初心者バンドマンにありがちな事 【一発目の練習で上手くいくと調子に乗る】
※2017/02/10
一部内容を本文から後書きに移しました。
それに加えて本文に修正をしました。
コピー練習を始めてから一週間が経った。
この日、先輩から話があると言われ部室に集まった三人の新入部員達。
部活初日のかしこまった態度は完全に消え失せ、今や部室のあちこちで適当に座ったり寝転がったりしていた。
先輩が部室に到着して荷物を置く。
そして直ぐに三人に向けて話を始めた。
「さて、コピー練習も始めた事だしそろそろ目標が必要かなって思うんだけど」
「えー。目標ならありますよ。とりあえず今コピーしてるアジカンの曲が現状人に見せたら死ぬ程度に恥ずかしいレベルなんで。それを若干恥ずかしいかなくらいのレベルに持っていく事です」
寝転がりながらベースを適当に弄っていた礼二が怠そうに答えた。
その隣に座っていた岳史は一心不乱にスコアを見つめている。
晴臣はドラムセットに座りながらうんうんと礼二の答えに頷いていた。
「いやもちろんそれも目標の一つとしていいと思うんだけど。ていうかしっかりコピーできるようになるのがベストだけど。もっと先を見た目標があっても良いんじゃない?」
「先を……? Fコードすら満足に鳴らせない僕に先なんて……」
「まあそれは、まあ、うん頑張ってくれ。あのね、文化祭で演奏してみない?」
「文化祭……!」
それを聞いた礼二が起き上がる。
「そう、文化祭。うちの文化祭って他の学校より少し時期が遅くてね。だいたい12月の頭くらいに毎年やってるんだけど。どうよ、そこで演奏してみない?」
「おおお!! 高校生バンドマンって感じして面白そうっすね! モテそうだし……」
「僕もやる!! 僕文化祭でたい! モテたい!! いや僕がモテる訳ねえだろふざけてんのか礼二君よぉ!! テメエほんとマジでよぉ!! そういうところだよ!!」
「えっごめん」
先輩が笑いながら晴臣の情緒不安定な発言を流しつつ、一枚のプリント用紙を取り出した。
どうやらそれが文化祭の参加申請用紙らしい。
「それじゃ申し込んでおくわ。ただ、うちの文化祭でステージに立つには条件があって……」
「条件……? い、一体何をしたら……」
岳史が不安そうに聞き返した。
「そう、一先ず五月下旬に開催される部活動発表会っていうのがあるのね。ここでまず全校生徒の前で演奏するのが条件なんだ。演奏は一曲だけでいいよ」
「うわぁ……。五月下旬って、あと一ヶ月っすか!? 俺らにできんのかな……」
「まぁまぁ礼二君。下手な演奏でも構わないからまず人に見てもらう事、ステージに慣れることも重要だよ。どう? 三人ともいけそう?」
「ぼ、僕はそんなめんどくさい事してまで文化祭に出たくは……」
ぼそぼそと愚痴る岳史を礼二が制止して、やたらと真っすぐな眼差しで先輩に返答した。
「やります! まあ実際一ヶ月もありゃ余裕っしょ! 一曲だけで良いならイケるって!」
礼二の返答を聞き、先輩はよろしくとだけ言って部室を去った。
どうやら職員室に部活動発表会の申請に向かうようだ。
晴臣が興奮気味に礼二に話しかける。
「じゃあ早速練習だね礼二君!! 早くベースをアンプに繋げよ!! ウスノロがよぉ!!」
「えっごめん」
「く、くそぉ……。やるしかないんだ……。やるしか……」
三人は練習に取り掛かった。
まだまだ演奏として聴かせられるレベルでは無いものも、少なくとも一週間前よりは形になっているようだ。
先輩から曲を分割して練習すると良いというアドバイスを貰っていた三人は、それに従い練習曲をイントロ、Aパート、Bパート、サビ、そしてアウトロに分けていた。
彼らは今イントロ、つまり曲が始まる部分の練習に励んでいる。
「おぉ……!!」
合わせてみたところ、思いの外上手くいったようだ。
三人は歓喜し、自信をみなぎらせていく。
「やれるぞこれなら! 一か月後、そこには最高のステージパフォーマンスを披露してゲロモテしてる俺の姿が!」
礼二達はその日、学校が完全に門を閉める夜七時まで練習を続けていた。
バンドマンにありがちな事 その8
【一発目の練習で上手くいくと調子出る】
勢い任せにバンド練習で合わせてみると、稀に全て上手くいったりします。
そこで自分達の実力を過信して練習をサボり、結果的に奇跡に頼ってステージに立つこともザラです。
バンドマンはギャンブル気質の人が多いのかもしれないです。