バンドマンにありがちな事 【ライブの魅力に取りつかれる】
レミニスは三曲目の演奏を終える。
ここで再び礼二がMCを挟む。
礼二には会場の雰囲気が最悪に思えた。
MCを始めても、ほとんどの人達が後ろで雑談をしている有様だ。
1曲目でのミスが尾を引き、礼二は二曲目、三曲目と次々にミスを連発してした。
それは、誤魔化せないレベルのものが殆どである。
「えー、そんな訳で僕達は今のメンバーでやってます。オリジナル曲とかもいつかやれたらいいなって思うんですけど」
礼二は話し続ける。
盛り上げる事を殆ど諦めていた。
(部活動発表会に次いでこれだ……。こんなのは思い描いていたのとは全然違うのに……)
礼二はどんどんネガティブになっていく。
MCの間、次の楽曲の準備をしている賢人と晴臣に目を向ける。
こちらの二人もやはりミスを連発し、暗い表情に様変わりしていた。
礼二のMCの声も次第に小さくなり、本来話そうと考えていた内容の半分を話したところで、次の曲に向かおうとした。
その時だった。
「うぉーい!! もう三曲終わってるじゃん!!」
「マジかよ!? 時間間違えてたか!!」
「うおっ、すげえ! ライブハウス来たの俺初めて! すげえ!」
騒がしく会場に入ってきた彼らは、礼二達のクラスメイトだった。
ぞろぞろと合計十人ものクラスメイトが現れる。
そして彼らはステージ前に集まってきた。
その姿を見てステージ上の三人は驚きを隠せなかった。
「あっと、ごめんなさい! じゃあ時間もあれなんで、残り二曲一気に行きます!」
クラスメイトの姿を見て、礼二は元気を取り戻した。
礼二にとってクラスメイトは、まだまだ仲が良い関係とは言えなかった。
それでも知っている顔が居る事が安心感を与えてくれていた。
賢人と晴臣も同様だった。
先程までの暗い表情は既に消え失せている。
晴臣の元気なドラムカウントと共に四曲目の演奏が始まった。
彼らが四曲目のコピーに選んだのはBEAT CRUSADERSのHit in the USAという曲だった。
BEAT CRUSADERSは五人編成のバンドだ。
礼二達はそれを三人で演奏できるようアレンジしていた。
先程までとはフロアもステージも、雰囲気がまるで違う。
クラスメイト達が前列で騒いでいる。
そのおかげなのか、レミニスのメンバーの演奏も様変わりしていた。
楽しい、と礼二は感じていた。
騒いでいるのは身内だけなのは承知している。
しかし、それでも自分達の演奏で誰かが盛り上がってくれる事が嬉しく思えた。
Hit in the USAの演奏を終えて、直ぐに最後の曲の演奏を始める。
レミニスが最後の曲として選んだのは、Hi-STANDARDのStay Goldという曲だった。
ベースボーカルの楽曲である為に、この曲だけは礼二がボーカルを務める事になっていた。
この曲はテンポが非常に速い。
演奏の難易度も初心者の礼二達には高いもので、練習では殆ど成功していなかった。
しかし、今の礼二達は不思議とこの曲を弾きこなしていた。
それが楽しさに拍車をかけているのか、晴臣が叫び声を上げた。
賢人も重厚な歪みのかかったギターサウンドを轟かせる。
礼二は慣れないながらもしっかりとベースボーカルをこなす。
楽屋やホール外に出ていた他の出演者達も、騒ぎを聞きつけたのかどんどんフロアに集まってきた。
そしていつしか彼らも、礼二のクラスメイト達に混ざって拳を振りかざしていた。
その光景を礼二はしっかり脳裏に焼き付ける。
いつかの部活動発表会で、三年生の先輩達のライブを見た時、礼二が思い描いた理想のライブ像に少しだけ近づけたような気がしていた。
「ありがとう!! ホントにありがとう!! 残り2バンドもしっかり楽しんでいってください!」
演奏が終わり、残響がまだ響き渡る中、礼二はそう挨拶して深く一礼をする。
そしてライブが始まった時とはまるで別人のような爽やかな表情でステージを去った。
この日を境に礼二の中で音楽やバンドは、より特別な物に昇華していった。
そして、やがて彼の人生設計そのものに影響を与える事になるのだった。
アーティスト名:BEAT CRUSADERS
曲名:Hit in the USA
https://www.youtube.com/watch?v=WjkYAKorvE8
アーティスト名:Hi-STANDARD
曲名:Stay Gold
https://www.youtube.com/watch?v=scqDV8X5-Xk