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THE BAND CRAFT  作者: ですの
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バンドマンにありがちな事 【言葉に出来ない】

夏季休暇の間、礼二がしていた事はバンド練習を含める楽器の練習だけと言っても良かった。

クラスメイトから遊びには誘われない為、日がな一日中ひたすら楽器を弾いていることもあったほどだ。


しかしこの日、礼二は晴臣に誘われて地元の花火大会を見に行くという約束があった。


まだ花火大会が始まるには少し早い午後四時頃、礼二は家を出て待ち合わせ場所の駅前に向かう。


通りを歩く人達は皆一様に浴衣を着ている。

ふと、その中に佇んでいるマミの姿を発見する。

同い年の女子の浴衣姿に、しばし礼二は見とれていた。


「あっ、宮野、久しぶりじゃん……」


しばらくして、礼二がそれとなく声をかける。

礼二の控えめな挨拶は人混みの中で掻き消されてしまった。

礼二はマミの事を見なかった事にして、晴臣達を待ち続けた。


しばらくして、晴臣が現れた。


「こんばんは礼二君!!」


晴臣の大声が駅周辺に響き渡る。


「お、おうハルオ。今日も元気だな……」


その声の大きさにヒヤヒヤしつつも、慣れた態度で礼二は返事をした。

二人は花火大会まで近くの公園で暇を潰す事にしていた。

というのも、この公園には野外ステージが設置されていて、そこでイベントが行われているのだ。


それを暇つぶしに観に行こうと歩き出した時、礼二達の背後から声をかけられた。


「ねぇ、君、沖山君だっけ」


マミに話しかけられた事に一瞬動揺しながらも、礼二は冷静さを装いつつ返事をする。


「おっ! たしか、宮野だっけ! こんなところで偶然だな!!」


「いやいや、さっき私に気付いてたでしょ。こっちに向かって何か言ってたじゃん。何言おうとしてるのかよく聞こえなかったから放っておいたけど」


「えっ!?」


礼二は顔が紅潮していくのを感じる。

晴臣が興味深々で礼二に話しかけた。


「礼二君の事を知っている女子!? 馬鹿な!! 有り得ない!!」


「あ、宮野、こいつはハルオっていう、その、軽音の友達」


「知ってるよ、部活発表のドラム観てたからね。はじめまして。私のお姉ちゃんが君のドラムについて色々意見言ってたよ」


晴臣が元気よく挨拶を返す。

身体も声も大きい晴臣の存在感は凄まじい。

また、礼二はあえて触れなかったが、晴臣は上下真っ赤な甚兵衛を着ていた。

次第に周囲の視線が集まってきた。


「こ、ここで話してるのもなんだし、どこか行かない?」


礼二が慌てて提案する。

発言して直ぐ、それがまるでデートの誘いのようだと思い、礼二はますます全身の火照りを感じることになった。

汗が滲む。


「ごめん、私はお姉ちゃんと待ち合わせてるから。花火大会の時間まで東公園でやってるステージをお姉ちゃんと一緒に見る予定なんだ」


「えっ!? 僕と礼二君もそれ観に行くんだよ!!」


「あっ、そうなんだ。それじゃ、折角だし一緒に行こうかな。お姉ちゃん来るまでもうちょっと待っててね」


マミはあっさり承諾すると、姉にその旨の連絡を入れた。


「あの、宮野の姉がハルオのドラムを云々って言ってたけど」


「あぁ、私のお姉ちゃんも軽音楽部なんだよ。今二年生でドラムやってる。なんというか、凄い感じの曲ばっかりやってるよ」


「あぁー、あの人か……」


礼二と晴臣は即座に誰の事を言っているのか理解した。

色々な意味を含め、二年生の先輩の演奏は二人にとって忘れられる物では無い。


三人が暫く談笑していると、マミの姉であり礼二達の先輩でもあるその人が現れる。

浴衣は着ていない。

パーカーにジーンズという、かなり気合の入っていない風貌だった。


「おいっす。あぁ、誰のこと言ってるんだと思ったら君達か。一年の、えっと……」


「あ、こんばんは。あの、俺は沖山礼二って言って、こっちの怪獣みたいなのは細田晴臣って言います」


「よろしくな、私は麻衣。うちの妹をナンパするとはやるじゃんね、ませてるじゃんね」


「んなっんぱぁ!?」


礼二は折角引き始めた汗を再びダラダラ流し始めた。

どんな伝え方したんだ、という非難の目線をマミに送るが、マミはまるでお構いなしといった表情だった。


四人はステージのある公園に向かい始めた。

その間、晴臣は麻衣からドラムに関しての、説教に近い話をひたすら聞かされる事になった。


「ねぇ、沖山君、一つ聞いていい?」


「えっ、何?」


「軽音楽、ていうかバンドって、どんなところが楽しいの?」


その質問に礼二は直ぐには答えられなかった。


「……なんでそんな事聞くの?」


礼二は質問に質問で返す。


「いやぁ興味本位だけどさ。私はバンドやってるお姉ちゃんの姿をずっと見てたけど、いまいち魅力が分からなかったっていうか、むしろ何が良いのか分からないっていうか」


「うーん。まぁでも、なんか最近は観てくれる人が自分達の演奏で楽しんでくれてる姿が嬉しいっていうか、それが魅力に感じてるかな」


「そっか、それはでも私達吹奏楽部も同じかな。そうじゃなくって、軽音楽の魅力を知りたかったんだけど、まぁ、いいや。なんかめんどくさい事聞いてごめんね」


マミはそう言って、スマートフォンに目を移した。

それ以上は何も話さない。


礼二は少し考える。

そもそも礼二がバンドを始めたきっかけは、目立てるという軽い気持ちからだった。

それが次第に変化していき、今では別の魅力に取りつかれている事は間違いない。

だが、それが何なのか礼二は説明が出来ないでいた。


四人は間もなく公園に辿り着く。

遠くから演奏が聞こえてきた。


「やっぱり読み通りだ!! バンドなんかも出てるんだ! 早く行こう礼二君!!」


晴臣が駆け出した。

その背中を追って、三人もステージまで歩く。


礼二は心の中の靄を押し殺す事にした。

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