其の20 エルフの価値観と無垢な好奇心
あらすじ
~タイミングの悪い状況で意識を取り戻した浩介、新たに取り込んだ帝の人格トリニティの過去の若気の至りに唖然とする。そんな中で、室内の光景を覗き見している者がいた…リアである。腹心の部下の束縛を振り切り楽しげに覗き見にふけるリア……~
では、お楽しみください<(_ _)>
腹心の部下が本気で転職を考えているなど露知らずのリアはフェンリルが浩介達の居る部屋に飛び込んでいくのを遠目に見ていた。
「あ~ぁ…ご愁傷様」
ニンマリと笑みを浮かべながら主であるフェンリルの行く末を想像して思わず表情が緩んでしまう。
面白い、楽しそう、興味がある、それらの感情はエルフの習性と言える感情である。
そして、それらは時に暴走する。
エルフ族の長であるエルズを見れば判るだろう。
そう、世間的に見れば迷惑きわまりない存在、それがエルフであり彼らの生き様なのである。
リアもそれを色濃く受け継いでいる。
なにせ、親がアレであるからだ。
「うっわぁ~!?ニルってば…流石の私もドン引きだわぁ~。いやいや、ないわぁ~」
ニルの醜態を覗き見ながら(主君であるフェンリルが揉みくちゃにされている状況はガン無視で)瞳を爛々と輝かせながら……楽しんでいた。
端から見れば薄情者にしか見えない。
つい数分前に発した「フェルだけは護ってあげる」の言葉が胡散臭さ全開に思わせる所行である。
だが、彼女には一切の罪悪感がない。
今の状況でフェンリルが命を落とす可能性が皆無だと判っているからだ。
なら、この状況を心ゆくまで楽しむ。
それがエルフなのである。
フェンリルにしてみればいい迷惑でしかない。
「ぐひひぃ、おっもしろ~い」
最低の守護者であった…。
そんな主の狼狽ぶりを楽しんでいたリアであったが彼女の感性が何かを敏感に感じ取った。
感性の赴くまま、視線を主君からある人物へと向け直したリアは思わずニヤリと笑みを浮かべた。
なぜなら、神器に取り込まれ意識を失っていた筈の浩介と目が合ったからだ。
〔……うふっ〕
直ぐに浩介からは視線を逸らされてしまったが、新しい楽しみを見つけ思わずにやけてしまった。
どう楽しむか、リアの思考が廻るましく回転する。なにせ、こんな楽しい状況は久し振りなのだ。
とことん楽しみたい。
リアの感性がそう叫んでいた。
もちろん、その感性に逆らう理由など無いリアは浩介がどう動くのか傍観する事にしたのだ。
最低な存在である。
そんな中で人知れず窮地に立たされていた浩介は今の状況をどう打開するかに頭を悩まされていた。
〔…ったく、碌でもない〕
思わず心の中で悪態をついてしまう。
類友などと考えてしまった自分に死ぬほど後悔しながら、何も思いつかない空しさに呆れてしまう。
ーなに…悩んでる?
浩介の苦悩に不思議そうに問いかけてくるトリニティに苦笑いを浮かべながら説明する。
〔俺の記憶を共有してみろ…そうしたら判る〕
意識を共有する事が出来るのが、こんなに便利であると思えた日はない。なにせ、口で説明するより鮮明に理解して貰うことが出来るからだ。
ー…えっと…ねぇ?
トリニティが少し口ごもりながら尋ねてくる。
〔うん?…どうした?〕
少し嫌な予感がした。
意識を共有すると言う事は浩介が知られたくない恥部すらも互いに共有することになるからだ。
ー…SMってなに?
最も触れられたくない最大の恥部をトリニティは数ある意識の中から的確に触れてきた。
暫しの沈黙が二人の間に流れる。
〔…えっとな〕
ーうん、なに?
〔それは忘れてくれ…〕
ー…なんで?興味ある…どうして裸の女の人が荒縄で縛られて喜んでいるの?
生々しい質問に思わず言い淀んでしまう。
〔…いや、それはな…〕
リアの存在よりも更に窮地に追い込む存在が自分の意識にいる事実に更に頭を抱えることになってしまった。
口ごもる浩介に純粋?無垢なトリニティが不思議そうに首を傾げている。意味も無く冷や汗がダラダラと流れ出す。
態と聞いてきてるのではないか?などと疑心暗鬼な思考が浩介を襲うが当のトリニティには思惑など一つも無い。
ただ、純粋に疑問に思っただけなのだ。
〔…とりあえず、機会があったら説明してやる〕
逃げることにした。しかも全力でだ。
ー仕方ない…でも、約束…必ず説明して
その言葉で完全に逃げ場を失ってしまう。どうやら、相手の方が一枚も二枚も上手だったらしい。
少女と言えど元帝である。交渉事で素人如きに後れを取る愚を犯すことはしないのだ。
〔あぁ……わかったよ〕
諦めるしかない。
意識の内で項垂れる浩介にトリニティの意識が明るくなっていくのが分かった。
ーじゃ、どの記憶を共有すればいい?
トリニティが意識内で姿を具現化する。
その姿はレースをふんだんに使った黒のゴシックロリータファッションに身を包んだ彼女が彼の意識に現れ、半ば強引に浩介も姿を具現化させられた。
〔じゃ、まぁ……行くか〕
トリニティの手を取り浩介は記憶の海に潜り込んでいく。その場所は幾つもの断片的な記憶が切り取られ周囲を漂っている。
ー…どれ?
そんな記憶の断片に触れながらトリニティはどれを見ればいいのか尋ねてくる。
〔あぁ~、それだ。お前の横の記憶…あぁ、それ…なんだけど…そうだよな。そうなるよな……〕
彼女の直ぐ傍に漂っているリアの姿が映し出された記憶を指差しながら浩介は何ともやるせない感覚に襲われる。
よくよく考えればリア絡みは碌でもない。
先ほどの恥部の疑問に答える方が遙かに楽な気がしてならないのだ。
浩介が思い出しただけでも皐月に踏まれる、鎖で縛られる、罵られ、それに対してリアが喜んでいる姿しか思い出すことが出来ない。
ー…さっきのと似てる?
小首を傾げる姿に返す言葉が見つからない。
〔…もう、いいや〕
浩介は達観したような表情で遠くを見つめた。
ー……うん、取りあえず迷惑そうな人って事だけは分かった…浩介、やさぐれてるから…可哀想
何故だか胸を抉られる思いがした。
涙が自然と溢れる。
ー何とかする…
何故か気合いを入れるような声で頷くトリニティの姿に浩介の背筋に寒気が走った。
〔…なんだ?嫌な予感がする…取り返しの付かないぐらいに悪いことが起きるような気がするんだが…とりあえず何をする気なのかを教えてくれるか?〕
ー私が顕現して全員を荒縄で縛る
トリニティの幼い小さな手には何故だか荒縄が握りしめられており、その表情はとても幼女には見えない艶やかな色気を漂わせていた。
その姿に脳裏を過ぎる『類友』の二文字を慌てて消し去り、浩介はトリニティに近付いていく。
ビシッ!
荒縄から乾いた音を出す彼女に浩介は思わずツッコミを入れてしまう。
〔駄目に決まってんだろ?〕
浩介のダメ出しに何が間違っているのか分からないような不満げな表情を浮かべる。
ーこれが名案、目にもの見せる…イタい
引き下がらない彼女に軽く頭を叩く。
〔その姿で荒縄とかホントに駄目な奴だから…マジで勘弁してくれ。俺の神経が疑われる…はぁ~〕
大きく溜息をつき額に手を当てる。
ーなら、どうするの?
至極まっとうな質問に浩介も頭を悩ます。
〔…もう、普通に起きるのが正解な気がするな。なんか色々と考えすぎると…ドツボにはまりそうだし、なんか人格を疑われそうだ〕
浩介の溜息交じりの声にトリニティは「う~ん」となにやら考え込んでいる声を出し彼女なりの最良な結論に至ったようだ。
ーじゃあ、意識を引き戻す
浩介がそれに答えるまもなく彼の身体が淡い光に包まれ、意識が肉体へと強制的に引き戻されていく。
〔おいっ!?心の準備が……〕
慌てる浩介にトリニティは冷静に返す。
ー必要ない…時間の無駄
彼女の声が徐々に離れていく。
ー何かあったら…呼んで
〔……あんまり変な記憶を漁るなよ〕
取りあえず釘を刺しておく。
トリニティならやりかねないからだ。
これ以上の恥の上塗りは耐えられそうにない。
ー…考慮する
言葉数少なめの彼女の声に漁る気が確定したと実感する浩介は大きな溜息をつくのであった。
*
強制的に意識を引き戻された浩介は小さく溜息をつきながら周囲を盗み見て自分に誰も意識を向けていないことに安堵した。
だが、どうやらそれは甘かったようである。
「意識があるなら起きるがいい」
サツキが目敏く浩介に気付き声をかけたのだ。
口元が微かに緩んでいるのは彼女の意図的判断に浩介がまんまと乗せられたことを意味する。
渋々と起き上がる浩介に周囲の者達の視線が突き刺さる。どこか警戒しているようにも感じられた。
どうやら、彼が取り込んだ神器の存在に興味を抱いているらしい………特にニルの瞳の奥深くに潜む闇が際立っている。
流石にサツキに窘められて殊勝な態度を取ってはいるのだが、どこか狂喜じみた雰囲気は拭えてはいなかった。
「取り込めたんじゃな?」
起き上がる浩介を見つめながら尋ねるサツキの瞳は心なしか陰って見えた。
「うん?あぁ……大丈夫、心配ない」
背もたれに仰け反り、凝り固まった首を回しながら答える浩介に……恐怖が、いやニルが躙り寄ってくる。
「浩介様!」
険しい表情でニルが詰め寄り、浩介はあまりの迫力に及び腰になりながら彼女の視線を受け止めた。
何だか危険な動物を相手にしている気分だった。ただ、その判断は適切であったのかもしれない。
彼女の瞳の奥深くの闇に気付いた浩介は視線を逸らせばやられると思ったからだ。
「な、なんでしょう?」
引き攣った表情で答える。
「彼女を顕現してください!どうしても…どうしても言わなければならないことがあるんです!」
常闇の神器が納まっていた木箱を指差しながら鬼気迫る表情でニルが詰め寄ってくる。
そんな彼女の姿に思わず頷きたくなる感情を必死に堪え、助けを求めて周囲を見渡した浩介はガックリと肩を落とした。
「…裏切りもん」
誰もが視線を逸らす状況に浩介は心の底から恨めしそうに周囲を見渡しながら呟く。
どうやら浩介とトリニティがリアについて話している間に彼女達、特にニルとサツキの間でなにやら話し合いがあったようなのだ。
だからか……と浩介は目覚めたときに声をかけてきたサツキの瞳が陰っているように見えた事に漸く納得がいった。
「すまんのぅ…妾には止められなんだ」
視線を逸らしながら謝罪するサツキに浩介はげんなりした表情を浮かべる。
「最低限の妥協案です!世界の命運もありますので刀傷沙汰は致しませんが……一言、言わなければモフリストとしての矜持に反してしまいます!ですから…どうか、どうか!彼女の顕現を!」
捲し立てるように一気に言い分を言い放ち、ニルは更に勢いよく浩介に躙り寄っていく。
「…お、おぅ」
浩介の目と鼻の先に彼女の端整な顔立ちがある状況にタジタジになりながら思わず頷いてしまう。
その姿に周囲に残念な空気が流れる。
「やはり、勝てぬか…」
「まぁ、必然ですね」
「私、お暇しても宜しいですか……」
サツキ、ミア、セレスの三人が哀しそうな表情を浮かべているのとは対照的に雅とフェンリルは過去のトラウマを思い出し終始ガクブルに身体を震わせている。
ーイヤじゃ……もう、あんなのはゴメンじゃ
「妾もじゃ……間違いなく血の雨が降る」
そんな周囲の反応に盗み見ていたリアの瞳が楽しげにキラキラと輝きを増していく。
「きましたぁ~、今日一の見せ場だねぇ~。さぁ、どうなるんだろう?ふふふっ、楽しみぃ~」
完全に他人事で楽しんでいるリアであったが彼女はまだ知らない……既に気付かれていることを。
人の不幸を楽しみ輩には必然と言って良いほど最悪な状況下で巻き込まれてしまうのだ。
そして、その必然を生み出す者が人知れず背後からゆっくりと近付いているのだった。
読んでいただき有り難う御座います
(o_ _)o
ブクマ、評価していただけますと嬉しいです
なかなか話が進まずにいますが最後まで書き続けますので長い目で見て頂けると幸いです
では、失礼いたします




