其の24 土下座は一級の芸術品
あと少しだけこの茶番にお付き合い下さい
書いてて楽しいものですから
では、お楽しみください
(o_ _)o
コツ、コツ、コツ……。
ゆっくりと近づいてくる足音、部下にあっさりと裏切られた彼女には既に味方は皆無であると言えた。
視線を近づいてくる者へと向ける。
年端もいかぬ少女でありながら彼女から発せられる気配はまさに帝の存在感と言えるものがあった。
〔話しかぁ…なんなんだろうねぇ~〕
少女をぼんやりと眺めながら考えるリアは意外と余裕であったのだが……。
「もう、駄目です。私の人生…終わりました……うわ~ぁん、こんな終わりかたイヤだぁ~」
涙で床を濡らしながら号泣するリーアムにリアは苦笑しながら頬をポリポリと掻く。
「大丈夫じゃない?殺気はないし?」
トリニティは無表情で近づいてくるため感情は読み取りにくいが、敵意や殺意といった敵愾心は感じられないためリアはそれほど危機感を抱いていなかった。
むしろトリニティの「大事な話」の方に興味が向けられており、好奇心が彼女の意識の大部分を占めていたのだ。
「…あなたが、リア?」
小首を傾げながらリアの顔を覗き込む。
「そうだよぉ~、んで、この娘がリーアム」
臆することなく返答したリアはクイッと親指を後ろに向けリーアムを紹介するとトリニティの視線がリア越しに彼女を見つめた。
「ひぃ~!?なに紹介してくれてんですかぁ!巻き込まないでくださいぃ~。あっ!?えっと、ご、ご、ご機嫌麗しゅう……えっとぉ、ふわぁ~ん!!御免なさい、すいません!もうしません!」
堪らず土下座しながら謝罪する。
既に何に対して謝っているのかも本人ですら分かっておらず唯々、額を床に擦りつけ号泣していた。
そんな彼女を無表情にジーッと見つめるトリニティの姿はなかなかシュールだなと他人事のように思うリアであった。
ただ、見つめられている本人は他人事ではない。
心臓がバクバクと脈打ち涙が止まらない。
〔……う~ぅ、まだ見られてるぅ〕
額を床に擦りつけながらチラリと視線をトリニティに向けたリーアムは生きた心地がしなかった。
「うんっ?どったの?なんか気になる?」
リーアムを見つめ続けるトリニティに興味本位でリアが尋ねると視線をリーアムから逸らすことなく小さく頷く。
「…うん…綺麗な土下座……芸術…一級品」
見事なほど予想外の答えにリアの瞳が点になる。
「えっ?芸術?土下座が…一級品って」
その言葉にいまいち理解できず、瞳を何度も瞬かせながらリアはトリニティが凝視するリーアムに視線を向ける。
「う~ん、確かに…言われてみれば」
確かに見方によっては芸術のようにも思えてくる。だが、それは結局の所、土下座慣れしているだけなのである。
身体を最大限に小さくした正座、その両手はキッチリ揃えられ真っ直ぐに頭の前に伸ばし、額は赤くなるほど床に擦りつけながら号泣と謝罪……土下座としては完璧な姿ではある。
「へっ?」
二人の会話に耳ざとく聞き耳を立てていたリーアムの耳がぴくぴくと反応し奇妙な声を上げた。
ただし、その瞳は床を見つめたままである。
ここで顔を上げる愚を犯すほど愚かではない。
ただ、二人の会話に希望の光が見えた気がした。
〔…なんか、助かり…そう?〕
この気を逃すものかとリーアムの足りない思考が廻るましく動き始める。片割れのディーバが見ていたら「…他に生かしなさい」と呆れた溜息をついていたかもしれない。
けれど、生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。
形振り構っている余裕など無い。
「…凄いね」
その声に『ここだ!』とリーアムの直感が囁くのを感じた。適切な答えが身を助ける最大のチャンスだと思い勢いよく顔を上げた。
だが、しかし……。
バシンッ。
トリニティの華奢な手が顔を上げようとしたリーアムの後頭部を叩いて押さえつける。
「ぐはぁ!」
トリニティの押さえつける力の強さに堪らず呻き声を上げるが、直ぐにその声も静かになる。
なぜなら……。
リーアムの顔面は床に埋没していたからだ。
「…………うわぁ」
その光景を遠くで見つめていたセレスは両肩に手を当てながら身震いする。
「ストレス堪ってんのかな………」
既に蚊帳の外にいる浩介だったが、その光景を目の当たりにして何となく感じる嫌な予感に項垂れてしまう。
そんな周囲の反応を余所にトリニティは気絶したリーアムを片手で押さえつけながら無表情に見下ろし不満げに呟く。
「それは…綺麗じゃない…顔を上げないで。あと、両手は真っ直ぐに伸ばして……うん、芸術」
顔面を床に埋め込まれ、ぴくぴくと痙攣しているリーアムの身体を器用に正しながら満足げな表情を微かに浮かべる。
その姿にリアは首をかしげる。
何が違うのか意味が分からないのだ。
ただ、その光景に尋常ならざる反応を示す者達がいた。雅とフェンリルである。
ーのぅ、フェンリル?
「何も言うでない……」
トラウマを思い出しガタガタと震えるのだった。
*
表情からは判りにくいがトリニティはかなり満足していた。生前、帝の職に就いていた頃に何度も見たものとは格が違っていたからだ。
その姿に美しくすら感じた。
そう、少女はドSなのだ。
他者を見下ろすことに深い快感を覚えてしまう。
日頃、見下ろされることの多い少女が
少女の意識にはすでに簀巻にしたニルの事など眼中になかったのだが、当の本人であるニルは芋虫のように床を這いずりながら血走った瞳でトリニティを睨みつけていた。
「…また、モフモフが震えてる、私のモフモフ、私のモフモフ…許せない……あの腐れロリババァ」
その姿は唯々……恐かった。
「ひぃ!?」
異様な気配に後ろを振り返ったフェンリルはニルの姿に頬を引き攣らせ奇声を発した。
正面にトリニティ、背後にニルが控えている状況にフェンリルは周囲を見渡し逃げ場を必死に探す。
そして近場で最も安全だと言える場所をフェンリルは見つけ出すことに成功したのだ。
目が合った瞬間、スッと視線を逸らされたフェンリルは諦めずにウルウルと涙目で見つめ続ける。
これで見放されれば待つのは地獄であるからだ。
それは必死である。
「…はぁ」
その執拗な視線に根負けした浩介は小さく溜息をついてフェンリルを見つめ返した。
「…なんだ、その視線は……」
嫌な予感が的中しそうで減なりとした表情で自分を見つめる瞳の主をジト目で見つめる。
正直な話、関わりたくない。
けれど、あまりに不憫な姿だった。
震える身体と涙目の瞳、それを見捨てられるほど浩介は冷たくはない。
「見ての通りじゃ…」
声が微かに震えていた。
気持ちは判らないでもない。
何せ一人は若気の至りで容赦なく毛を毟るドS、もう一人は…少し考えて浩介はフェンリルを助けることにした。
「俺の傍に来い…」
その言葉にフェンリルの瞳に輝きが宿る。
今まで身体が震えて動けなかったのが嘘のような機敏な動きでフェンリルは浩介の傍らへと飛び込んでいく。
「ふひゃぁ~、恐かったのじゃ……」
浩介の傍らでフェンリルは安堵の溜息をついて前足で目元を隠しながら小さく丸くなる。
その姿に思わず苦笑してしまう浩介だった。
〔あの嫌な予感は気のせいだったか…〕
そんな安直な考えが間違いだと気付き後悔するまで、それほど長い時間はかからない事に、この時の浩介はまだ気がつけていなかった。
簀巻のニルが二人の姿に別の狂喜を孕んだ瞳へと変化を始めていることに……そして、それらを悪戯っぽい笑みを浮かべながら楽しんでいるサツキがいることに…。
読んでいただき有り難うございます
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