バンドマンにありがちな事 【初めての作曲、何をしたらいいのか分からない】
「オリジナル曲で文化祭出よう」
「突然すぎるだろ礼二君!! 突然すぎるだろ!!」
夏休み最後の日、この日レミニスの三人は練習の為部室に集まっていた。
文化祭は12月の上旬に行われる。
文化祭のステージは1組15分ほど時間が与えられていた。
つまり、残り約三ヶ月で二曲作る必要がある。
「けど、何か案はあるのかよ」
賢人が訝しく尋ねる。
「あるにはある。二曲とも歌詞はどんな内容か決めてて、曲の雰囲気もイメージはあるんだ」
礼二はそう答えると、バッグからノートを取り出して二人に見せる。
そこには礼二のイメージする歌詞が載せられていた。
賢人と晴臣はしばらくそれを眺める。
「……意外と、悪くはねえな」
「確かに礼二君にしてはまともすぎる! そこまで中二臭くないし!」
礼二は次にmp3プレーヤーを取り出してミキサーに繋いだ。
「イメージしてる曲に近いやつを何曲か見つけてきたから、聴いてほしい」
そして礼二は何曲か再生する。
「こういう感じ。少し大人びてるというか、それでいて懐かしさもあるような、なんというか」
「意外だよ礼二君!! いつからシュガーベイブなんて聴くようになったんだ!?」
シュガーベイブ、山下達郎を筆頭に70年代に活躍した日本のバンドである。
その楽曲の数々は後のアーティストに多大な影響を与えている。
「夏休みに入ってから色々漁るようになって。他にも色々聴くようになったよ。ゆらゆら帝国とかサニーデイ・サービスとかくるりとか……。とにかく、何ていうかさ。今更ながら、バンドとか音楽にハマったんだよ」
礼二の作ったプレイリストから再生され続ける楽曲を聴いて、賢人が話し始める。
「やりたい曲のイメージはだいたい分かったわ。多分お前はシティポップとかその辺りのジャンルにハマってるんだろうな。イメージは大体伝わった。俺はいいと思うぜこういうのも。今まで俺はメロコアとかパンクとかばっかりやってたし新鮮だわ」
「僕もありだと思う! 高校一年生でこういうのやってたら相当面白いしね!」
二人の同意を受けて、礼二が嬉しそうにガッツポーズする。
「よし! じゃあ早速曲を作り始めようぜ!」
「やるぞぉぉぉ!!」
が、誰も動かない。
というより、何から始めたらいいのか分からなかぅた。
「……賢人! 何をしたらいいんだ!」
「あっ!? いや、何をしたらって、そりゃ曲を……。ていうか俺が中学の頃に組んでたバンドはオリジナル曲やってないし分からねえな……」
三人は曲の作り方が全くわからなかった。
しばらく考え込む。
晴臣が思いついたように提案する。
「ネットの力を借りるんだ!! 曲の作り方をネットで調べればいいんだよ!!」
晴臣はすぐさま部室に設置されたデスクトップPCで検索をする。
曲の作り方に関して、ブログや動画サイト等で様々な解説をしているページが多数ヒットした。
三人はそれをしばらく眺めていた。
「……なんか、難しそうだな」
礼二が呟く。
すると晴臣がとあるネット掲示板を見つけた。
「二人共見て!! この掲示板、『作詞作曲スレッド』だって! ここで質問してみよう!」
「すげえ! こんなものまであるのか! 現代に生きてて良かった!」
晴臣が意気揚々と書き込みを行う。
礼二と賢人はワクワクしながらその様子を見守っていた。
“初めまして!
最近高校の部活でバンドを組んで、作曲をしたいと思ったんですが何からやればいいのかわかりません!!
何からやればいいんですか!“
晴臣は文章を作成して書き込む。
数分後、晴臣の書き込みに対していくつかレスが付いたので三人が確認した。
「まず最初に服を脱ぎます……!? どういう事だハルオ!」
「分からないけど自然と一体になれってことなのかな!? みんな脱ごう!」
「お、おい待てお前らこれは多分」
賢人の制止を振り切り、礼二と晴臣は部室で全裸になった。
「次は!? 次は何をしたらいいんだハルオ!」
「えっと……。『好きな曲を適当に流しながら適当に楽器を弄ってれば嫌でも思いつくだろks』だって! ksって何だ!?」
「よし流せ! 大音量で行け!!」
部室のスピーカーから特大音量で曲が流される。
「他にはどんな事が書いてある!? すべて実行だ!!」
「えっと、他には『全裸見せろ』とか『ギターを持って踊れ』とか『無理に作ろうとしてもろくなもん出来ないから思いつくまで待て』とかそんな感じ!」
「こいつらに全裸見せないと曲は作れないのかよ!?」
礼二が焦りながらもスマートフォンのカメラを起動した。
「んな訳ねえだろ! お前ら二人共一旦落ち着けよ!! 信じるな! 嘘を嘘と見抜けない人はネット掲示板を使うべきでは無いって誰かが言ってた!」
その時、部室の扉が開かれた。
「お疲れ様。今日練習日だって予定表にあったから、暇つぶしに見に来たって何やってんだ礼二君とハルオ君!? え!? 全裸になるほど部室暑いのか!? なんで全裸で踊ってるんだ!?」
「あっ、先輩!! 久しぶりです! この間の野外ステージのライブたまたま観ました! すげえなんか感動して」
「まず服を着ろよ礼二君! いささかカオティックがすぎるよ!」
先輩は大笑いしながら二人に衣服を投げ渡す。
晴臣は思いついたように呟いた。
「ていうか先輩に曲の作り方聞いたら良いんじゃないかな!?」
文化祭まであと約三ヶ月。
レミニスの曲作りは始まった。