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THE BAND CRAFT  作者: ですの
20/35

バンドマンにありがちな事 【ライブ会場を見失う】

「おい!! どうするんだ俺達のリハまであと15分だぞ!」


礼二がかなり焦った様子で二人を急かしている。

今日はいよいよコピーバンドによる企画ライブの本番の日だ。


この日の予定は13時から各バンドのリハーサルを行い、17時にライブ本番が始まることになっている。

礼二達“レミニス“は14時からリハーサルを行う予定だった。


この時、時刻は既に13時45分。

急がなければならない。


三人は駆け足で駅を出て、ライブを目指す。



「どうしてこんなに僕達余裕がないんだ! 東京は詳しいって言うから僕と礼二君は賢人君のこと信じてついてきたのに!」


「馬鹿野郎共! 自分でも場所くらい把握しておけよ! それにハルオが悠長に飯食ってるからこんな時間になっちまったんだろ! ハンバーガーなんかその場で食えなきゃ持ってくりゃいいじゃねえかよ」


三人がファストフード店を出たのは13時20分。

そこから電車に乗り、10分程で会場に最寄りの駅に着いていた。


そこから15分間、三人は目的地を探して彷徨い歩いていた。


「冷めたら美味さが半減するだろ!! 僕にゆっくり飯も食わせねえとか抜かすならテメェ殺すぞ」


「うおお!? な、なんだいきなり怖い事言いやがって」


「慣れろよ賢人、あれがハルオだ」


礼二が賢人と晴臣を窘めつつ、スマートフォンの地図アプリで場所を確認していた。

ライブハウスの公式ホームページに掲載されているアクセスマップとそれを照らし合わせる。


三人の居る場所のすぐ近くにライブハウスが存在している事を地図は示していた。

徒歩5分圏内である。


しかし、その場所がいくら探しても見つからない。


「一体どうなってんだよこれ!! 迷路かよこの街!!」


「落ち着け沖山、もしかしたら会場は地下なのかも知れない。だから冷静に看板を探せ! まだ猶予はあと10分はある!」


三人は血眼になりながら、ライブハウスを探して辺りをうろつく。


5分ほどだった頃、晴臣が恐ろしいほど引き攣った表情で声を上げた。


「ま、待って二人共!! こ、これはまさか!!」


「どうしたハルオ!? 見つけたのか!?」


晴臣が自分のスマートフォンを見つめながら震えていた。


「や、やってしまった! 僕達が今日出る予定のライブハウスは『新宿ジャンク』だろ?」


「そうだよ! 早く探せ5分切ったぞ!」


「新宿ジャンクで検索トップに出てくるHPは古いものらしくて!! すぐその下に新しいHPがあったよ!! それによると今年移転したらしい!!」


三人が青ざめた。

つまり、三人はもうライブハウスの存在しない場所を探し続けていたのだ。


晴臣が急いで移転先の住所を調べた。

今いる場所から徒歩で5分かかる。


「良かった! ち、近いが歩きじゃダメだ! 5分はかかるみたい!!」


「う、うおおおお走れえええええ!!」


三人はライブハウス会場に向かって全速力で駆け出した。

休日の新宿はたくさんの人で溢れている。


三人は人混みに翻弄されつつも足を止めない。

気が気では無かった。


この日は六月にしてはかなり暖かい一日だった。

天気も快晴で、太陽がビルの谷間から顔を出し、燦々と輝いていた。


楽器を背負いながら走ると、とてつもない負荷が身体にかかる。三人は夥しい量の汗を流していた。

晴臣が足を止めた。


「も、もうダメだ! 僕お腹痛いよ!! 出ちまうよぉ!!」


「は、ハルオォォォ!! 耐えろ後少しだ!!」


「僕の事は放っておいて! 二人は、二人だけはなんとか会場に辿り着いてね!! 必ず僕も後から辿り着くから!! 二人とのバンド生活、悪くなかったぜ……」


そう言い残して、晴臣はその場で直立不動になる。


二人は晴臣を置いて会場を目指して再び走り出す。

ふと礼二が振り返ると、非常に奇妙な歩き方をしながら二人の後を追ってくる晴臣の姿が遠くに見えた。


礼二と賢人は先にライブハウスに辿り着いた。

急いで中に入る。


「あの、すみません僕らレミニスです! リハ今からすぐ準備しますんで!」


礼二と賢人が急いで肩に背負っていた楽器を降ろし、チューニングにかかろうとする。

すると、ライブハウスのスタッフの一人が笑いながら二人に話しかけた。


「よろしくお願いします。いやね、その汗の量を見るに全力ダッシュしてきた事はなんとなくわかるんだけどね、実は2番目にリハ予定だった『ネギトロクラスタ』の人達が会場間違えたところに行っちゃったらしくて、それでリハの時間は10分押してるから安心してくれや。今音出ししてるのがネギトロクラスタの皆さん」


「えっ! じ、じゃあ間に合ったんだ! 良かったな賢人!」


「なんとか迷惑かけずに済んだな!」


こうして二人は安堵し息を整えた。

余裕を持って機材の準備を始める。


晴臣がライブハウスに現れたのは、それから30分後の事であった。

晴臣は先程まで履いていたズボンと別のものを着用し、手には買い物袋を持っていた。


「出ちまった、その、出ちまったよ僕」


「良いんだハルオ、それ以上言わなくて良いんだ……」


三人のライブが間もなく始まろうとしていた。


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