表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE BAND CRAFT  作者: ですの
14/35

バンドマンにありがちな事 【ビックリするほど何もうまくいかない初ライブ】

※2017/02/10

一部内容を本文から後書きに移しました。

それに加えて本文に修正をしました。

ステージから響いていた爆音がいつの間にか止んでいた。

二年生部員の演奏が終わったらしい。


二年生達は大歓声を背中に浴びながらステージ袖に戻ってきた。


「いよいよだ、二人とも行くぞ」


礼二がそう言って真っ先にステージに上がった。

直ぐに岳史と晴臣もステージに出てくる。


体育館は先程の二年生の演奏を聴いてテンションの上がり切った生徒達で溢れかえっていた。

そして、次は何が出てくるのかという期待の眼差しをステージ上の三人に向けている。


岳史は視線に敏感らしい。

大勢の人間から注目を浴びる事に不慣れな彼は手元がおぼつかず、セッティングに時間を要していた。

晴臣はドラムセットに座り、先程爆音でドラムを叩いていた二年生部員の女生徒と一緒に調整をしている。


その一方で礼二はベースアンプのセッティングを直ぐに済ませ、シールドを繋ぎ、直ぐにでも演奏可能な状態にしていた。

先輩の家で特訓をしていた時にセッティングのコツを教わっていたのだ。


軽くベースのボリュームを上げ、アンプ側の調整をする。

調整と言っても礼二は音作りに関してはなんの知識も無かったので、一番良さそうなところでつまみを止めるという事を繰り返していた。


礼二が準備完了し二人に目を向ける。

晴臣もどうやらセッティングは終わったようだ。

岳史はアンプ側を向いてぼーっと突っ立っていた。


先輩がステージ袖から岳史に声をかける。


「どうした岳史君、セッティング良かったら俺やろうか?」


「それが、ぼ、僕のギター、音が鳴らないんです……。あとさっきチューニング中に3弦が切れました……」


「落ち着いて岳史君、ギターが鳴らないのは本体のボリューム絞ってるからだね。ギターの弦はもっと早く言ってくれれば俺が何とかしたけど、仕方ないから他の先輩のを使おう」


「い、いや、これで出ます……。僕の、僕のギターでやってみたいです……」


ステージを眺めていた生徒達がざわつき始めた。


「良し、三人とも頑張れよ。ライブを楽しめ!」


先輩が笑顔はそう言うとステージ袖で三人に向けてガッツポーズをした。


いよいよだ、と礼二は心の中で覚悟を決め、ステージに目を向けた。同じクラスの一年生達の姿が見えた。

これまでの一か月間の学校生活で礼二に向けられる事の無かった、興味と期待の入り混じった視線だった。


「やろう! ハルオ! 頼んだ!」


礼二が合図すると、狂気じみた表情にいつの間にか様変わりしていた晴臣が4カウントを入れる。

彼らの人生で初めてのライブが始まった。


晴臣が練習の時よりも明らかに速いスピードでドラムを叩く。

ドラムの音も少し力んでいるような、硬い音だった。


岳史と礼二がそれに合わせて弦を弾く。

礼二はこの曲の演奏はもはや全く問題の無いものだった。

特訓の成果が表れている。


しかし岳史は違った。

練習の時は得意げに弾いていたフレーズの多くを失敗してしまっている。

岳史の表情はもはや必死を通り越して無だった。


晴臣のドラムがどんどん早くなっていく。

そして彼は歌い始めた。


「おおおおおおおう!! ぬぉおおおおおおおお!!」


晴臣は真剣に歌っていた。

しかしそれは単純な絶叫に近いものにしか聞こえなかった。

声量が大きすぎてマイクが音割れしている。

そして歌いながらドラムを叩いているので、初心者の晴臣にリズムキープはもはや不可能だった。


どんどん曲は加速していく。

礼二は何とかついていったが、合わせるのが次第にきつくなってくる。

岳史はもはやドラムのリズムを無視する事に決めたらしく、間もなく曲がサビに入るところで淡々とAメロのフレーズを弾いていた。


それを聴いていた生徒達が笑う。大爆笑が巻き起こっていた。


礼二は必死に演奏しながら、その情景をわずかに認識した。

自分達が明確に笑い者になっている事に直ぐに気付いた。


途端に礼二は緊張に加えて恥ずかしさが込み上げてきた。

顔が真っ赤になるのが自分でも分かるほど火照っていた。


(早く終わってくれ! このステージから早く消えたい!!)


その間もどんどん晴臣が加速し続ける。

当初はミドルテンポで始まった曲は、今やハードコアやパンクに等しい速さで演奏されていた。

礼二のベースはその速度についていく事が出来ず、遂に脱落した。


晴臣のドラムが止まった。どうやら曲の最後まで演奏しきったようだ。

それを察して素早く礼二はベースのボリュームを絞り演奏を止めた。


ここでようやく晴臣は自分が走っていたことに気付いた。

そして2メートルはあるその巨体を隠すようにドラムセットの裏に蹲った。


ステージ上では岳史だけが無の感情でギターを弾き続けていた。


三人のステージを観ていた生徒達の爆笑は収まらない。

ヤジも飛んでいた。


「いつまで弾いてんだ! まさか曲後のギターソロかよ!」


「凄い曲だったな! 最初はアジカンかと思ってたけど、途中から明らかにカオスな音楽になっててヤバかった」


「やっぱ軽音部の部活発表会は毎年一番おもしれえわ!」


岳史が無表情のままギターを弾き終える。

そのまま一礼も何もなく彼は機材の片づけを始めていた。


晴臣が慌てて挨拶をしてそれに続く。

礼二も異常な速さで片づけを終えてステージから走り去っていった。


ステージ袖に三人が戻ると、三年生と二年生の部員が礼二達を迎え入れた。


「お疲れー! かっこよかったじゃん!」


「やるね今年の一年! 結構盛り上がってたし!」


「とにかくインパクトは残せてたな。これでまた部員増えるかもしれないぞい!」


しかし三人は、先輩達の激励に対して心の籠っていない返事をするだけで、そのまま体育館外にある準備室へ向かった。


準備室で荷物を纏める三人は皆一様に黙っていた。

礼二は先程言われた言葉を思い出していた。


(『盛り上がってた』か……。それはそうかも知れないけど、違うんだ。あんな盛り上がり方じゃダメなんだ……)


先輩が準備室に入ってきた。

礼二はもう先輩の前に言って一礼する余力も残っていなかった。


「三人とも、お疲れ様。今の君達の気持ちは俺にはよくわかるよ。だから、放課後反省会しよう。他の部員は打ち上げとかでどこか行っちまって部室には来ないから」


先輩はそれだけ言い残して準備室を去った。


礼二の脳裏では先程までのステージ上での全てが延々と再生され続けていた。


バンドマンにありがちな事 その13

【ビックリするほど何もうまくいかない初ライブ】

初ライブはとにかく様々な要素に平常心を乱されてしまいます。

観客の雰囲気などはその最たる要素であり、これに飲まれてしまう事が殆どです。

初ライブで失敗した事をいつまでも気に病んでると根暗になります。

バンドマンに根暗が多いのは、つまりそういう事かもしれないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ