初心者バンドマンにありがちな事 【逃げるは恥だし役立たず】
※2017/02/10
一部内容を本文から後書きに移しました。
それに加えて本文に修正をしました。
それからおよそ一ヶ月が過ぎた。
部活動発表会がいよいよ二日後に行われる。
礼二達三人の新入部員は部室に集まり、各々の楽器を構えている。
礼二は絶望していた。
「ど、どうするんだよ……。もう時間が無いぞ」
「そんなこと言ったって礼二君! 君この一か月間殆ど練習してなかったじゃないか!!」
「だ、だってさぁ、なんかさぁ、一か月前はいけるとおもってたしさぁ。なんかさぁ、アレじゃん。実際いけそうだったじゃん?」
「いけねえから困ってるんだよアホ!! 礼二君これはマジで!! マジでギルティだよ!! 僕も荒川君もなんとか、なんとか一応聴けるかなってレベルまで演奏できるようになったのに!!」
岳史が不気味な笑みを浮かべながら唐突に曲のサビのギターを弾き始める。
そして安堵の表情を浮かべてはまたサビのフレーズを弾く。
「ふ、ふふんうふ……。僕もうこんなに弾けるようになっちゃって……。プロだよ……。僕もうプロだ……」
「な、なんだよ俺だって、サビくらい弾けらぁ!!」
礼二が岳史のギターに合わせてベースを弾き始める。
音が全く噛み合っていない。
リズムもバラバラである。
「な、何故だぁ!? なぜ合わねぇ!? おい荒川、お前のギターもしかしてチューニングがおかしくなってんじゃねえか?」
「ち、違うよ礼二君……。君が弾いてるところが違うんだ……。ピッキングのタイミングも不自然だし……。だいたい、礼二君は自分で言ったんだよ、このスコア見て『こんな単純なベースライン3日で覚えられる』って……。仮に今から頑張ってももう三日どころか一日しか時間は残ってないよ……」
晴臣と岳史の演奏は一か月前よりも遥かに上達していた。
"人にギリギリ聴かせられるレベル"に到達していたのだ。
その為、完全に遅れをとった礼二は焦りの感情が爆発寸前まで高まっていく。
嗚咽を漏らしながら必死にスコアを覗き込みベースを弾き始めた。
「うぅ……。どうして、どうしてこんな事に……。もう指も痛いし辞めてえよ……」
「頑張れ礼二君!! きっと何とかなるから!! あと一日あるよ!! 正直テメエは一日二日で何とかなるレベルじゃねえけどな!!」
「うぅ……。ハルオの当たりも日に日にキツくなってくるし……。もうやだぁ! 辞める!! 今日は帰る!!」
「ダメだ礼二君!! ここで逃げちゃあお終いだよ!!」
晴臣の制止を振り切り部室を出ようとする礼二。
しかしそこに丁度先輩が現れた。
「おーっす。やってる? って、どうしたんだ礼二君」
「あっあっせっ先輩っ、あのっ、俺今日は早めに帰ろうかなって」
「ならぬ」
「えっ」
「さしずめ、演奏が出来なくてビビったのだろう?」
先輩の雰囲気が普段と違う事に礼二も後ろに居た二人も気づいていた。
先輩は礼二を押し込み部室に戻らせる。
荷物を置くと礼二の方に向き直り、静かな声で一言だけ発した。
「特訓の時間だ」
「ひっ……」
礼二が思わずたじろぎ、後ろに転げるように倒れた。
まるで怯えたウサギのように身体を震わせ、慄いた視線で先輩を見つめる。
先輩がゆっくりと礼二の腕を掴む。
「今晩は、俺の家で徹夜で練習といこうや。なぁ、礼二君」
礼二は抵抗する事無く、返事をして直ぐに荷物を纏め始めた。
「そういう事で、礼二君は俺が預かって明日までにモノになるようにしておくから。二人は今日そのまま明日のリハに備えて練習しててね」
先輩はさわやかな笑顔で晴臣と岳史に指示を出した後、礼二を引きずるようにして部室を去っていった。
バンドマンにありがちな事 その9
【逃げるは恥だし役立たず】
練習をサボる癖がついてしまうと、もう後には大変な結果しか生まないです。