バンドマンにありがちな事 【わりと勢いで楽器と機材は購入する】
※2017/02/10
一部内容を本文から後書きに移しました。
それに加えて本文に修正をしました。
放課後になると礼二と晴臣の二人は直ぐに部室へ向かった。
岳史が先に来ていた。彼はもうギターを構えていて、いつでも演奏が出来るようにスタンバイしていた。
二人が部室に入ってくると岳史は二人に向けて何か言いたげな視線を送ってきた。
「な、なんだよ荒川、今日やたら得意げな顔してんな……」
「礼二君、気づかない……? 気づかないか……?」
「……ん!! 荒川君そのギターはもしや!!」
晴臣が岳史の構えていたギターに食いついた。
「そうなんだよハルオ君、僕、僕やってやった……。買ってやったのさ……。マイギターをね……!!」
それを聞いた礼二が身を乗り出してそのギターを凝視した。
たしかに部室に置いてある二本とは違うものだった。
「なにぃ!? 荒川お前、まだ早くねえか!? マイギターとかそういうステップには俺たちは早すぎねえか!?」
「これでいいんだよ礼二君……。プロだよ……、これで僕もうプロみたいなもんだよ……」
そこに先輩が入室してきた。
岳史は早速先輩にそのギターを見せびらかすように構える。
先輩はそれを見て笑いながら岳史に話しかけた。
「フェンダーUSAのストラトじゃん! 良いギターだよそれ。しかしそんないきなり高いところよく手出したなぁ」
「しょ、初心者セットでは僕の手はもう満足しなくて……。ふふ、ふふふ」
それには言葉を返さず、先輩は笑いながら部室のセッティングを始めた。
礼二はもう岳史のギターに興味津々だった。
「お前それ、それいくらするの!?」
岳史は押し殺したような笑い声を発した後、静かにその質問に答える。
「……聞いて驚くんだ。そして恐れるがいい。このギターは一本で20万円だ……!!」
「おぉ……!! なんと、なんとぉ……!!」
「しかし実際には値引きで17万で買えたよ……!! 月々ローン払いでね……!!」
「すげぇ!! ローン払いだってよ!! なんだよもうなんか今のお前全部かっこいいな!!」
岳史は得意げな表情のままEコードを押さえ、弦を弾いた。
彼は一週間このコードフォームしか練習していなかった為に、流石に綺麗な和音が聞こえる程度には上達していた。
それすらも礼二には特別なサウンドに感じてしまっていた。
「お、俺も買うぞ……! マイベースを買ってやる!」
「礼二君、覚悟するんだね……。僕は今まで貯めてきたお年玉を全て生贄に差し出したよ……! これからはバイトも始めようと思う……」
「構わねえ……、もう無理だもう我慢できない! 今日もう今からすぐに買ってくる! 金ならあるんだ!」
こうして礼二は部活を放って楽器店に向かう事に決めた。
晴臣もそれに着いていくという。
そして二人は部室を怒涛の勢いで去っていった。
楽曲のコピー練習をするという事を礼二も晴臣も岳史に完全に伝え忘れていた。
二人が向かったのは御茶ノ水である。
ここには多数の楽器屋が出店しており、東京近郊のバンドマン達はよくこの地を訪れていた。
「ここが御茶ノ水か!」
「礼二君、ベースはここならいくらでも手に入るよ!! どのくらい予算はあるの!?」
「咄嗟に下ろしてきたのは二万ほどだが、なんとかならねえか……!?」
「割と控えめだね礼二君!! まあ買えるから安心していいよ!! 僕の兄貴のバンドなんてパフォーマンスの為に壊すギターを毎回一万くらいで買ってるよ!」
「お前の兄貴のバンド強そうだな……」
二人は話しながらしばらく御茶ノ水を散策していた。
数十分ほど御茶ノ水の空気を満喫した後、ようやく楽器店に足を踏み入れる。
そこはメーカー直営の楽器店であり、様々な価格帯のギターやベースが所狭しと並べられていた。
そして礼二はベースコーナーにあった"それ"を見つけた。
「馬鹿な……、ベース本体にアンプとシールド付きで、二万だと……!!」
「ど、どうするの礼二君! 予算的にはギリギリ」
晴臣が最後まで言葉を発する前に、礼二は店員に声をかけていた。
「これ、買います! このセット、買わせてください!」
「えっ、あっ、ありがとうございます! その、いきなり購入ってのもアレですし、一応試奏とかしてみますか?」
「えっ試奏ってここでするんですか? この店内で?」
「そ、う、ですね……。こちらの椅子に座っていただいてっていう形になりますね」
「あっじゃあいいです、試奏はいいです。買います」
「ありがとうございます! ではレジへお連れ致します」
こうして礼二は初めてのベースを購入することになった。
バンドマンにありがちな事 その5
【わりと勢いで楽器と機材は購入する】
その場の直感で楽器やエフェクター(ギターやベースの音色に変化を付けられるもの)の購入をするという方は非常に多いです。
その場のフィーリングというものを重視しているという事でもあると思うんですがどうなんでしょう。
しかしこの買い方、意外と自分に合った楽器に巡り会えたりします。
そうやって勢いでポンポン高いものを買うので、だいたいのバンドマンは金欠に喘いでいます。