まるで風に木々が揺れているような動きのある絵を前にして、右京は深く感心する。
「本物かと思ったぜ」
そこで、心なしか、ミハイルの様子が変わった気がした。
「遠近法を使ってるから」
「あぁ~、聞いたことあんな」
何気ない返事を返してきた、絵心のない右京を前にして。
ミハイルは持っていた筆の柄を使って、絵を指した。
「例えば……一番手前の木を1とすると。次の木は、0.935。2番目の木は、0.875」
ミハイルはそこまで言って、柄を動かし、
「こっちの並木は、13度カーブしてるから、2番目の木は0.925になる」
「お、おう……」
頭の中をはてなマークでいっぱいにしながら、右京はとりあえずうなずいた。
「描き始める順番っていうのもあって、この絵の場合は、右の……」
ミハイルはさらに、別の場所を指して、
「この花びらの部分から描くと、比較的描きやすい。次は、左の3番目の木の根元で……」
「お、おう……」
それから、しばらく。
ミハイルは絵の説明をテキパキとし。
右京が戸惑いながら、返事を返すという時間が流れた。
「ーーそれで、最後にこの部分を整えたんだ」
やっと話が終わったのを知って、右京は素直な感想を述べた。
「すげぇなマジで」
オレにはさっぱりだけど。
お前がすげぇのはわかんぞ。
「ありがとう」
ミハイルは照れたように笑った。
右京は素朴な疑問を口にする。
「けどよ、何で、ロビーで描いてんだ?」
「それはね……?」
さっきまで、テキパキ話していたのが嘘のように、ミハイルはまた考え出した。
「…………」
「…………」
「…………」
右京は、オリーブーーミハイルの瞳に映る自分をまじまじと見つめる。
「…………」
あぁ~っと……。
だから、この間は何だって?
背後から、不意に別の声が聞こえてきた。
「右京君の歓迎会が、ロビーであるからだよ」
「あぁ?」
振り返ると。
さっき別れたはずの、菫がいた。
その後ろには、セクシーなドレスを着たステファン校長。
サングラスで、仁王立ちを決めている教頭のボルグ。
天使の笑みを向けている安斎に。
ウェスタンガールの担任、ハウゼン。
そして、おちゃめな蛇、ガンダーラ。
その後ろには、龍だのパンダだの、ヒョウだの……いわゆる、クラスメイトがずらりと並んでいた。
菫はみんなを代表するように、嬉しそうに親友に近寄って、
「ウチのクラス、宇宙の平和を守ろうぜ組のみんなと、他のクラスの子たちーー」
右京は慌てて、遮った。
「ちょっと、待てっ!」
「え……?」
菫のブルーグレーの瞳が不思議そうに、パチパチと瞬きした。
右京は占い師見習いの両肩に手を置いて、
「今、さりげなく、おかしなこと言ったぞ。笑い取ってんのか? 菫」
「おかしい……?」
菫と同様に、親友の後ろにいるクラスメイトたちは互いに顔を見合わせた。
「……ん?」
「宇宙の平和を守ろうぜ組って……。オレたち、正義の味方か?」
菫の代わりに、後ろに控えていた、スレンダーなヒョウの少年が、
「こう見えても、ハウゼン先生、昼間は先生やってるけど、夜は悪者倒してるんだぜ」
「あぁ?」
右京はヒョウの鋭い瞳をじっと見つめ、彼の言葉の真意を見極め始めた。
真顔で、ヒョウは続ける。
「だから、ハウゼン先生、素顔見せてないんだぜ」
「あぁ?」
笑いだろ、これ?
だったらよ……。
右京は笑いをとろうとして、ヒョウから、ウェスタンガールへと視線を向けたが、
ハウゼンに先手を打たれた。
「体育祭は、もう少しあとだね」
場違いな言葉を返してきた担任に、右京は素早くツッコミ。
「いやいや、それは、選手宣誓だって!」
ハウゼンはさらに、
「あぁ~、煮物にするとおいしいよね?」
「それは、切干し大根っ!!」
「何の代わり?」
「それは、代行っ!」
見事なボケツッコミが、何度かくり返されると。
クラスメイトから、拍手が巻き起こった。
「すごいっ、すごいっ!」
「さすが、神崎君っ!!」
そこへ、やる気の感じられないーーステファンの声がぴしゃり。
「いいから、お前ら準備しろ! いつまで、しゃべってんだ?」
「は~いっ!」
生徒たちは素直に返事をすると。
ボルグ教頭の指揮の下、テキパキと準備が始まった。
「何してんだ?」
突っ立ったままの、右京はみんなを眺めていた。
菫は、易者のように、割りばしを手に持って。
「お花見っていうのをやるんだよ」
本物と見間違えるような桜並木の絵を前にして、右京はすんなり納得した。
「おう、そういうことか」
「新しい人が入ると、やるんだよね?」
菫はそう言って、ウインクして見せた。
「あぁっ!? 違ぇーー」
何か勘違いしている親友に、右京はびっくりしようとして。
「ーー神崎君?」
「おう?」
右京が振り返ると。
天使のような笑みで、安斎が手招きしていた。
「さぁ、場所取りをして下さい」
「いやいや、意味わかんねぇって。場所はもうあんだろ」
安斎は不思議そうな顔で、
「おや? 新しく入った方がすると、うかがったんですが……」
「それは、新入社員だろ! オレは新入生ーー!?」
右京はそこまで言って。
床に敷かれていた、赤と白の布を見つけ、大声を上げた!
「あぁっ!? 何で、紅白幕、下に敷いてんだって!」
「えっ?」
作業をしていたゾウとウサギが手を止め、右京の方へ顔を向けた。
右京はクラスメイトの間に視線を走らせ。
テカテカと光るものを見つけ、指差した。
「そっちの青いのが下だって」
「これ?」
イルカがぷかぷか空中を浮きながら、右京の側へやって来た。
いつの間にか、他のクラスメイトも注目していて。
みんな、不思議そうな顔をしている。
右京はそれを見て、盛大にため息をついた。
「人じゃねぇやつは仕方ねぇとして……。地球じゃ、動物は花見しねぇかんな」
人族ーーステファン、ボルグ、ハウゼン、安斎、菫を見渡して。
「地球で生きてたやつ」
「はいっ!」
「あぁ……」
ハウゼンはぴょんぴょんと元気よく、両手をあげて、飛び上がり。
ステファンは面倒くさそうに、やる気のない視線を向けた。
右京はふたりにさらに聞く。
「日本で生きてたやつ」
シ~~ン……。
誰一人、反応しなかった。
右京は何かを吹っ切るように、軽く息を吐き、
「仕方ねぇな、オレが仕切るか!」
「よろしく~!」
みんながうなずくと。
主賓であるはずの右京は、テキパキ指示し始めた。
「いやいや、カラオケはシートの端だって、真ん中じゃ邪魔になっちまうだろ」
「神崎君、これはどこに置く?」
ピラミッド状に積み上げられた、白く丸いものを見つけて。
右京は言葉を失った。
「あぁ~っと……」
それは、月見団子だろ。
季節、間違ってんぞ。
「どうしたの?」
細い体で、月見団子を一生懸命運んでいるリスに、顔をのぞきこまれ。
右京の瞳には優しさが広がった。
「…………」
細けぇことはいいだろ。
楽しけりゃ。
そう思って、右京はリスに首を横に振って見せた。
「いや、何でもねぇ。それは、真ん中な」
「うん、わかった~」
運んでゆくリスの尻尾が、楽しそうに揺れているのを見て。
右京の心は幸せで満たされた。
そうやって、花見の席は整い。
少しの間違いを含みながらも、準備は終了した。
担任ハウゼンが、紙コップ片手に、
「それじゃ、神崎君の入学を祝って、チアーズッ!」
「チアーズッ!」
英語で乾杯し、それぞれ好きなものを取り始めた。
菫は使い慣れない箸で、卵焼きをつかんで、
「さっきはどうしようかと思ったよ」
「うんぁ? しゃっき?」
唐揚げを口いっぱい頬張っている右京は、モゴモゴしている。
「右京君、どこかに食べに行くみたいだったから、寮に来るかどうか心配で……」
右京はオレンジジュースで、口の中のものを喉の奥へと流し込み、
「……ん、おう。さっきの菫は、かなりイケてたぞ」
バス停で、ソワソワして。
突然、意味不明な言葉を言い始めた、占い師見習いを思い出して。
右京は楽しそうに笑った。
菫は顔を少し赤らめて、
「……あぁ……うん。必死だったからね、僕も」
突如、右京の背後から、肩に誰かがもたれかかってきた。
彼の手にあった紙コップから、オレンジジュースが少しだけ零れた。
「うわっ!」
「何、ジュースなんか飲んでんだよ」
やる気のない声が耳元で聞こえ、右京は振り返った。
「何だよ、ステファン!」
「いいから、これ飲め」
酒臭い息を吐きながら、ステファンはそう言って。
紙コップを、右京の前に差し出した。
「あぁ?」
中をのぞき込むと、透明な液体が。
「水……?」
顔を近づけて、右京は眉をひくつかせた。
「これ、日本酒だろ! 何で、勧めんだよ?」
さらに、おかしな校長を指摘する。
「つかっ! ハシゴすんなって! 校長室でも、飲んでたじゃねぇか!」
「あぁ? 何か文句あんのか?」
ステファンに顔を近づけられ、右京はぷるぷると首を横に振った。
「な、何でもねぇ……。目ぇ座ってるって……」
ステファンは気だるく、紙コップを傾け、
「あっちの世界で酒飲んじゃいけねぇ理由って、何だ?」
「おう……?」
右京は真顔に戻って、向かいの席で。
食べ物をもぐもぐと一生懸命食べている、担任ハウゼンと。
一口食べては、遠くへ視線を向け。
しばらく固まったまま、微動だにしないミハイルを、見比べながら。
右京は考えを整理した。
ステファンに再び視線を戻し、
「……体の成長に害が及ぶからだろ?」
「なら、もう関係ねぇだろ」
ステファンはそう言って、日本酒を一気に飲み干した。
「はぁ?」
不思議そうな顔をした右京から視線を外して、ステファンは大きくため息をついた。
「ボルグ! 酒!」
「いやいや、話途中だって!」
ステファンは自分の膝の上で、頬杖をつき、
「お前、死んだんだろ?」
「おう?」
空になったステファンの紙コップに、日本酒がコポコポと注がれ始め。
背後から、ボルグの野太い声が聞こえてきた。
「この世界では、肉体というものは存在しない。だから、酒に関する規制は特にない」
「おう、そうか」
振り返って、目を大きく見開いた。
「あぁっっ!?」
この世のものとは思えない光景を見て。
右京は震える手で、ボルグを指差した。
「……そ、その服、何だよ?」
「給仕係だからな」
堂々と答えた、図体のでかい黒人ーーボルグ。
サングラスをかけた彼の服装は、なぜかメイド服だった。
右京はぼそっと。
「それは、女が着るもんだろ」
「っ!」
サングラスをかけていても、ボルグが驚いたのがわかるほど。
珍しく、彼は慌てふためいた。
行き場のなくなった視線を、青いシートへ落としたボルグの頬は、心なしか赤みが差していた。
「……………」
無言で、指をぱちんと鳴らすと。
メイド服は消えうせ、一瞬にして、かっちりしたタキシード姿になった。
「ーーそれでは……」
エコーのかかった声が、不意に聞こえ。
そちらに顔を向けると、マイクを持っているライオンが一匹、二本足で立っていた。
「歌います! 『叫べ! 百獣の王』」
ヒーローものの主題歌によくありがちな、勇敢なイントロが流れ始め。
オーバーアクションで、ライオンは熱唱し始めた。
「あいつ、すげぇ面白れぇ」
右京はゲラゲラと笑って、たくあんをカリカリとかみ砕いた。
絵とは思えないほど、美しい桜並木を眺め。
照明を落とした、シャンデリアを見上げる。
「……向こうと違って、すげぇ楽しいなぁ」
曲が終わると。
少し離れたところで、女の子たちの黄色い声が突如上がった。
「安斎先生、私、それやります!」
「私も、私も!」
「私もです!」
右京が視線を下ろすと。
女子高生に囲まれた、貴族服を着た安斎が視界に入った。
「そうですか。やっていただけますか?」
「おう? モテモテじゃねぇか、安斎」
右京の冷やかしに、かっぱ巻きを食べていた菫が、
「今日は、そうでもないよ」
「あぁ?」
「いつも、気絶する子がいるからね」
右京は飽きれたため息をついた。
「安斎……お前、どんな術使ってんだって。っつか、生徒、気絶させんなって」
右京の視線の先で、安斎が不敵な笑みを見せた。
「うふふふっ。どんどん飲んで下さいね~。二日酔いの症状が出たら、教えて下さい」
「あぁっ!? お前、またーー」
右京が立ち上がろうとすると。
「ーーまぁ、神崎君、これを飲みたまえ」
気取った声が不意に後ろから聞こえ。
紙コップではなくグラスに入ったルビー色の液体が目の前に差し出された。
「おう?」
「おいしいブドウだよ」
右京のアッシュグレーの瞳に映った人物は。
王子様みたいな、フリフリのブラウスに。
上質なオーシャンブルーのジャケットを着て。
アンティークチェアで、優雅に足を組んで座っていた。
右目にかかった、少し長めの水色の髪を。
きざな感じで、右手で掻き上げ、
「ふっ……」
花見とはかけ離れた出立ちの少年に、右京はぼそっと。
「お前には、色々突っ込みてぇ……」
何で、椅子に座ってんだよ?
何で、グラス持ってんだよ?
何で、マント羽織ってんだよ?
何で、剣持ってんだよ?
右京の心を知ってか知らずか、少年は気取った様子で、グラスを掲げ、
「君の瞳に乾杯っ!」
「何で、口説き文句なんだって!」
「まぁ、とにかく、飲んでくれ。僕が選んだ逸品だ」
少年はそう言って、さわやかに笑い、歯をキラリと光らせた。
「お、おう……」
何で、歯光ってんだって!
右京は心の奥底でひそかにツッコミながら、くぴっと一口飲んだ。
「……甘くねぇんだな、これ」
「いい香りだろう?」
「おう……?」
右京はルビー色の液体を見つめ、違和感を感じた。
少年は腰に差してあった剣をすっと抜き、その先端で、唐揚げを器用に刺した。
かなりーーいや、ものすごく食べづらそうに、剣を口元へ運んで。
パクッと食する。
「うむ……。このフリッターは美味だね」
「いやいや、それは唐揚げだって」
少年は目を細めて、感心する。
「ほぉ~、中身があるのに、空とは……。絶妙なネーミングだ」
そう言って、少年はワゴンに置いてあった、オリーブを差し出した。
「君もどうだい?」
「おう、サンキュウ」
オリーブの香りが口の中いっぱいに広がった。
右京は体の火照りを感じながら、
「てか、お前、誰だよ?」
「僕は隣りのクラス、お花畑でランララ~~ン組のーー」
「お花畑でランララ~~ンって、どうなんだよ?」
少年は持参したブルーチーズを刺していた手を、ふと止めて、
「ん?」
右京の質問の意味を理解したのか、納得顔で、
「あぁ、言い忘れたことがあったね」
「おう」
右京は一瞬真顔に戻った。
少年は剣を置いて、素早く椅子から立ち上がった。
咳払いをし、ジャケットを正し。
気取った態度で、
「僕はこう見えても、人族だよ」
右京はゲラゲラ笑い出した。
「いやいや、それは見りゃわかるって!」
お前、すげぇ笑い取ってくるじゃねぇか!
少年は気にした様子もなく、
「これは失礼。僕としたことが、自己紹介がまだだったね、神崎君」
「おう」
右京は笑いをこらえるのに必死だった。
前置き長すぎだって。
少年はマントの下から、右手を差し出して。
「僕は、スプラッタ ワイナリー。同じ人族として、君のことを歓迎するよ」
「おう、サンキュウな」
「いや、とんでもない。あははははっ……!」
スプラッタの妙な笑い声を聞き、右京はぱっとひらめいた。
「お前、ワイン好きだろ?」
「さすが神崎君。なぜ、わかったんだい?」
嬉しそうに身を乗り出したスプラッタに、右京は軽く突っ込んだ。
「まんまじゃねぇか、お前の名前」
「ということは?」
スプラッタはそう言って、含み笑いをした。
「はぁ?」
「そのグラスの中身は?」
上品に微笑んだスプラッタが、なぜか右へ傾き始めた。
「あぁ?」
右京はグラスに視線を落として、ルビー色の液体をじっと見つめ。
そして、気がづいた。
「あぁっ! これ、ワインかっ!!」
「そうだよ。僕がジュースを飲むわけがない。小さい頃から、ワイン好きだったからね」
「……あぁ~……」
世界がくるくる回り出した右京を置いて、スプラッタはカメラ目線で、
「お酒は20歳になってから。みんなは真似しちゃダメだよ」
急に全身がだるくなるのを感じながら、右京は、
「誰に……話しかけてん……だって?」
「地球にいる良い子のみんなにだよ」
「聞こえんのかよーー」
右京は言葉の途中で、青いシートの上にバターンと大の字に倒れた。
視界はくるくると回り続け、シャンデリアが幾重にも見える。
薄紫色の髪ーー菫が慌てた顔をのぞかせ、
「大丈夫、右京君っ!!」
次に、天使の笑みーー安斎がこんなことを言う。
「神崎君、二日酔いになったら教えて下さいね?」
人でなしな言葉のあと、ハウゼンのキャピキャピ声が。
「神崎君、登校時刻は8時10分だから、遅刻しないでね!」
クラスメイトたちの、ザワザワした声が次第に大きくなって。
「ハインリッヒ君、神崎君を部屋にーー」
その言葉を最後に、右京の意識は途切れた。




