バンドマンにありがちな事 【暫定で付けたバンド名、大体は正式名称になる】
賢人が入部して一週間ほどが経過した。
三人は順調に練習を進めていた。
賢人と先輩の指導の甲斐あってか、楽曲のコピー作業は礼二達がバンドを始めたばかりの頃よりも捗っていた。
そんな中、解決しない問題点が一つだけあった。
「じゃあ、今日はそろそろ練習終わりにしようか! 僕もう腕が痛いからドラム叩けない!」
「お疲れー。さて、今日も例の時間だ」
賢人がかしこまる。
礼二と晴臣がパイプ椅子に腰を据えて、ノートを取り出した。
「えっと、じゃあ昨日までに挙がったバンド名候補の中から、また今日も絞っていく感じで。えっと、今のところ残った候補名はこの三つだな」
この時点で彼らは三つの候補に絞っていた。
一つ目の候補は、晴臣が出した『バッドエンドオーケストラ』だ。
「これは語感の良さで残してるけど、正直よく意味が分からねえ」
「僕にも良くわからないよ古川君! じゃあ、礼二君が考えたやつはどうだろう!?」
二つ目の候補は、礼二が出した『礼二&ザ・アゲインストマシーンズ』である。
「……いやこれは、これはちょっとな。むしろなんで候補に残ってるのかが分からねえ。沖山の付録扱いかよ俺達は。ていうかまんまレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのパクリじゃねえか」
「えっ、ま、まぁ今のところコピー主体のバンドだし、名前も有名なバンドのオマージュの方が面白いかなって。それにこの名前にはヒップホップが好きでバンドを脱退した岳史の怨念も込められている」
礼二が何故か自信ありげに答えた。
「でも俺達がコピーしてるのはレイジ全然関係ないだろ? やばい空気になると思うよ。このバンド名でライブハウス出たら出落ちにすらならねえと確信をもって言える」
「でもこの一週間候補に残り続けたって事は、ハルオも古川君もどこかで自分たちが『アゲインストマシーンズ』なんだって自覚が」
「そんなもんはねえよ! お前が執拗に推してくるからここまで残っちまっただけだよ」
礼二が残念そうに『礼二&ザ・アゲインストマシーンズ』に斜線を引いた。
そして最後の候補は先輩が考えてくれたバンド名だった。
「やっぱ俺はこれが良いと思うな。『レミニス』って、なんかしっくりこねえか?」
賢人がそう言うと、ホワイトボードにその名前を大きく書き上げる。
レミニス、即ちReminisceとは追憶を意味する英単語である。
「うーん。確かにかっこ良いと思うけど、それなら『バッドエンドオーケストラ』も捨てがたい」
「僕は正直もうバッドエンドオーケストラなんてどうでもいいよ!! 礼二君が気に入ってるって事は中学生にしか受けなさそうなバンド名って事だろうし!!」
「俺のセンスを疑い過ぎだろ!! 遅れてきた中二みたいに見られてたのかよ俺!!」
晴臣がノートに書いてあった候補名に斜線を引く。
「まぁ、とりあえずはでいいだろ。また後で変えたくなったら変えれば良い訳だし。とりあえず『レミニス』で行こう」
賢人の意見に二人は賛成する。
三人のバンド名はこうして暫定的に『レミニス』に決定した。