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THE BAND CRAFT  作者: ですの
31/35

バンドマンにありがちな事 【ライブの全てに身を任せる】

ニュースタイルクルーのライブはころしやに負けず劣らずな盛り上がりを見せていた。

岳史はギターを弾きながらラップをしていた。

曲はハードなサウンドの中にどこかキャッチーさのある個性的なもので、所謂ミクスチャーロックに始めて触れたであろう人達を盛り上げるには十分なパワーがあった。


「まだまだそんなもんじゃねえよなぁ!!」


岳史が煽ると観客が大声でそれに答える。

体育館に戻ってきた礼二は岳史のステージパフォーマンスを見て、不思議と気持ちが昂ぶっていた。


「すげえな荒川。あいつ沖山とかと一緒の時期に音楽始めたんだろ? 数ヶ月であんなにヤバいライブ出来るようになるなんて」


賢人は感心していた。


「好きなものにのめり込んだ事で発揮されたパワーみたいなもんなんだろうな。岳史はヒップホップとか好きだったらしいから」


「何だどういう意味だよ?」


礼二は何でもない、と言ってステージ裏に向かう。

マミと賢人が後に続いた。


「それじゃ、事前に一回くらい空音で合わせておく?」


礼二が二人に問いかけた。


「心配いらないよ。礼二君に息合わせるから」


マミは平然とそう告げて、晴臣のドラムスティックを拝借すると、イヤホンを装着してイメージトレーニングを始めた。


ステージから、大歓声と拍手が聞こえてきた。

それから間もなくして、岳史達ニュースタイルクルーの面々がステージ裏に戻ってきた。


「……あれ? ハル、細田はどうしたんだよ」


「アイツは食中毒にやられて保健室よ……」


「ふーん。まぁいいけど、お前ら折角盛り上がったステージを台無しにすんなよ?」


岳史は嫌味ったらしくそう告げて、メンバーと共に去っていった。


「心配ご無用、今日はやれる気しかしてねえんだ」


礼二は独り言を呟く。

過去のライブで感じた事のないほどの高揚感に包まれていた。

正規メンバーが欠けているという危機的状況で、何故こんなに気持ちが昂ぶるのか礼二には分からなかった。


「次出番の人達、準備が出来たらステージに上がって来ていいぞ。お、なんだ宮野、お前次出るのか」


吹奏楽部の顧問がまたステージの管理をしているようだった。


「はい、先生。急遽ですけど。私の本気のドラム、見せてあげますよ」


マミはそう答えて、不敵な笑みを浮かべる。


三人がステージに現れる。

礼二はアンプの準備をしながらマミの方に少し目線を向けた。

またも無表情だが、その表情から礼二は緊張では無く、自身と同様の高揚感を感じ取っっていた。


賢人がOKサインを出すと、ステージの照明が落とされた。


そして静かにギターを鳴らしながら歌い出す。

ざわついていた観客達が次第に賢人の歌声に耳を傾け出す。


新宿ジャンクでライブをした時とは、ステージ上も観客もまるで雰囲気が違った。

賢人の歌声はいつになく気持ちの籠ったものだった。

賢人は自分が礼二とマミの不思議な高揚感に同調している事に気付いていた。


不思議と気持ちが昂ぶっていく。

賢人は今なら最高のライブが出来ると確信していた。


一度、間を開けるようにギターと歌を止める。

観客席は静寂に包まれている。


「俺達がレミニスです。篝火という曲をやります、聴いて下さい」


短いMCの後、マミのカウントと共にバンドサウンドが静寂を突き破った。

篝火のストレートなロックサウンドが、たちまち体育館全体に響き渡った。

限界まで貯め込んで緊迫した空気を一気に開放するように、観客達が前列に押し寄せる。


今や体育館の誰もがステージ上の三人に視線を注ぎ、耳を傾け、身体を揺らしていた。

過去のどのライブとも明らかに異なるその空気感に、礼二は最初戸惑っていた。

が、それと同時に礼二の脳裏には、かつての部活動発表会で観た、三年生の先輩達のライブが再び思い起こされていた。

今まさに、礼二はあの時感じた空気の真っただ中にいる事に気付いた。


そして、何処からともなく楽しさが込み上げてくる。

気が付くと、礼二は身体が勝手に動いていた。


ベースラインが鋭くうねる。

自身のベースから発せられていくフレーズの一つ一つが、完璧にドラムと調和していた。


礼二は思わずマミに視線を向けた。

するとマミも礼二に目を合わせていた。


「息合わせるって言ったじゃん」と、マミは口の動きで伝えた。

礼二はリズムが完璧に調和していく感覚に酔いしれていった。


マミのドラムは、晴臣のドラムとは血色が違った。

大胆に力強く叩く晴臣に対して、マミのそれは繊細ながら適度に手数のあるフレーズを交えるタイプのドラムだ。

しかし、その別の種類と言って良いドラムでも、しっかり礼二と賢人の演奏にマミは同調していた。


そして、リズム隊の作り出したグルーヴに賢人は正確に追従していく。

歪みがかったギターのサウンドは他の楽器を邪魔する事無く、バンドサウンドの中に完璧に溶け込んでいた。


篝火の演奏が終わる。

残響の中、三人は目を合わせて、笑い合っていた。


賢人が、マイクから離れて二人に話しかける。


「ハルオが観たらきっと悔しがるぜ!」


礼二がすぐさま答える。


「じゃあ埋め合わせでもっとこれからもライブしないとな!!」


体育館は残響と大歓声に包まれていた。

そんな中、礼二がマイクを寄せて話し始めた。


「短いけど次で俺達のライブは終わりです! 観に来てくれた皆さんには本当に感謝してます! 次が最後の曲です! 聴いて下さい、『Breakin` Convwntion』」



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