バンドマンにありがちな事 【ライブやると友達が出来る】
岳史が脱退した事によって、新入生はわずか二人だけになってしまった。
このままではリズム隊だけの極めて個性的なスタイルのバンドになってしまう。
二人はその状況を危惧していた。
その為、岳史が去った翌日から軽音楽部への勧誘活動を始める事にした。
昼休みになると二人は、部活動にまだ入っていないクラスメイトに声をかけようとする。
「ごめんハルオ、俺まだクラスの奴らと仲良くなってないから誰が無所属かわかんねえ……」
「嘘だろ礼二君!? もう一ヶ月経ってるのにまだろくに友達出来てないの!?」
「その、軽く挨拶する程度の人なら結構いるけど……。そういうハルオはどうなんだよ」
「僕はもうクラス全員の人と普通に話してるよ!!」
「あぁ、そうだったな……」
この一か月間で晴臣はすっかりクラスに馴染んでいた。俗にいう"弄られキャラ"のポジションに落ち着いている。
弄られる晴臣の姿を礼二はいつも見ていたが、その輪に入ろうとはしていなかった。
「頼むよぉハルオ、お前が声かけてみてよぉ……。なんかクラスメイト全員がさぁ、俺には悪い奴にしか見えなくなってきてんだ」
「んな訳無いでしょ! それに一緒に声かけに行くって決めただろ礼二君!! なんだよ急にコミュ障全開になりやがって!! カラスって、なるほどな! さては礼二君の昔のあだ名のカラスって絶対かっこいい意味のあだ名じゃねえだろ!」
「うぅ……。中学では自分ではクールキャラだと思ってたんだよ……。そしたら何故か根も葉もない噂が流れたりして、結果殆ど友達出来なかったんだよ……」
そして、嫌な思い出が一気に蘇ってきたのか、礼二はそのまま自分の机に突っ伏してしまった。
そんな過去の記憶が蘇りネガティブ全開の礼二の元に、クラスメイトの一人が歩み寄ってきた。
礼二がその生徒の顔を見上げる。
「おう! お前昨日の部活発表良かったぞ!」
「えっ、あっ、あの、あ、ありがとうございます……」
「なんで敬語なんだよ!? 同じクラスの岡崎だよ、サッカー部の! お前全然無口だから何してんのか知らなかったけど、バンドやってるとは思わなかったわ! だからハルオと仲良いのな! 応援してるぜ!」
岡崎が礼二に話しかけたのをきっかけに、近くに居た数人が礼二の机の方に集まってきた。
そして彼らが一気に礼二に話しかける。
「お前あれだべ沖山だべ? 俺さぁお前と一緒の掃除の班なのに何話していいのか分かんなくて声かけられなかったわ。バンド演奏面白かったぞ」
「わかるわー。超無口なんだもん沖山。あれか? 普段は低燃費な生き方してるけど、ステージ上で性格とか変わるタイプなん?」
「車の免許とれねえやつだな!」
「えっあっえっそのっ、うん、えっと、はい、ごめんなさい。ありがとうござ、ありがとう、あの、俺飯食うから、その、よろしく」
岡崎を初めとする数人は満足したのか礼二の机から散っていった。
突然クラスメイト数人と話した事がよっぽど心臓に悪い経験だったのか、礼二は少し震えていた。
「ほらね礼二君! 皆いい人だろ!? だから怖がらずに話しかけよう!」
晴臣が礼二を励ますように声をかけた。
「う、うん、そうだな。なんかそれに、あんな演奏したら馬鹿にされるだけかと思ったけど、そんな感じじゃなかったし……」
「部室では見る事の出来ないコミュ障全開の礼二君は、正直馬鹿にされて当然な感じだったけどね! それじゃ早速新入部員探しをしようか!」
晴臣が礼二の手を引き無理やり立ち上がらせる。
礼二は少し赤面していたが、先程までとは違い拒否する姿勢は見せなかった。
二人の新メンバー探しが始まった。
そしてそれは、驚くほど早くに達成されることになる。
何故ならこのクラスには居るのだ。
まだ部活動に参加していない上に、バンド経験のある生徒が。