其の21 無知と狂喜と腹黒…そして絶望
今回は短めです。
この下りちょっと長くなるかもしれません
何せ書いてて楽しくなってきましたので…なにとぞ生暖かい目で見守ってください
※土下座騎士ことリーアムは第三章、其の35 フェンリルの騎士から登場しております
では、お楽しみください
「…リア団長?」
土下座騎士ことリーアムは今、不思議な光景を目にして何が起きているのか理解できないでいた。
あの会議の後、姉であるディーバにこってりと絞られて漸く自由を得た彼女は通常業務の屋敷内巡回をしている最中の出来事であった。
うっすらと開いた扉の隙間に顔を埋めるようにして一心不乱に覗き見している上司の姿、その異様な光景に声をかけるなという方が無理な話である。
例に漏れることなく声をかけたリーアムであったが、リアは集中するあまり気付く様子もない。
〔…なにを見てるんだろう?〕
その姿に好奇心がリーアムの感情を刺激する。
本人は無意識であるのだが双子の姉に言わせれば厄災の元と一刀両断される感情なのである。
けれど、好奇心に抗わないのが彼女の信条であり不幸が待っていると知りながらも関与していくのが彼女の悲しいまでの性であったのだ。
ゆっくりと近付き、上司であるリアの頭上から彼女と同じように室内を覗き見たリーアムは思わず心の中で声を上げる。
〔おぉ……〕
流石に空気を読んで口には出さなかったが、盗み見た光景に自らの好奇心を最大限に悔いたことは言うまでも無い。
なぜなら……今まで見たこともない修羅場が目の前で繰り広げられていたからだ。
そして、脳裏には何故か理不尽に土下座している自分の姿がありありと想像できてしまった。
〔…これ、本当にヤバいやつだ〕
流石のリーアムもバカではない。
この場所にいることが自分にどのように向けられるかぐらいは容易に想像が付く。
先ほど脳裏に浮かんだ土下座程度で済むわけがない。表情を青ざめながらリアに気付かれないようにそっと離れようとする。
だが…。
ガシッ。
服の裾を掴まれてしまった。
「逃げられるとでも?」
その声に恐る恐る振り返るリーアムに満面の笑みを浮かべるリアの姿が視界に入り彼女はガックリと項垂れるのだった。
「私のバカ……」
小さく呟きながら自分の好奇心を恨む。
けれど、逃げることが叶わぬと察したリーアムは直ぐに好奇心に身を任せて開き直ることにした。
「…もう、楽しもう!」
かなりの楽観主義者である。
もし、ディーバがその光景を見ていたなら、額に手を当て深い溜息を漏らしながら二人を蹴り上げていたかもしれない。
しかし、この場には二人を止める者はいない。
結果として似た者同士、他人の不幸を楽しんだ代償として災難に巻き込まれることになるのだった。
そして、その原因となる光景はリーアムが上司を見つけるほんの数分前の出来事であった。
*
「じゃあ、顕現してみるが……なぁ?」
浩介は一途の望みを託しサツキに視線を向けた。
「…妾では救えぬ」
一刀両断の返答に後悔しか思い浮かばない。
意識内で最悪な予想しか想像できない中で彼女だけは妙にやる気満々であるのが苛立たしく感じた。
彼女とは…そう、この状況を生み出すきっかけとなった一連の行動を若気の至りと豪語するトリニティその人である。
〔…はぁ、なんでやる気なんだよ?〕
ー当然のこと…やられる前にやる
それが当たり前だと言わんばかりの答えに浩介は思わず頭を押さえ俯きながら溜息を漏らす。
そんな後悔の念に苛まれている浩介に対してさらに追い打ちを掛けるようにニルが詰め寄ってくる。
「どうされました?まだですか?まだ、彼女を顕現して貰えないのですか?」
血走った瞳で顕現されるのを待つニルの殺気じみた気配に溜息しか出でこない。
「流血沙汰は御法度だぞ……」
取りあえず釘を刺しておく。
「そんなことは致しません!ですから、早くあのモフリストの宿敵、諸悪の根源…いえ、崇高なる帝の人格を……顕現してください」
ニルの発言に心の声が一瞬、漏れたような気もしたが敢えて触れないのが心の平穏を保つ秘訣だ。
そう思った浩介は取りあえず打開策を模索するためにトリニティに改めて声をかける。
〔おい…揉めるなよ〕
不安感の否めない状況に無駄な足掻きだとは理解しながらも取りあえず彼女に忠告してみる。
けれど……。
〔…無理、来るもの拒まず〕
案の定、やる気満々でフンスッと鼻息荒く気合いを籠める彼女に浩介は頭を抱えてしまう。
〔いや…拒めよ、頼むから〕
それは浩介の切実な叫びである。
苦悩する浩介と瞳を血走らせながら今か今かと顕現を待ち望むニル、その姿に周囲の仲間達は傍観者を決め込むことにした。
そんな殺伐とした室内を覗き見るリアの口元は終始、緩みっぱなしでありニヤニヤが止まらない。
「グヘヘッ、何これ、サイコー!」
最低な人物確定である。
ただ、サツキだけは彼女の存在に気付いていた。
他世界とはいえ皇女である彼女が気付かないはずはない。リアの存在に気付いたサツキは彼女をどう巻き込むかを考えていた。
〔…彼奴を傍観者のまま放置しておくのは癪にさわるしのぅ。ふむ、どうするのが奴にとって痛手となるかのぅ〕
なにげに腹黒である。
表情に出さず、この惨事にどう巻き込むか考え始める。出来れば、痛恨の一撃を加えてやりたいとさえ思っていた。
その思考は当然と言えば当然のことである。
だが、まだその時ではない。
サツキの意識にリアとは別の存在の気配を感じたからだ。
〔…ふむ、あの土下座騎士の気配じゃな〕
その気配に微かな笑みを浮かべたサツキは自然な動作で扇を口元に当ててその笑みを周囲から誤魔化す。脳裏に名案が思いついたのだ。
もし、皐月の意識があったなら「…あんた、さいてぇ」と冷ややかな瞳で蔑まれるだろうとすら思える案であった。
〔あとは…役者が揃うてからのお楽しみじゃな〕
視線を二人へと向ける。
「お主ら…いい加減にせぬか?埒が倦かぬであろう。やってみれば良いではないか。何かあれば妾が力尽くで止めてやるゆえに」
なかなか先に進まぬ状況にサツキは少し少しだけ発破を掛けることにした。
それに先ほどサツキの実力を目の当たりにしたため、浩介も何とかなりそうな気さえする。
「…まぁ、そうだな…不安しかないけど…はぁ、仕方ないな」
まだ、不安げな表情を浮かべていたがサツキの言葉に覚悟を決めたかのように意識を集中し始める。
流石は業罪の皇女と言うべきかもしれない。
先ほど見せた自分の実力を上手く利用し浩介の思考を望む方向へと誘導してみせたのだ。
「じゃあ、顕現するぞ?我に潜む崇高なり帝の魂よ、汝を我の命により顕現する……トリニティ顕現」
トリニティの名を呼んだ瞬間、浩介は耐えがたい脱力感に襲われ眉間に皺を寄せる。
彼女の権限は四大精霊や雅とは比べものにならない程、浩介の生命力を根こそぎ奪っていく。
浩介の身体が淡い光に包まれ彼の身体が二重にぼやけ始め、徐々に離れていき片方が別の姿を形成し始める。
背丈は低く少し幼さを感じさせる。
「あ、あれが…モフリストの宿敵」
その姿が形成され始めるとニルの身体はわらわらと震え、血走った瞳は瞬きすら忘れて大きく見開かれている。
「…あとはもう知らん」
完全に別離した浩介は深い溜息をつきながら身体中の怠さに項垂れながらどうでもいいように呟く。
ビシッ。
項垂れていた浩介の耳に乾いた音が聞こえた。
「…うん?」
聞き覚えのあるその音に嫌な予感しかしない。
〔ははっ…まさかな?〕
顔を上げる勇気が持てず乾いた笑いを浮かべながらテーブルの一点を見つめる。
出来れば顔を上げたくなかったのだ。
そんな浩介の思いを裏切るように軽やかな声が彼の耳に届く。聞き覚えのある声であった。
「無事、顕現できた」
トリニティの声だ。
ただ、同時に……ビシッ!ビシッ!っと、何度も浩介の耳に乾いた音が響き渡り思わず両手で耳を塞いでしまう。
イヤな想像だけが脳裏を過ぎる。
〔いや、まさか……流石に……あり得るな〕
否定したい気持ちとは裏腹に否定しきれない音が浩介を現実へと引き戻す。
ビシッ!
何度も繰り返される乾いた音と周囲の者達の無言、それは浩介の想像を現実のものとしていた。
勇気を出して周囲に視線を向ける。
〔うっわぁ………〕
傍観者を決めた込んだ者達の蔑んだ瞳が突き刺さる。
流石のサツキですら予想外であったらしく頬を引き攣らせ苦笑いを浮かべ得ている始末だ。
その瞳を目の当たりにして浩介は悟った。
〔………………………終わった〕
顔を上げることなく浩介は人生の終わりを嫌と言うほど痛感する羽目になったのだった。
読んでいただき有り難う御座います
<(_ _)>
今回の一騒動はもう2、3話続きそうです
登場人物が増えてきたのもあるのですが個人的にモブキャラにも人生を!モットーにしている部分もありダラダラとなることをご理解頂けると幸いです
では、失礼いたします(o_ _)o




