バンドマンにありがちな事 【新メンバー選びはフィーリング次第】
晴臣曰く、このクラスにはまだ五人ほど無所属の生徒が居るとの事だった。
「あ、あの、そのいきなりごめん。昼休みなのに。今ちょっと時間良い?」
「僕達軽音楽部なんだけど!」
礼二と晴臣が最初の一人に恐る恐る話しかける。
その生徒は如何にも話しかけてほしく無さそうなオーラを発していた。
二人はそれを瞬時に感じ取り、素早く身を引きその場を去った。
「あれはダメだな。あの人と一緒にバンドやれる気がしない」
「羽田君はクールだからね! 礼二君とは違ってマジな奴だから!!」
「……まぁそれは良いとして、次は?」
「窓際の席に居る鎌田君! 彼も部活に入っていないよ!」
晴臣が指さした先に居たのは、金髪で耳にピアスを開けた生徒だった。
似たような姿の生徒達と大声で騒いでいる。
「鎌田君は絶対にダメだろ!! 鎌田君はダメだ!! ヤンキーだぞ!? 無茶言うなよ!!」
この高校に入ってから、礼二が最も注意を払っていた人物の一人が鎌田だ。
礼二は鎌田に近づかないように常に全力で距離を置いていた。
「でもそういう人の方がギターとか手を出してる確率が高いはず! 僕の兄貴は鎌田君をよりサイケデリックにした感じだし!」
「兎に角鎌田君は声かけるのはやめよう! たとえ楽器やっててめちゃくちゃうまくても俺は絶対に嫌だ! 人間が違い過ぎる! っていうかホントお前の兄貴何者なんだよ……」
「そっか! まぁ仕方ない! それじゃ次は……古川君だね、古川賢人君!」
晴臣が次の無所属の生徒である古川賢人を礼二に紹介しようとする。
しかし二人の元にその賢人が歩み寄ってきた。
「よっ。お二人さん、何してんの?」
賢人はとてもラフな口調で二人に話しかける。
「丁度良かった! 古川君、僕達いま君に用事があって!」
「ほぉ、軽音楽部の勧誘とか?」
「えっ、そ、その通りっす。す、すげえ、なんでわかったんすか……?」
礼二は少し怯えていた。
賢人はヤンキーの鎌田程ではないが、どこか不良めいたオーラを発していた。
髪は染めていないが、ミディアムショートで緩くパーマがかかっていた。
耳にはピアスを付ける為の穴が開いている。
身長も高くすっきりとした体形で、顔も整っている。
賢人の存在は早くからクラスの女子の間で話題になっていた。
少しやんちゃなイケメン枠の人物であると礼二は認識していた。
その為、賢人もヤンキーの鎌田と同様に、礼二の脳内にある"壁を作るべき人物リスト"に含まれていたのだ。
「いやさ、昨日のライブ見てて、新入生が三人しか居ないっぽかったから」
「それがね古川君!! 直後にギター担当が部活辞めちゃって今じゃ僕と礼二君の二人しかいないんだよ!!」
「マジかよ、やばいじゃん」
礼二は賢人に話しかけようとはしない。
晴臣にすべて任せる事にしていた。
だが賢人は晴臣との雑談を終えた後、礼二に話しかけてきた。
「沖山だっけ。よろしく。軽音部なんだな」
「えっ、あっ、はい」
「ベースはどのくらいやってんの? 結構ちゃんと弾けてたよな。ドラムが走ってもちゃんと追従しようとしてたし」
「えっ!? ま、マジっすか? あざっ、ありがとう! ベースは軽音部に入ってから始めたんだけど、あれはハルオがどんどん早くなるからホント大変だったわ」
賢人に褒められた事によって、心の壁が一気に崩壊し途端に饒舌になる礼二。
礼二の中の"壁を作るべき人物リスト"から賢人の存在が一瞬で削除された。
礼二が途端に馴れ馴れしくなる。
「でも、古川君なんでそんな俺達の演奏について理解を示してくれてんの?」
「俺は中学二年くらいから卒業するまでバンドやってたんだよ。ギターで参加してた」
「えっ!? 知らなかったよ古川君!! なんでその事話してくれなかったんだよ!!」
「いやまぁ、そのバンドは中学の終わりに解散したし、高校では別の事しようって思ったからな。それにハルオにバンドの話とかするとすげえ面倒な感じになりそうだったし」
礼二が大げさに頷く。
晴臣が興奮気味に賢人に話しかける。
「兎に角それなら話は早いよ! 今日部室に来てみて! 軽音部を見学してほしい!! 気に入らなかったら入らなくていいから」
「まぁ、別に暇だし。良いよ。そんじゃ放課後ね」
賢人はあっさり返事をして、教室から出ていった。
礼二が嬉しそうに晴臣の背中を殴った。
「やったじゃん! こんな簡単に新メンバーが決まるなんて。しかも経験者って、最高かよ」
「まだ入ってくれると決まったわけじゃないけどね礼二君! あと殴るんじゃねえよ後で後悔させんぞ」
「えっごめん。……それに、古川君は俺が思ってたよりも良い奴っぽいし。あいつとならバンド組んでやっても良い気がする!」
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
二人はこの後の授業の準備の為、自分の席に戻った。
礼二は新入部員探しが上手くいった事と、友人が少し増えた気がした事に心が躍っていた。
すっかりテンションが上がっていた礼二は、その後の授業中落ち着かない態度をとり続け、周りの席の生徒達から更に気味悪がられることになった。