エピローグ
少年は始業式を終えて、体育館へ足を運ぶ。
そこでは、新入生の確保に精を出す各部活動の勧誘ブースがあった。
運動部からの熱い勧誘を受け、少年は困惑しながらもそれを往なす。
少年はこの高校で入る部活をすでに決めていた。
この高校の昨年度の文化祭に訪れた際に、体育館のステージで繰り広げられていたライブステージを目の当たりにして、少年は深く感銘を受けていた。
足早に運動部のエリアを去り、少年がたどり着いたのは軽音楽部のブースだった。
「あの、すみません、入部希望なんですけど……」
少年が恐る恐るブースに居た部員達に声をかけた。
「えっ!? す、すごいや!! こっちから声をかけなくとも人が来たよ!!」
晴臣が興奮する。
「そこの君、少し考えてみて! 軽音楽は確かに楽しそうだけど、吹奏楽部も青春を過ごすにはうってつけだし、軽音楽部の先輩方はみんな頭おかしいよ」
「やめろマミ横槍いれんな!! あとディスるな開幕から!! 出鼻複雑骨折か!! 来てくれてありがとう、それじゃとりあえずこちらの席へどうぞ」
礼二が少年に話しかけた。
少年は言われた通りに席につく。
少し緊張気味な少年の雰囲気を礼二は感じ取った。
「大丈夫だよそんな固くならなくても。そこにいる身体と声がでかいやつなんてしょっちゅう腹痛とか食中毒になる虚弱体質だし。奥にいる二人は見た目ヤンキーだけど、その片方なんて入学当時は」
「昔の話を出すんじゃねえ! 君も気にしないでいいからな。軽音楽部は誰でもウェルカムだ。あと頭のおかしい先輩なんていないから安心しな」
少年は恐る恐る礼二に話しかける。
「あ、あの、俺今まで楽器やったことが無くて。それでも大丈夫ですか……?」
「あー、全く問題ないよ! このブースにいる四人は今全員二年なんだけど、俺達の内三人は去年初めて楽器触った連中だから」
「そ、そうなんですか!? 凄い、それであんなライブをやれるなんて!」
礼二は驚いた表情を見せた。
「えっ!? 俺達のライブ見たことあるの!?」
「去年の文化祭で見ました! でも、さっきの吹奏楽部の先輩がドラム叩いてたような気が……」
「そうそう、そこにいるデッカイのが本来のドラムなんだけどね。あいつが当日食中毒になったから変わってもらったんだよ。いや嬉しいな、まさかライブ見てもらえていたとは」
「俺はあのライブを見て、それでバンドっていいなって思って」
礼二はその言葉を聞いて、思わず感極まる。
そして言葉を返せなくなってしまった。
賢人が礼二に変わり、少年の入部の手続きを行う。
「何泣きかけてんだよ礼二君!! いいなぁ羨ましいなぁ!! 僕が本来のドラマーなのに僕無しでベストアクトやるなんてなぁ!!」
「そりゃお前が体調管理しっかりしてないのが悪いんだろ!! 次の部活動発表会はしっかり頼むぞ」
礼二は晴臣に言葉を返した後、ブースの裏に移動した。
自分達がライブで誰かの心を動かすことが出来た事を知り、少し憧れの存在に近づいたような気がしていた。
「よかったね礼二君。あのライブ観て軽音に入りたいなんて」
マミが吹奏楽部のブースから現れた。
「うん。なんか、まだまだ先輩達には追いついてないけど、それでも嬉しいな。あの新入生にも、俺達みたいな体験をしてもらえるように頑張らないと」
「新入生、他にも入るといいね」
「ここで集まらなくても、部活動発表会で良いライブやって、部員増やせるよう頑張るよ。それが直近の目標かな」
マミは頑張れとだけ言って、吹奏楽部のブースへ戻っていく。
礼二は少しだけ笑い、軽音楽部のブースへと戻っていった。