バンドマンにありがちな事 【良いライブやった後は仲直りしやすい】
『Breakin` Convwntion』、この曲は作詞作曲を礼二が行っていた。
これまでの自分自身からの脱却をテーマにしていた。
それは、殻を破ろうともがいていた自分自身へ向けた曲でもあった。
が、今はそれを聴いてくれている全ての人達に向けて演奏していた。
Breakin` Convwntionは、ミドルテンポな楽曲である。
だが、決して大人しい訳では無かった。
どこか攻撃的で、尚且つ心地よさも内包しているサウンドは、観客達を不思議な空気感で包み込んでいく。
先程までとは違い、観客達は極端に騒いでいる訳では無かった。
だが、各々がそれぞれ自由に曲を聴いていた。
ある者は身体を揺らし、ある者は手拍子をしている。
礼二はステージ上から、観客達が思い思いに曲に浸っている姿を眺めた。
自分達の演奏で、それも自分達が作った曲で、こんなにも人の心を揺さぶれるという事が、礼二にはたまらなく嬉しく思えた。
曲は静かに最後のフレーズを終えた。
「ありがとうございました」
それだけ言うと三人はステージを去った。
歓声と拍手が三人の背中から押し寄せてきた。
ステージ裏に戻ると、ライブに向けて準備をしていた先輩が礼二達の元に走り寄ってくる。
「ありがとう、君達のライブのお陰で、俺は今最高の気分なんよ」
先輩は今まで見せた事も無いような底抜けな笑顔を礼二に見せた。
そして、ステージに向かう。
礼二は先輩に感謝された理由が分からなかった。
また、ころしやの面々も礼二達に声をかけてくれていた。
「マミも、なんか久しぶりに楽しそうだったね」
麻衣がマミに話しかける。
「うん、楽しかった。なんか、忘れてた楽しさを取り戻せたっていうか……」
麻衣がマミの頭を撫でる。
それ以上は何も言わなかった。
次に、岳史が礼二の元に現れた。
「……楽しそうだったじゃん」
「荒川もな。上手く言葉に出来ないけど、俺もお前もきっと居場所を見つけられたんだよ。だから楽しかったんだ」
「……ていうか、いい加減下の名前で呼んでくれても良いんだぞ」
「なんだよ急にデレやがって荒川! 荒川お前勝手にイメチェンした事を俺は許した訳じゃねえぞ荒川!!」
その時、ステージから大歓声が聞こえてきた。
FLATのステージが始まるようだ。
歓声に釣られる様に、ステージ裏に居た面々が客席を覗く。
先程までですら十分に人で埋め尽くされていた体育館は、更に窮屈に人で溢れていた。
FLATのファンが相当数駆けつけているようだ。
礼二達は客席側で先輩のステージを観る事を諦めた。
賢人だけは、意地でもFLATのライブを観るために、人ごみの中に突入していった。
礼二はステージ裏で、ライブを終えた他の面々と談笑しながら先輩のライブを聴く事にした。
いつの間にか、その場所にいた皆が笑顔だった。
FLATのライブの盛り上がりは凄まじい。
演奏中ですら歓声が飛び交っていた。
「なぁ、流石にあの盛り上がりには勝てねえだろ」
岳史が礼二に話しかける。
「分かんねえぞ、今の俺なら勝てるかもしれない」
「お前で勝てるなら俺でも勝てるな。もうプロだよ、俺達プロみたいなもんだ」
そんなくだらない会話すら、今の礼二には心の底から楽しく思えていた。