バンドマンにありがちな事 【よく知らないが、たまに周りに凄い人がいる】
放課後、礼二と晴臣が賢人を部室に連れ出した。
部室には既に先輩が到着していた。
昨日の部活動発表会で部室にある機材を使用した為、それ等の再配置と片付けをしていたらしい。
「お、二人共お疲れ様、荒川君はやっぱり戻ってこなかったか……。ところで二人の後ろにいる人はどちら様かな?」
賢人は怠そうにしていたが、先輩の姿を見た途端に態度を一瞬で改める。
「えっ……!? おいマジかよ、この高校に居るっていうのは聞いてたけど、マジか、本物だ……!!」
礼二が賢人の事を紹介しようとする。
が、それよりも早く賢人が前に出て、先輩の手を取ると興奮気味に話し始めた。
「す、すげえ! あの俺、マジでファンです! あなたの曲が初めてラジオで流れた時からずっとです!!」
「おーそれは嬉しいな。ありがとう。ところで君は新入部員って事かな?」
「いやまぁ正直決めかねてたんですけど、入ります!! 俺軽音楽部に入ります!! マジですげぇ、信じらんねえ……」
教室で見せていたような落ち着いた素振りを完全に捨てている賢人の姿を見て、礼二と晴臣は困惑していた。
「な、なぁハルオ、先輩ってなんかすげえ人なのかな……?」
「どうやら賢人のリアクションを見る限りそんな感じだね!?」
すると賢人が二人に向かって驚いた口調で話しかけてきた。
「嘘だろお前ら!? 一緒の部活やってるのにこの人の事知らねえの!? この人は」
「まぁまぁ、俺の話はまた後で。実際そんな大したもんじゃないんよ俺は。兎に角まずは君の入部手続きしなきゃだな」
先輩はそう言って部室の奥から入部届けを持ってきた。
それを賢人は受け取ると、凄まじい速さで書き上げる。
賢人の入部届けを預かり、先輩が部室を出た。
礼二が賢人に話しかける。
「じゃあ、早速だけど古川君、ギター弾いてもらっていい?」
「良いけど、ギターあんの?」
「ほら、そこのスタンドに二本あるから、好きな方を……」
礼二の指し示す先にあったギターの内の一本を見て、賢人が再び興奮する。
「うおっ!! これマジかよ!! マジで使っていいの!?」
「えっ、良いけど……。なんかそんな凄いギターなのそれ?」
「だってこれあの人のギターだろ!? このギターの画像見たことあるからな! すげえわ軽音楽部! 入って良かった!」
賢人のテンションの上がり様に二人は困惑していた。
晴臣が遠慮がちに話しかける。
「あの、僕達とりあえず12月の学祭での演奏を今は目標にしてて! その前にライブハウスのコピバンイベントにも出る予定なんだけど、何かやりたい曲とかある!? まだ何やるか決めてなくって!」
「曲決めまだなのか。じゃあ俺が好きな曲適当に流すから気に入ったのあったら言ってくれ」
少し落ち着いてきた賢人がMP3プレーヤーを取り出してミキサーに繋いだ。
賢人は時々、流れてくる曲に合わせてギターを弾いていた。
それを見ていた礼二は感心する。
「すげえ古川君。曲聴いてすぐ弾けるんだな」
「いやまぁこれはパワーコードだからな。大した事やってねえぞ」
「パワーコード……? あぁ、確かギタリストの切り札的なやつか」
「切り札って、大げさすぎだろ。なんだその表現、こんなもんむしろ初心者がよく使いがちな技だぞ」
「えっ、でもさっきの先輩がそう言ってたから……」
「間違い無いね!! 実際パワーコードはマジ万能だからね!! いややっぱすげえ人だよ!!」
礼二はこの日一日で賢人の扱いを徐々に覚え始めていた。
この日、三人は候補となる曲を複数選び、賢人のバンド経験を元にそこから最終的に四曲まで絞った。
三人は修行と称して参加するライブハウスのコピーバンドイベントに向けて、それらの曲の練習を始めることになった。
「……ところでよ、なんてバンド名なの?」
「えっ!?」
「そう言えばバンド名は何も考えてなかったよ!! ついでに決めちゃおう!!」
礼二と晴臣、そして賢人の三人は、残りの時間でバンド名を決める為の相談を始めた。