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THE BAND CRAFT  作者: ですの
13/35

初心者バンドマンにありがちな事 【上手い人達に気圧される】

※2017/02/10

一部内容を本文から後書きに移しました。

それに加えて本文に修正をしました。


「……以上、手芸部の皆さんでした。ありがとうございます」


司会を務める生徒会役員の声を礼二は舞台袖で黙って聞いていた。

手芸部の次は吹奏楽部の発表で、その次がいよいよ軽音楽部の番だ。


部活動発表会当日。

4、5限目の時間をまるまる使用して、部活動の活動報告や勧誘を行う為に行われる、年に一度の定例会である。

各学年の全生徒が体育館に集められ、各部活動の紹介を観覧するというものだ。


結局リハーサルを行う事が出来なかった新入部員の三人。

部室でなんとかリハーサルを行おうとしたが、既に学校が閉まる時間になってしまいそれも叶わなかった。

その為、彼ら新入部員の演奏は正真正銘のぶっつけ本番となった。


晴臣は緊張のあまり二度ほど吐いていた。間もなく三度目の波が来たのか、彼はトイレへ駆け込んだ。

岳史はひたすらギターのチューニングをしていた。


そんな中、礼二だけは非常に落ち着いた態度で椅子に座っていた。


礼二には自信があった。

先輩に徹夜で指導をしてもらった成果を発表する機会を今か今かと待ち構えているのだ。


そこに先輩が現れる。


「一年生の皆は最後に出ることになるから、よろしく」


「マイロード、質問ですが何故一年が一番最後なんですか?」


「顔見せみたいなもんだからね。まあ気楽に頑張れよ。君たちはリハが出来なかったから演奏前にマイクチェックだけするからよろしく」


はい、と返事をしようとした礼二の脳裏に電撃が走った。

そしてさっきまでとは裏腹に彼は取り乱し始めた。


「ど、どうした礼二君、いきなり緊張のスイッチ入るタイプか君は」


「ち、違うんです! なんで気づかなかったんだ!! 俺たち、誰がボーカルやるのか決めてませんでした」


そこへスッキリした表情の晴臣が戻ってきた。

岳史も気を紛らわすためひっそりと近づいてくる。


「あれ!? 僕はボーカルは荒川君がやるものだと思ってたけど」


「えっ……。ぼ、僕は礼二君が先輩と特訓して歌もやるんだと思ってたけど……」


「おいどうするんだ!? アジカンやるのにボーカルレスって!! インストで押し通せるほど俺らは実力ねえぞ!!」


先輩が笑いながら礼二の肩を叩いた。


「まあ、ボーカル無しでも俺は面白いと思うけど。判断は君たちに任せたよ」


それを言い残すと、先輩は他の三年生達の元へ行ってしまう。

晴臣が血走った眼を礼二と岳史に向けた。


「ぼっ、僕が歌う!! この中で歌詞を覚えているのは僕だけだし!! どうせ二人ともこれが狙いだったんだろ!! クソ共が!! お前らはクソだ!!」


「た、頼んだぞハルオ……! お前の熱い思いを吐き出せ!!」


急遽ボーカルを務める事が決まった晴臣は急いでイメージトレーニングに入る。

それを見て礼二は一安心し、再び椅子に座って他の部活の発表を舞台袖から眺め始めた。


(目に物を見せてやる……! クラスの奴らもこれできっと俺に声をかけやすくなるに違いない)


礼二の落ち着きぶりとは裏腹に、岳史は緊張が限界に達していた。

力んだ手でギターのチューニングを続ける。


吹奏楽部の発表が間もなく終わる。

三年生の軽音楽部員が準備を始めた。

すれ違い様に二年生や礼二達一年生に声をかけてくれたが、返事をまともにしたのは礼二だけだった。


三年生はステージで準備を終えて、一瞬だけ間を置いた後、ドラムカウントに合わせていきなり演奏を始める。

ステージを観ている生徒達から歓声が上がった。


「すげえ、やっぱ三年はステージでの振る舞いがこなれてるな、なあハルオ」


「話しかけないで礼二君! ゲロと一緒に歌詞までぶちまけちまいそうだよ僕は!」


三年生が演奏している曲は相変わらず礼二は聴いた事が無かった。

恐らくステージを観ている生徒達の殆どがその曲を知らない。

しかし、そこには異様な盛り上がりが確かに在った。


ステージの目の前まで来て拳を掲げている男子生徒や、体育館の後方でサークルモッシュをしている生徒もいた。


「すげえ、これがライブなんだ……」


礼二はそれを観て、確かな感動を覚えた。

それと同時に、彼の中である価値観が崩壊していった。


「俺、こんな人達になりたいわ。なんかこれが本当のかっこよさなんだって分かった気がする」


「話しかけんなっつてんだろ!! 浴びせるぞ!! ゲロ!! 浴びせるぞ!!」


「えっごめん、独り言をつい……」


三年生の演奏が終わる。

礼二にはあっという間の出来事に思えた。


程無くして二年生がステージに上がっていった。


準備をした後、おとなしそうなドラムの女生徒が覇気の無い声で二年生部員の紹介を始める。

三人目まで紹介をした直後、我慢できなくなったのか彼女は奇声を上げた。


例の爆音が始まる。

しかし、リハーサルの出来事から音響の対策がなされたのかおとなしい音がスピーカーから鳴り響いた。

それにも関わらず、こちらも三年生に負けない盛り上がりを見せていた。

演奏を終えた三年生の軽音楽部員達もステージの前まで来て他の生徒と一緒に騒いでいた。


礼二はここに来て、初めて緊張感を覚えた。


「俺たちにこれが、こんな演奏ができるのか……」


礼二は一年生のメンバーに目を向ける。

岳史は何故か涙を流しながらギターを見つめていた。

晴臣はその場にもどしてしまったらしく、教員と一緒に掃除をしていた。


やるしかない、礼二は不安な気持ちを押し殺してその時を待つことにした。


参考までに三年生の演奏してる曲のイメージはこれです。


アーティスト名:He

曲名:designed

https://www.youtube.com/watch?v=dVJar_xYgmA





バンドマンにありがちな事 その12

【上手い人達に気圧される】

自分達の前に演奏する出演者が自分達よりも実力が上だと直感すると、途端に緊張してしまう人は多いです。

それを引きずったままステージに出ると小さな失敗を連発したりすることになるのでなるべく払拭するように努めたいものです。

一方で、中にはライバル意識を燃やして普段以上のパフォーマンスをする人達もいます。

緊張してしまった時はそんな人達を見つけて会話などしてみると良いかも知れないです。


ステージに緊張は付き物ですが、それをコントロールできるようになると心に余裕が出来ます。

そうなると自分でも驚くほど良い演奏が出来、ライブが楽しいと感じるようになってきます。

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