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THE BAND CRAFT  作者: ですの
22/35

バンドマンにありがちな事 【パニックと隣り合わせ】

ライブがスタートした。

礼二達三人は自分達の出番の直前まで、フロアで他の出演者のライブを見ることにしていた。


フロアは人が疎らである。

ゼックス日本が呼んだであろう客がステージの近くでライブを見ている以外には、ほとんどの人達が後方で腕を組んでいたり椅子に座りながらライブを観ている。


ゼックス日本が曲の間で観客に向かって煽りを入れている。


「もっと前出てきていいんだぞ! 跳ねていいんだぞ!」


それに対して出演者やスタッフ、前列の客が歓声を上げていた。

人は少ないながらも、ライブハウスの雰囲気というものを礼二は味わっていた。


「すげえな、こんなに人が少ないのにちゃんと盛り上げたりしてて」


礼二が賢人に話しかける。


「こういうイベントの時のライブは、出演者も割とノリが良いもんだからな」


礼二に返事をした後、賢人はゼックス日本の煽りに拳を掲げ大声を出す。

賢人に合わせて礼二もそれとなく“ノッてる“雰囲気を出していた。


が、その内心は穏やかでは無い。

ゼックス日本の演奏は確かに上手いとは言い難い。

だが、観客との距離を縮める為のステージでの振る舞いがとても上手かった。


その姿を見て礼二は極度に緊張していた。


ゼックス日本のライブが終わり、10分程間が空いてザリガニクラスタの面々がステージに上がる。


その演奏を聞いて礼二は更に追い詰められる。

ザリガニクラスタの演奏は異常なレベルで上手かった。


晴臣曰く、彼らがコピーしているのはジャミロクワイの楽曲であるという。

どこか大人びていて、その上とてもノリやすい楽曲を完璧にこなすその姿に礼二は驚いていた。


「こ、こんな人達のあとに俺達がやらなきゃいけないのかよ!」


ザリガニクラスタが3曲目の演奏を始め、自分達の出番が近づいてきた事が礼二のか細い精神に更に負担をかける。


「それよりもMCほんと考えておけよ、俺は話さないからな」


賢人が礼二に念を押す。

レミニスはギターボーカルを賢人が務める事になっていたが、MCはやりたくないらしい。

その為に曲間の繋ぎは礼二が行うことになっていた。


「わ、わかってるって」


礼二は返事をした後、楽屋に向かう。

ライブハウスの楽屋は、基本的に1つだけである。

楽屋は次の出演バンドが優先して使える事が多い。


礼二は楽屋に篭り、ベースを片手に頭の中でシミュレーションを繰り返す。


大きな拍手が聞こえてきた。

ザリガニクラスタのライブが終わったようだ。


賢人と晴臣が楽屋に入ってきた。


「それじゃ、レミニスさんステージ準備始めるんで出てきてください」


スタッフに声をかけられ、三人がステージに上がる。


礼二はベースアンプをセッティングしながら、賢人と晴臣の様子を確認する。

二人共表には出さないようにしているが、緊張の色が見られた。


部活動発表会を行った学校のステージよりも狭い。

その為、メンバー間の距離も必然的に近くなる。

表情や立ち振る舞いからお互いの緊張感が伝わり合い、更に空気を堅くしていく。。


セッティングが終わった事をスタッフに告げ、会場のBGMが一瞬大きくなりフェードアウトしていく。


レミニスの初ライブが始まった。


「こ、えー、こんにちは。僕達レミニスはまだ結成して一ヶ月足らずのバンドなんですけど、あのっ、あれっ……?」


礼二のMCが止まる。

何を話そうとしているのか分からなくなった。


賢人が小声で礼二に話しかける。


「オッケーもういいからとりあえず始めちまおう!」


「わ、わかった。えっと、じゃあすみませんとりあえず1曲目やります! やりますね!」


礼二が晴臣に目配せをする。 晴臣の4カウントに合わせて、演奏がスタートした。


彼らが今回コピーした1曲目はAutopilot offというアメリカのメロディックハードコアバンドの楽曲だった。

これは賢人の提案によるもので、簡単でかっこいい楽曲をやるならこれが最初が良いと、賢人が全力で二人に勧めた為である。


演奏が始まる。

が、いきなり晴臣のドラムスティックが宙を舞っていく。

力み過ぎてスティックが折れたらしい。


晴臣が予備のスティックを取り出し演奏を続ける。

それを受けて、礼二は動揺してしまう。


頭の中で思い描いていた動きのあるステージパフォーマンスが全くできなくなった。

礼二は直立不動でベースを一心に引き続ける。


礼二がふと顔を上げると、観客達の姿が目に入った。

誰も前の方に出てきてはいない。


後方の壁にもたれ掛かりながら、こちらの様子を伺うように眺めている人ばかりであった。

これが礼二に更にプレッシャーを与える。


そして雑念に塗れた礼二はケアレスミスを連発し始めてしまった。


礼二が焦っている姿が観客にも伝わっているのが賢人には分かっていた。

その為、賢人は歌の合間に激しく動き回る。


1曲目が終わった。

この時点で礼二はもうボロボロであった。




参考までに。


アーティスト名:Autopilot Off

曲名:Long Way to Fall

https://www.youtube.com/watch?v=R-G-fQnEcH4

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