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THE BAND CRAFT  作者: ですの
30/35

バンドマンにありがちな事 【体調管理怠りがち】

12月。

いよいよその日が来た。


文化祭である。


今、体育館に特設されたステージでは演劇部が劇を発表していた。

それが終わると、次はいよいよ音楽発表に移る。


出演順は事前にくじで決まっていた。


音楽発表の出演者は礼二達レミニスの他に、岳史の率いるニュースタイルクルー、麻衣を始めとする軽音楽部二年生達のバンドである『ころしや』、軽音楽部ではないがバンドを組んでいるという4人組のグループ、そしてFLATこと先輩の全5組だ。


順番はころしやがトップを務め、その後にニュースタイルクルー、そしてレミニスだ。

FLATは4番目の出演で、4人組のグループがトリになった。


「……以上で、演劇部の発表は終了です! 皆さん大きな拍手を!!」


会場から司会者の声と共に、割れんばかりの拍手が聞こえてきた。

ステージ裏の仮設の楽屋で出番を待っていた礼二の耳に拍手の音がはっきりと入ってくる。


「尋常じゃ無い人数がステージ観てるっぽいな」


「うううやめてくれよ礼二君!! 僕は今ただでさえ体調が良くないんだ!!」


晴臣は今朝から腹を下していた。

本人曰く、景気付けに朝食にカツカレーを食べ、目を覚ます為に大量のコーヒーを飲んでいたらしい。


「俺達の出番までになんとか回復しててくれよハルオ……。さて、おれは麻衣さんのステージを会場に観に行くよ」


礼二はそう言って晴臣の肩を叩き、客席に向かった。

礼二は会場に集まった人だかりを観て、少し緊張感を覚える。


今までに無いレベルの密度で人が集まっている。

部活動発表会では全生徒の前で演奏をしたが、今回は同じ体育館を用いているのに遥かに多くの人がいた。

他の学校から文化祭に遊びに来た人達や、生徒の親族なども観に来ているのだ。


その人ごみの中に居ながらも、礼二はマミの姿を見つけた。

話しかけようと近づくと、どうやらマミは女生徒数人に話しかけられているようだった。


礼二はそれとなくマミの方に近づく。

女生徒の一人は、以前新宿ジャンクにマミと共に観に来ていた和菜だった。


和菜達とマミの会話が聞こえてくる。


「えっ、そうかな……」


「しらばっくれてる感凄いよ。なんか自分は音楽解ってますみたいな雰囲気が凄いウザい」


「そんな事は別に思ってないけど……」


何やらとても不穏な空気が流れている。

礼二は思わず、彼女達の会話に聞き耳を立てていた。


「今だって、うちらと別行動でステージ観に来てたり、なに? うちらと居るのそんなに嫌ならはっきりそう言ったらいいじゃん。まぁ、うちも岳史君観に来たからたまたまここに居るだけだけど」


「いや、私はお姉ちゃんのライブとかあるし、友達が出るからそれで」


「まあ何でもいいけどね。とりあえず、うちら暫くマミとは距離置くから」


和菜はそう告げて、他の友人達とステージの前方に移動した。

少し間を開けて、礼二はそれとなくマミに話しかける。


「あの、宮野」


「ずっとそこに居たよね礼二君。さっきの私と和菜達の話、聞こえてた?」


「えっ!? いや、体育館はうるさいし、よくわかんなかったけど」


「……私、どうやら嫌われたっぽくて」


マミはいつになく表情が読めない。

礼二は何も声をかける事が出来ずに、マミの横にただ立っているだけだった。


司会者が声を張り上げた。


「さて、いよいよ次は音楽ステージの時間です!! トップバッターを務めるのは去年度の文化祭で伝説を残した『ころしや』の4人です!!」


それを聞いて大歓声が上がった。

生徒達が前方へ押し寄せていく。


「ま、麻衣さんのバンドって有名なんだね」


礼二がマミに話しかけたが、マミは無言でただステージを見つめていた。


ころしやのライブが始まった。


「あー、私達が、ころしやなんだって……」


いつも通り、麻衣が読めないテンションでメンバー紹介を始めた。

観客は、麻衣がいつ爆発するのかを楽しみにしているように、その一言一言に過剰にリアクションを取る。


そして、またもギター担当の紹介を行っている最中に麻衣が絶叫を上げ、素早くドラムカウントを入れる。

例の爆音が体育館中に鳴り響く。


最前列の観客は大騒ぎしている。

後方で観ていた礼二には、人の波のうねりがハッキリと確認できるほどだった。


「麻衣さんのライブは相変わらず凄いな……。宮野、俺達も良かったら前の方に」


「ごめん礼二君。私ちょっと外出るね」


そう言ってマミは体育館から出て行ってしまう。

礼二は慌ててその後を追った。


体育館の外はそこら中に仮設テントが設置されていた。

マミは人の少ない中にはまで移動すると、近くのベンチに座る。


「……ごめん、さっきの宮野と他の人達の会話、本当は聞こえてた」


「だろうね。私、確かに音楽の事に関してはこだわりが強いから、他の人から見たらウザく思われるんだろうなって、自分でも思ってた」


「でもさ、俺は宮野の音楽に対しての真剣な意見に救われたというか、そのおかげで今日のライブも頑張ろうって思えてるっていうか……」


礼二は言葉が続かなくなり黙ってしまった。


「私、中学生のころまで本当はバンドとかが好きだったんだよね。いろんなバンドの曲を聴いて、お姉ちゃんにライブとか連れて行ってもらったりして。ドラムも中学の吹奏楽部で始めたっていうより、お姉ちゃんに教わってたんだ。その当時仲の良かった友達とかにたくさんバンドのオススメとかしたりして。でもそれをやりすぎちゃったのかもしれない。中学三年生になる頃には私の周りにはもう友達とかいなくて。だからバンドの楽しさが分からなくなったんだ。というか、友達が居なくなるくらいならバンドなんか好きでいようとは思わなくなった。高校生になったら同じことをしないようにと思ってたけど、やっぱダメだったっぽい」


相変わらずマミの表情に色は無かったが、その声色はどこか震えていた。


「……それは、それなら別に無理して友達なんか作らなくてもいいじゃん」


「え……?」


礼二の意外な回答にマミは思わず驚いた表情を見せた。


「俺も中学の時、全く友達が居なかったのよ。でもそれは自分の趣味が原因とかじゃなかった。全くその逆で、なんにも興味の無いつまらない人間だったから誰にも話しかけられなくなっていったんだよ」


「確かにね、礼二君そんな感じの人っぽいもんね」


「確かにってどういう事だよ! ふいに悪意をぶつけてくんなよ!! ……まぁでも、高校入ってバンドに興味持ってさ、そしたら不思議と同じようにバンド好きなやつとかが次第に周りに増えてって……。まあ数人だけど。それでも友達が出来てさ。実際クラスメイトとはしばらく仲良くなれなかったけど、それも次第に最近は解消されてきてて、なんていうか、だから、何が言いたいんだかわかんなくなってきたぞ……」


礼二は少し考えを整理して、再び話し始める。


「……だからさ、趣味が合う人を見つけたらいいんだよ。趣味が原因で友達が居なくなるって確かに自分が悪いみたいに思えるけどさ、そうじゃないんだと思う。こんなに人がたくさんいるんだから気が合わない奴がいたっておかしくないんだから、そういう人達に無理に自分を合わせる事は無いんだよ。少なくとも、趣味が何もなくてずっと一人でいるよりも、趣味とか好きなものを追って生きてく方がずっといいよ」


「……うん、そうだよね、それはそうだろうけど……」


「気にすんな、とは言えないけど。まぁ、だから、俺はずっとこれからも宮野とは仲良くしていきたいって思ってるし、アドバイスとかも助かるし、だから、嫌かもしれないけど、少なくとも俺はずっと味方で居るからさ」


マミは少しだけ笑みを見せた。


「これって私、コクられてるの?」


「待ったまだ早い!! そうじゃない!! いや早いってなんだよ違うよ!! だから、とにかく」


「いいよ分かってるよ、ありがとね。そう言えば、荒川君のライブ、もう始まってるよね」


「あっ、まぁ、うん。忘れてた。体育館に戻らなきゃ……」



その時、賢人が駆け足で二人の元へ現れた。


「大変だ沖山!! ハルオがダウンした!」


「えっ!?」


「食中毒らしい!! やべえぞもう俺達のステージまで時間が無いのに!! ドラムが居なきゃどうしようもねえぞ!!」


「嘘だろ!? ここに来てこんなことに……」


礼二と賢人はあたふたしながらも、何も解決策が浮かばなかった。

すると、マミが立ち上がり二人に向き直る。


「私が代わりに叩こうか?」


「えっ!? いやそれはすげえありがたい申し出だけど、ていうかあの日ライブ観に来てくれた子じゃん! 途中でライブ止めちゃってすいませんでした!!」


賢人が土下座をしようとするのを制止しながら、礼二はマミの表情が少し活き活きとしている事に気付いた。


「すぐに叩けそう?」


「任せてよ。礼二君から音源貰ってたから、ちゃんと曲は覚えてるよ。あの二曲でいいんだよね?」


「……すまん、頼む」


三人は急いで体育館へと向かった。

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