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THE BAND CRAFT  作者: ですの
12/35

バンドマンにありがちな事 【現場では不測の事態が頻発する】

※2017/02/10

一部内容を本文から後書きに移しました。

それに加えて本文に修正をしました。

リハーサルはとても簡単なものだと先輩は言った。

体育館に設置されたステージに機材が並べられている。


ここで簡単に一曲目の一回目のサビ辺りまで演奏するだけで良いらしい。


音響を担当する教師がアンプの向きやボリュームの調整をしていた。

この教師は吹奏楽部の顧問を務めている。

先輩曰く、軽音楽部の顧問は今日は来れないらしく、代わりに来て頂いたとの事だった。


「じゃあ次は軽音楽部の子たちね、まず三年生から」


その教師が声をかける。


「さ、三年生……?」


岳史が不審そうに呟いた。

何しろ新入部員の三人は今まで一人の先輩部員にしか接触した事が無いのだ。

三人はそもそも他に部員が居る事すら知らなかった。


ステージ上に三年生の部員と思わしき四人組が登場した。


「先輩! 先輩以外の先輩に会ったの初めてですよ先輩!!」


晴臣が興奮気味に先輩に話しかけた。


「あー。まぁ、そうか。紹介できなかったというか、三年はもう部室には来ないからな。二年も部室じゃなくて外部のスタジオとかで練習してるし」


「じゃあなんで先輩は部室に来てるんですか! そもそも先輩って何年生なんですか!?」


「俺は三年だよ。二年の終わりまで部長やってたんだわ。そんで今は進路も決まってて暇だから新入部員の勧誘とか教育とかやってるのよ」


先輩はそういうとステージ上に目を移した。


「じ、じゃあこの後、僕達挨拶とかしなきゃいけないのかな……」


「別にいいんじゃない!? 先輩以外の三年生はもう引退するって事みたいだし二年生も部室に来ないなら関係ないと思うよ!! 老害共はとっとと消え失せたらいいんだよ!!」


そうこうしている中、三年生の部員達のリハーサルが始まった。

礼二と岳史は勿論、音楽通の晴臣ですら聴いた事の無い曲だった。


そして、その演奏の上手さに三人は度肝を抜かれてしまった。


「上手すぎる……!」


礼二は思わず呟いていた。

岳史が震え出した。完全に気圧されている。


「ち、畜生!! 畜生!! ミスれ!! ミスりやがれえええ!!」


晴臣が絶叫したが、三年生は結局目立ったミスも無くリハーサルを終えた。

三年が片付けを終えてステージから去る。

吹奏楽部顧問の教師が次に二年生の軽音楽部員を呼んだ。


二年生の部員達の姿に三人は更に衝撃を受けた。

五人編成のバンドだが、ボーカルはグロテスクなデザインのマスクを装着し、ベーシストは上裸だった。

ギタリストは二人いた。

その内の一人は年齢不相応な量の顎鬚を生やしていた。そしてもう一人は女生徒で、アイドルの着るような衣装を纏っている。

この中に居て、至極まともそうな格好をしているドラマーの女生徒が完全に浮いてしまっていた。


「こいつら重い……、重い音楽をやるタイプの人間たちだ!! 気をつけろ礼二君と荒川君!!」


晴臣が二人に向かって叫んだ。

しかし二人は二年生の部員の格好を指さしては笑っていた。


「じゃあ、リハ始めますからお願いします」


「ギエエエエエ!! アアァァァアアァァアァァ!!」


吹奏楽部顧問の教師の気の無い掛け声の直後、一番おとなしく見えたドラマーの女生徒が奇声を上げた。

そして超が付くほどの高速2ビートを叩き始める。

そのあまりの速さに、演奏を聞いていた礼二達はリズムが全く取れない。


それに合わせているのかどうかは全く分からないが、ギターとベースが次いで演奏を始めた。

異常に歪ませたギターは音色では無く爆音を鳴らしている。

ベースとボーカルは他の楽器の音にかき消されているのか、もはや行方不明だった。


体育館に轟音が鳴り響く。

吹奏楽部顧問は笑いを堪えるように口に手を当てステージから目を背けていた。


二年生部員の暴走は止まらない。

リハーサルなのにも関わらずボーカルはステージを飛び出し体育館の床を転げ回り始める。


ギター二人はアンプのゲインをそれに合わせるようにどんどん上げていく。

ゲインとは、ギターからの入力信号をアンプに伝える量を決めるもので、これを上げるほどギターは歪みがかかる。


ベースも自分の音抜けの悪さを察し、合わせるようにゲインを上げた。


ドラムはもはや何を叩いているのかわからない状態に突入していた。


リハーサルは一曲の1サビまでという予定だったが、二年生部員達はどうなら最後まで演奏しようとしているらしい。


スピーカーから「バチン」という音がなった。

それと同時にドラム以外のパートの音が消える。


吹奏楽部顧問が慌ててミキサーをチェックする。

どうやらゲインの上げ過ぎでアンプが飛んでしまったらしく、間もなく吹奏楽部顧問からリハーサル中止の声がかかった。


ボーカルは何故か満足げな顔でよろしくとだけ言うとステージを去っていった。


吹奏楽部顧問が軽音部一年生、つまり礼二達に状況を説明する。


「アンプが死んでしまって、しかもちょっと二年生の演奏が長くて時間も押してるから、悪いが君たちリハ無しで。本番一発勝負で頼むよ」


「えぇ……?」


こうして翌日の部活動発表会本番の日に、彼らはリハーサル無しで出演することになった。


バンドマンにありがちな事 その11

【現場では不測の事態が頻発する】

例えば自前のシールドが断線していたり、エフェクターがライブ当日に電池切れや接触不良で使い物にならなくなったり、メンバーが寝坊してライブ会場に来なかったりします。

そんな事は日常茶飯事です。

そう言った自分達側発信のトラブルに加えて、ライブ会場側のトラブルも高頻度で重なる事は当然のようにあります。


ライブ会場とは、見る側も演る側も常にドキドキな不思議な空間です。

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