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THE BAND CRAFT  作者: ですの
24/35

バンドマンにありがちな事 【練習日間違えがち】

八月。

太陽光が燦々と降り注ぐ。


礼二は汗だくに成りながら、長い坂道を自転車で登る。

夏季休暇に入って今日が最初の練習日だった。

時刻は13時を回る。


部室に辿り着いた。

室内は蒸していて外気を超えるような暑さに包まれていた。


礼二の他にはまだ誰もいない。

設置された冷房は室内からは操作できず、機能させるには管理室の職員に申請しなければいけなかった。


礼二は重い足取りで管理室に向かう。

しかし管理室は鍵がかかっていて、中には誰もいない。


仕方なく部室の窓を全て開放し、礼二は部室の床に横たわる。

礼二はまだ姿を表さない二人に連絡を取った。


しばらく待ったが、二人が現れる事も連絡が帰ってくる事も無かった。


そのまま横になって、礼二は目を閉じる。

校庭から運動部の練習する音が微かに聞こえてきた。

セミの鳴き声が耳に心地良い。

気がつくと礼二は眠りに落ちていた。


身体を揺さぶられ礼二が目覚めた時、目の前に居たのは賢人と晴臣では無く、一人の女生徒だった。


「……えっ」


「君、何してんの?」


「ん!? あの、あなたこそ何して……」


礼二はそこで言葉を詰まらせた。

この女生徒には見覚えがある。

高校生活初日、礼二に声をかけてきた吹奏楽部の生徒だ。


落ち着いた雰囲気で、肩までかかる黒髪が美しい。

校則通りのスカート丈の長さだった。

他の女生徒のようにメイクをしているのかどうか、女生徒とあまり関わりのなかった礼二には判断がつかない。

だが、礼二にはその姿がとても可憐に思えた。


「……えっと、あの今日は俺ら軽音部一年の練習日で、それでメンバー待ってたんですけど、そういえば今何時だ?」


「午後4時だけど。おかしいな、予定表には軽音部一年生の練習日は明日って書いてあるよ」


「えっ……!? ええぇ!!?」


礼二は慌ててスマートフォンを確認する。

賢人と晴臣から返信が来ていた。


“予定の確認はしっかりな“


“今日は僕は兄貴のライブ観に行ってるよ! 明日はよろしくね礼二君“


「うへぇ……。やっちまった」


礼二は頭を抱える。

一日を無駄にしてしまった気がして仕方なかった。


女生徒は素っ気なく話を続けた。


「まぁともかく、15時からここは私が予約してたから使わせてもらうね」


「使うって、何を……?」


「ん、ここのドラムセット。私は吹奏楽部で、ドラムやってるから」


女生徒は部室の窓を全て閉める。

冷房が効き始めた。

管理室に人が居なかったのは単に礼二が予定を間違えていたからだった。


「あっ、あのすぐ帰ります」


「良いってゆっくりしてて。君体調良くなさそうな顔色してる」


言われてみれば、確かに礼二は怠けを覚えていた。

汗だくのまま窓を開けて眠った為に、風邪をひいたらしい。


「……君、名前は?」


「えっ!? あ、俺は沖山礼二って言います、あの、一年です」


「私は宮野マミ。私も一年だよ」


それを聞いて礼二は飛び上がる。

激しい立ちくらみが襲いかかってきた。

身体をグネグネ曲げ、まるで未開の地の民族の奇妙なダンスのような動きを繰り広げながら、礼二は思わず言葉を発していた。


「えぇ!? でも、高校初日の体育館の部活勧誘で、俺に声をかけてきたのって君じゃなかった!?」


「あら、そうだったんだ。まぁ私は中学の終わりからこの高校の吸部の練習に参加してたからね。だから初日から勧誘側に回ってた」


「そ、そうなんだ。あ、あの、良かったら今度俺達ライブがあるんだけどそれに」


礼二が話しかけようとする。

しかし、マミがドラムの練習を始め、その音に礼二の声はかき消された。


礼二はマミに一礼だけして部室を去る。


遠くから運動部の練習する音が聞こえてくる。

太陽は少し陰りをみせているが、夏の日差しは相変わらず容赦無い。


自転車を走らせながら、礼二はその日少しだけ遠回りして帰路についた。

不思議な感覚だった。

マミの事をなぜライブに誘おうと思ったのか、礼二には分からなかった。


「まぁ、いいか。はぁー。一日無駄になったなぁ」


そんな事を呟きながら、礼二は自転車を走らせ続けた。


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