バンドマンにありがちな事 【正直な感想もらえると嬉しい】
「あ、宮野」
礼二は学校の廊下でマミを見かける。
昼休み、11月の校舎は少し寒気を感じる室温であった。
「あ、礼二君。なにやってんの?」
「俺は教室が寒いから、温かいところで飯でも食おうかと」
礼二は最近ようやくクラスメイトと打ち解けることが出来ていた。
そして、打ち解けるに連れ何故か単独行動が増えるようになった。
この日も、暖房の入ってる教室で昼食を取ろうとはせず、他の場所へ向かおうとしていた。
「私もそんな感じ。どこに行くの?」
何故マミも教室で昼食を済ませようとしていないのか気になりつつも、礼二はそれを聞く事は無かった。
「部室かな……。何故か軽音楽部の部室はお昼に暖房入ってるんだわ」
「そうなんだ。着いていくね」
「えっ!? あ、別に構わないけど……」
二人は部室に向かう。
礼二はマミと話す時はいつも緊張していた。
女生徒への苦手意識なのか、或いは別の感情なのか礼二には分からない。
二人は部室で適当な姿勢になり、昼食にありつく。
しばらく会話が無い。
気まずさを紛らわすように礼二はマミに話しかけた。
「……そう言えば、この間のライブ来てくれてありがとう。あれどうだった?」
「んー。良かったんじゃない?」
礼二はありがとうと言って少し黙った。
が、本心ではマミの率直な感想を知りたかった。
自身は吹奏楽部に所属し、尚且つバンドの楽しさについて素直な疑問をぶつけてきたこの女生徒の意見は、きっと自分達の糧になると踏んでいた。
「……正直どうだった? マジで、マジで容赦無く率直な話聞かせてもらえたら嬉しいんだけど」
マミはしばし言葉を発しない。
何を言おうとしているのか考えているようだ。
「……そだね。強いて言えば、君達のバンドは余りにも自分達しか見ていないかなって」
「お、おう……。賢人のあれは俺達も予想外で」
「いや、古川君のアレは別に私はいいと思うよ。そうじゃなくて、ライブをやってる意味が無いように私には思えた。別にライブハウス以外でも曲の発表の場所はあるよ」
礼二は考え込む。
毎度の事ながら、マミの意見はダイレクトに礼二の心に刺さっていた。
「少なくとも俺は、自分達が本気で作ったものを演って、それを観てくれてる人達の心を動かせたら、それが最高かなって思ってて」
「それなら、もうちょっと他の部分も力を入れたほうが良いかもね。例えば礼二君は淡々と曲を弾いてて、それがスタイルならいいけど、私からは曲を弾く事だけに集中してるように見えたかな。だから、なんていうか観客は置いてけぼりみたいな、そんな感じ」
「な、なるほど……」
礼二は内心驚いていた。
というのも、オープニングアクトで新宿ジャンクに出演した後、ブッキング担当のスタッフからも同じような事を言われていたのだ。
「もっとさ、曲に身を任せてみたらいいよ。その姿を見て、観客の人達は惹き込まれるんだと思うよ」
「宮野すげえわ……。なんかお礼したいくらい感謝してる。そうなんだよ、俺はステージ上ではまだ楽しいと思えるタイミングが限定されてるっていうか、観客とかのリアクションに気持ちが左右されちゃってて」
「そうなんだ。なんにせよ、私も演奏で悩んでる事はたくさんあるし、そんなもんなのかもね」
二人はその後、しばらく会話もなく黙々と昼食をとり続けた。
昼休みも残り10分ほどになった頃、礼二はマミに改まって話しかけた。
「良かったらまた俺達のライブ観てくれないかな? 文化祭のステージでやるんだけど」
「良いよ。ていうかオリジナル曲の音源とかあったりする?」
「あ、あの、ここで録音した雑な感じのなら……」
「じゃそれ後で私に送ってもらえる? 礼二君やたら真剣だし、外部の意見が欲しいなら私もそれなりにしっかり感想言いたいから。予習させてもらうね」
「い、いやなんか、申し訳ない。色々と……」
「じゃこれ、私の連絡先ね。今登録しちゃって」
礼二は辿々しい手つきで、マミの連絡先を自身のスマートフォンに登録した。
マミはまたね、とだけ言って部室を去っていった。
直後、礼二は爆発したようにテンションが上がっていた。
「女の子の連絡先を、こんな自然に……!! なんだこの気持ちは!!」
午後の授業中、礼二は妙なテンションが持続し続けていた。
浮足立った礼二の様子を見て、何人かのクラスメイトは礼二に対して久しぶりに不気味さを覚えていた。
12月の文化祭まで、いよいよあと数日のところまで迫っていた。