初心者バンドマンにありがちな事 【先輩の指導、凄い】
※2017/02/10
一部内容を本文から後書きに移しました。
それに加えて本文に修正をしました。
翌日。
晴臣は重い足取りで教室の扉を開ける。
昨日の礼二の一件で、いよいよ明日に控えた部活動発表会での演奏が失敗するに違いないと考えていた。
その光景を想像するたびに晴臣は不安に圧し潰されそうになる。
昨夜の部活の後からずっとその事ばかり考えていた為に晴臣は一睡もする事が出来ていなかった。
ぐったりとした顔つきのまま晴臣は自分の席に着く。
教室内に礼二の姿はまだ見当たらない。
(もうダメだ。晒し者になってお終いだ。クソがああああ!!)
晴臣は机に突っ伏した。
暫くして、朝礼の時間になった。
未だ礼二の姿は教室には無かった。
(礼二君、まさか本当に逃げてしまったというのか)
担任の教師が出席をとり始めた。
その時、教室の扉がゆっくり力なく開かれた。
礼二が焦点の合わない目をふわふわと動かしながら自分の席に着く。
遅刻ギリギリで到着した人間とは思えないその在り様を見て、担任教師が咎めるように礼二に声をかけた。
「沖山ぁ、お前せめて遅れてすみませんとかさぁ。最低限そういう事は言えるようになれよ」
「……えふまいなぁ、でぃい、いぃ、えぇ、えふまいなぁ……にぎってはなして、みゅうとして……」
よく耳を澄ませると、礼二は何かブツブツと呟いているのが聞こえる。
正気じゃないと直感で悟った担任は、出席簿にチェックを入れると礼二を抜かして他の生徒の名前を呼び始めた。
朝礼の間だけに留まらず、その日一日中ずっと礼二はブツブツと呪文のような言葉を発し続けていた。
各科目の教員は、質問の回答者に彼を指名する事を諦めた。
放課後になる頃には、礼二は大半のクラスメイトから不気味がられていた。
それでも彼の呟きは止まらない。
流石の晴臣も、今日の礼二には異常性を感じ取らざるを得なかった。
そして部活の時間になると、礼二はブツブツと言葉を発しながらふらふらとした足取りで部室に向かった。
晴臣はただ黙ってその後ろに着いていく。
部室に到着すると先輩が先に扉の前で待っていた。
礼二が途端にキビキビとした動きで駆け足する。
先輩の前でピタッと止まり、ベテラン営業マンのような綺麗なお辞儀をした。
「よろしい、休め」
「イエス、マイロード……」
礼二は手を後ろで組んで"休め"の姿勢をとった。
まるで軍人のようだった。
晴臣が恐る恐る先輩に問いかけた。
「せ、先輩! これは一体!? 礼二君に何したんですか!!」
「言っただろうハルオ君。礼二君を一日で使い物にして見せるって。これがその結果だ。俺は今の状態の礼二君に"ミュージックサイコ"とあだ名をつけた」
「絶対ヤバいですよ……。演奏とかできなさそう……」
いつの間にか部室前に居た岳史が礼二をまじまじと見つめながら不安そうに呟いた。
「まあ、試してみようじゃん。リハは五時から体育館だから、まだ少し時間あるよ」
四人は部室に入り、リハーサル前の最後の準備にとりかかった。
バンドマンにありがちな事 その10
【先輩の指導、凄い】
何事も先人の意見を聞くことは大切です。
ことバンドマンに関しては、ロックをやっている層が厚いため反骨精神に塗れた現場だと思われがちです。
ですが実際は先輩や目上の人達の教えに従い、実力を着実に付けていく人の方が当然ながら多いです。
そして先人の教えは自身の経験則を織り交ぜた実践的な内容です。
初心者の方は教則本などを利用して練習する中、どうしても引っかかる部分があれば、生の自分を見てアドバイスしてくれる先輩という存在に頼るべきです。